17話 そして私は問に答えた

その後、俺は長嶺高校に入学し渚と再会を果たしたした。だが、

「随分と元気ないな」

「それよりも中間考査は大丈夫だったのか?」

「別に平均点を取れば問題はないだろ?」

彼、雄斗もまた中学校の時に比べて変わってしまった。

「中学校の時はしれっと上位だったじゃん」

「それは俺とテストの相性が良かっただけの偶然だ。環境もレベルも違うし下がって当たり前だ」

それは関与してそうなことだがも成績が下がるなんてことがあるのだろうか。

「それで、何で元気がないんだ?また、天乃さん関連なのか?」

「まぁ、それもあるけど」

「本当に天乃さんは人気だよな。今日も告白されたって話を聞くし」

「それは柊木さんもだろ…告白されたのは知らなかったけど」

まぁ、断ったらしいけどな?と付け足した彼の言葉に安堵したがそれでも不安は残ってしまう。

俺は彼女とのを知らされたのは入学式を終えてすぐのことだった。

近くに居たと思っていた彼女は既に遥か遠くの存在となっていたのだ。

渚と再会して喜んだのも束の間、彼女はされていた。

まず、渚と同じ中学校の出身の人も多く友好関係が広い。

何より相変わらず文武両道は健在で話に出た実力考査でも柊木さんの後を追う2位の成績を収めていた。

そして、当然の如く俺が彼女の隣に立つ資格なんて更々なかったのだった。

「別に気にすることじゃないと思うけどな。多分、天乃さんは航以外の男子には興味なさそうだし」

「でも、俺は入学してから渚と喋ってないし帰ってもない。そんな関係だったんだよ」

「悲観し過ぎなんだって。俺と違って運動って才能があるだろ?友達も沢山、居るじゃんか」

「それはそうだけど…渚の隣には立てないし立てる訳もないんだよ」

「俺は別に有栖と気兼ねなく喋れるよ。幼馴染だって公開してないしな。気持ちさえあれば大丈夫だって」

「そう訴えられると反応に困るな…」

柊木有栖さん。彼女は雄斗の幼馴染でありながら此方もまた、渚同様に人気がある美少女だった。

「まずは話し掛けてみろよ。それで天乃さんの反応を見たら良いじゃんか」

そうだよな。と言葉を呈しつつも…もし、俺が考えるのと違う反応だったらと思うと不安になってくる。

「(そんなことを言うから喋れなくなるんだよ。玉砕覚悟でやらないとな)」

そう意気込んだものの…結局、俺は渚と話すことが出来なかった。

 ******************

「航くん。久々に帰らない?」

その日の放課後。渚からの言葉は俺にとって想定外な発言だった。

「渚が大丈夫なら俺は構わないけど…大丈夫なのか?」

「私が誘ってるんだから大丈夫に決まってるでしょ?ほら、早く帰ろ」

「それも、そうだな(渚と帰るなんて本当に何年振りなんだろう)」

3年、もしくは4年なのか。久々の出来事だったが、渚から声を掛けてくれることが嬉しかった。

「どうして…私を避けてるの?私が航くんに何かしたんだよね?」

学校を出ると開口一番に聞いてきた。今日、2人で帰る目的としてそれの真意を探りたかったようだ。

「別に渚のことを避けてる訳じゃないんだ」

「じゃあ、何で私が声を掛けようとしても逃げるの?」

「それは、他の人が変に思うかもしれないだろ。俺と渚が急に喋り出すとさ」

「どうして?別に私が誰と喋っても問題はないはずだよ?」

「渚も分かってるだろ。あんまり関係がない人と喋ると面倒ごとが増えるって」

「それは…。でも、私からすれば航くんは_」

「渚の地元の連中からすれば俺は別の学校の何の関係性も持たない第三者同然の存在だ」

「確かにそう、かもしれないね。ごめん、私の所為で迷惑を掛けて」

「何でそうやって謝るんだよ。俺の勝手なのに」

「だって、私がこうやって目立ってるから航くんは配慮してるんでしょ?」

俺は黙ってしまった。それは…事実だから。俺は渚と喋りたくても渚の立場を考えて喋らなかった。

俺に視線が向くのが嫌だから。俺が喋ろうとする所為で渚に面倒事が増えるのは申し訳ないから。

俺と渚は釣り合わない存在だから。渚には不自由なく生活して欲しかったから。

だから、俺は敢えてに入った。そうした結果、渚はどう感じたのだろうか?

「やっぱり…そうだったんだね」

「違う。俺が悪いんだ。俺が渚と釣り合ってないのが悪いんだ。俺の所為だ」

「私は…航くんに対して釣り合ってない…なんて思ったことないから」

「渚は他の人からも尊敬される『高嶺の華』だろ?」

「何でそうやって…逃げるの?ううん、違う。私が逃げてるんだね、私が…」

「渚が気にすることじゃないから…俺が悪いんだ」

「なら…学校でも喋ってくれる?」

「出来るかどうかは分からないけど…頑張ってみるから」

 ******************

「それで…何で喋らないんだ?今の流は完全に喋る流れだっただろ」

「喋るも何も恋愛禁止の校則があるのにどうやって喋るんだよ」

「そうやってすぐ逃げるの良くないし好意的に思ってる他の奴らだっ喋ってるぞ_振られてるけど」

「でも、前に比べて雄斗も柊木さんと喋る機会…減っただろ」

仕方ない奴だと言うと彼は読書中の柊木さんに声を掛けた。

「おはよう。柊木さん」

「おはようございます。それで、汐屋くん。どうしたのですか?」

「さっき、航に柊木さんと喋る機会が減ったとか言われたから…仲を知らしめようと」

「知らしめるも何も幼馴染だろ。確かに俺が悪かったけど呼ばなくても良かっただろ」

実際、事情を知らない周囲の男子がざわついてるしな。

「まぁ、私と汐屋くんの仲は早瀬さんも知ってると思いますよ」

「そ、そうだね」

「分かっただろ?俺はちゃんと話せるんだぞ。だから、お前も頑張れば天乃さんと喋れるんだぞ」

「そ早瀬さんと天乃さんも幼馴染ですそ私以上に仲良さそうに見えるのですが」

「そうなんだよね。なぁ、有栖。どうしたらへタレな航くんは喋れると思う?」

「さらっと名前呼びするなよ。傷付くだろ」

「傷付くも何も前々から呼んでるだろ」

「そうですね。もし、声を掛けにくいのなら私が遠回しに声を掛けてあげますけど…」

「それは…最終手段にしてくれないか」

「まぁ、喋り掛けるのは難しいですよね。崇拝してる方々も居ますし_」

え、何なの…渚って教祖なの?と驚愕の顔を見せると隣で流石の雄斗も引き攣っていた。

「知らないんですか?」

「具体的にどんな感じなんだ?」

「天乃さん自身は嫌がってるんですが勉強会を開くなどを行ったりしてることから崇拝してる方々も多く…」

「それだ!」

「え、急にどうしたんだ?」

「テスト前の勉強会で天乃さんと喋れば良いんだよ」

「確かにな…でも、本当にやれるのか?」

「大丈夫だ。俺は無策で行くような馬鹿じゃない」

 ******************

中間考査前、雄斗柊木さんのお陰で開催日を特定出来た。それが、今日の放課後ということだ。

「俺も知らなかったなぁ。そんなことしてるなんて」

「情報を伏せてるらしいしね。広めると収集付かなくなるって理由で」

「そうなのか。因みに参加人数どれくらいなんだ?」

「ざっと数えたら、40人前後だった気がするけど?」

「その人数の多さの時点で既に収集付いてない気がするんだけど」

「それはそうなんだけどね。まぁ、渚ちゃんも」

「まぁ、天乃さんは言えなさそうだよなぁ」

「早く行きますよ_。ほら、早瀬くんも」

「お、おう。って有栖も行くの?」

「行きますよ。仮に天乃さんを捕まえられなかったら私が教えますし」

「気が利くな。あ、物理頼んだよ」

「分かりました。どうせ、三角比の部分なのでしょう?」

「分かってるね。本当、数学で未修の範囲を出さなくれって思うわ…本当に」

その様子を見ながら俺は改めて2人が本当に仲良しなのだと悟った。

雄斗はクラスの中心人物かと聞かれると正直…其処まではないと思う。本人もそれは述べている。

それに対し柊木さんはクラスの中心人物で成績もトップだし運動神経も抜群。

雄斗の話では学校をより良くする為に生徒会も目指すらしく、渚同様に別ベクトルで完成された少女だった。

雄斗と柊木さんの立場は俺と渚のようだった。でも、確かな違いもあった。それは_。

「あ、来ましたね。柊木さん」

「ごめんなさい、遅くなって」

柊木さんが渚に声を掛けると此方を目配した。話を合わせて欲しいのだろう。

「(それもそうか。柊木さんの紹介で来たなんて言えばざわつくしな)」

「ど、どうして柊木さんと居るんだ?」

「あぁ、それはな。教室に入る直前に出会っただけだ」

前方に座る男子の質問に雄斗が軽く避けた。

「あ、そうなんだ。てっきり連れなのかと」

「馬鹿だなぁ。釣り合う訳ないだろ?」

そんな雄斗の様子をチラッと見ていた柊木さんが急に不機嫌な表情を見せた。

「(恐らくって言葉に不満なんだろうな)」

雄斗が言い訳の建前で使っただけだとは思うが柊木さんはそれでも怒っているらしい。

因みに渚はその様子を微笑ましそうに見ていた…真意は分からないけど。

「(柊木さんの感情なら何となく分かるんだけど…渚の感情は分からないんだよな)」

そう静かに溜息を吐くのだった。

 ******************

「(航は喋る気があるのか?)」

俺らの後に数人が合流して始まった勉強会なのだが肝心の航は天乃さんと全く喋る気がない。

先程から俺が教えて航が黙って解くの繰り返しで何も進展がなかった。

「(仕方ないな。俺がキッカケを作ってやるか)」

呆れながらも俺は天乃さんを呼んだ。

「天乃さん、ちょっと分からないところがあるんだけど」

「あ、はい。分かりました」

ちょっと待ってて下さいね。と了承を貰うと隣に座っていた航が声を掛けてきた。

「ちょっと…何をやってんだよ。何で声を掛けたんだ?」

「理由は明白だと思うんだけど?自分から話しに行かなかっ…」

「わ、悪かった。俺が悪かったよ。だから…その、ジト目で見ないでくれ。罪悪感が湧くだろ」

「どうしましたか?」

「あぁ。ちょっと航が分からないところがあってな」

「何処ですか?分かりやすく教えてあげますよ」

「え、えっとな。此処なんだけど」

 ******************

最初は謎に緊張する航だったが少しづつ会話をする内に打ち解けて来たようだった。

「(問題を理由に話せるから気持ち的にも楽になったのかもしれないな)」

「やっぱり、お似合いよね」

「そうだな。俺の立場からしても親友として良縁であって欲しいからな」

「それは、どっちの意味を込めてるの?」

「さぁな。どうせなら賭けてみるか?どっちの意味なのかをさ」

「そうね。じゃあ、に賭けておくわ」

「それは、賭けって言わないんだよな」

「条件をちゃんと提示しなかったからね。私は簡単には騙されないよ」

「そうやって穴を突こうとするなよ…ちゃんとフェアにやろうぜ」

「賭けにフェアもないと思うんだけどね。じゃあ、後者の方で賭けてみようかな」

どうやら、そっちの方に賭けるらしいがその答え合わせは彼らに任せるしかない。

「2人を待ってるのも暇だし物理を教えてあげるよ」

「そういう流れだったな。航のことばっか考えてて忘れてた」

「そう。大事な親友を持てて良かったじゃない」

「まぁ_そうだな」

「気になる点でもあるの?」

「そうじゃない。彼奴を見てると俺と似てる感じがしたんだ」

「そう。其処は私には分からないことだけど_その感情は大切にすることね」

「そうだな。あ、有栖もからな」

「え?」

「建前でて言った時に怒ってただろ」

「それは…雄斗の気の所為だよ。建前って理解してるしそれだけで怒らないし…それで何処が分からないの?」

「そうやって露骨に話題を晒さないでくれ。はぁ、そうだな。じゃあ三角比の公式から教えてくれ」

「それは…大層な長期戦になりそうね」

そう呆れた様子を見せながも調子の上がった声を聞き微笑ましく思ったのだった。

 ******************

「こうやって話すのは久々だな」

「そうね。それにしても何処でこの話を聞いたの?」

「それは…企業秘密だ。それよりも、別に初めてじゃないだろ。この勉強会は」

「どうして…そう思うの?」

「そうだな。それは、幼馴染の俺が言えることだが昔から教えること自体…得意じゃないだろ」

「そう?私としては航くんに教えてた記憶があるんだけど」

「そうだな。それは事実だ。でも、大人数相手は苦手だろ?そもそも渚は人前が苦手なはずだ」

俺の中の渚は人前が苦手で人に教えることも余り得意じゃなかったはずだ。

勿論、中学校の間に克服したという可能性もある。だが、そうなら渚は嬉々として報告してくるはず。

「(つまり、渚は昔の渚のままだってことだ)」

「本当…幼馴染って厄介だね」

「それは俺に対して嫌がってるのか?それなら、謝るんだけど」

「寧ろ、嬉しいよ。私をちゃんと見ててくれて。航くんの言う通り私は苦手なままだよ」

でも、そろそろ克服したくてさ。頑張ってるんだ。そう彼女は答えた。でも、

「無理はするなよ。自分の心に嘘を吐いてまで克服しなくても良いんだからな」

「じゃあ_もし…私が無理をしたら君はどうするの?」

「その時は俺がお前のことを甘やかすけど」

「甘やかすって具体的にどうす_」

その言葉を区切って俺は他の人に見えないようにしながらも渚の頭の上に手をやり軽く撫でた。

「昔から好きだっただろ?頭を撫でられるのは」

「私はもう…子供じゃないんだけどな」

「成人になるまでは俺も渚も子供さ」

「それは_。うん、確かにそうだね。ほら、もっと撫でて」

「え?勘弁して!って言うのかと思ったんだが」

「別に嫌がってないし…それに、航くんに撫でられるなんて滅多にあることじゃないしね」

「それはそうかもしれないけど」

「そういえばさ、久々に今日の帰りにでも航の家に寄って良い?」

「え?」

「私は子供だから行きたい時には行く人だからね。幼馴染の家に行くのに抵抗はないはずだよ?航くんも」

「無駄に設定を悪用しなくて良いんだよ。後、口調をそろそろ戻せ」

「…嫌なのですか?私が君の家に行くのは」

「渚が良いなら俺は構わないけど。両親が居なくても長居をするのは止めてくれよ」

「やった!あ…。ありがとうございます。では、また後で」

ふと立ち上がった渚が見た方に視線を向けると他の参加者が渚を呼んでいた。

お喋りは此処までか。まぁ、でも楽しかったし俺としては十分だ。

「(この後も、もっと話せると良いんだけど…)」

そうボヤきながらも勉強を再開させるのだった。

 ******************

「随分と楽しそうだったな」

「え、見えてたの?」

「見えてたも何も航の隣なんだけど?その発言は俺を馬鹿にしてるのか?」

「じょ、冗談だよ。まぁ、でも楽しかった。ありがとうな」

「天乃さんと喋ることに対する無駄な抵抗は失くせたか?」

「それは、まだ残ってるけど_多少はマシになったかな」

「なら、来た意味があって良かったな」

「あぁ。ありがとうな。キッカケを作ってくれ」

「俺としてはそのまま交際まで発展して貰っても構わないんだけどな」

「え?こめん。声が小さくて聞こえなかった」

「聞かなくて大丈夫だ。俺の理想の話だしな」

それはそれで気になるんだけどね?と突っ込んでくるが俺としては別に変なことだとは思っていない。

よく、恋愛漫画などでは幼馴染恋愛などがあるが別に現実でして貰っても構わないしな。

天乃さんの真意こそ分からないが両想いならさっさと告白するべきだと思ってるし。

「私が課題で出した問題を放棄して…随分と楽しそうね」

「あぁ。妄想は現実逃避に最適な解答だからな」

「そうね。でも、そんなことをしても逃げ切れる訳じゃないからね?」

「救済措置とかあったりするのか?そのクエスト課題は」

「補修が嫌なら此処でちゃんと覚えてね」

「はぁ、分かったよ。そういえば…付き合うのか?」

「あの2人に?私、そんな体力は持ち合わせてないからね」

ですよね。と同意した。放課後は2人に任せるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る