第3話 悪魔、路地裏に現る

 降り立ったあと、迷子になり女神の案内により、王城に入ることが出来たメフィストフェレス。

 そこで見たのは─────。


「────ほんとにお前封印されちまったのな。」


 その石の中に氷漬けにされたようになって眠っている契約者だった。


 ……はぁ。全くよぉ、お前ほんとに無茶苦茶な事やりやがったんだな。

 その美しかった顔も、腕も足も。傷だらけじゃねぇか。……それに見たぜ。ここに来るまでにお前らの戦いの跡って奴を。

 この異世界でお前は何を見て、何を理解して、何を守ろうと思ったのか。

 ───悪ぃが俺にはしっかり伝わっちまったよ。


 だからこそ、俺は許せねぇな。

 お前が折角守った連中が……どうしようもなくばかりだった事に。


 悪魔の目は人の悪いや憎悪などを感じ取れる。そしてメフィストフェレスはこの異世界に降り立ってから殆どの場所でそんな悪意の塊を山ほど見てしまった。

 かつて日本と呼ばれた彼女の母国ですらここまでの悪意は感じ取れなかったと言うのに。


 ……お前はお人好しだ。そんなお前がこの世界を守る為にどれだけの覚悟をしたのかは想像は出来ねぇ。悪魔にはそんな事までは分からねぇからな。


 ──けどよ、分かるぜ。守りたかった平和があったことぐらいはな。

 だからこそ、俺はお前が守った世界をよりよく変えておいてやるよ。何、悪魔ってのは契約を果たすんだ。

 そしてお前が守ろうと契約した事ってのは全て俺の契約でもあるからな。


 そう心の中でつぶやくと、メフィストフェレスは彼女の封印跡地を立ち去る。

 彼女の封印された跡地に、自分が普段被っていた帽子をゆっくりと置くと彼女の守った人々の群れの中に消えていった。


 ◇◇


 昼の日差しが眩しくメフィストフェレスの頭を照らす。それを浴びながらメフィストフェレスは、彼女が最後に名付けてくれた名前【メフ・メフ】を名乗る事にしてメフは空高く飛び上がった。


 ◇◇


「なぁんで……何処だ?俺の働く場所は?」

『アレ?言ってませんでしたか?えっと場所はここですここ……。』

「案外遠いな…………ん?アレは……」


 ふと、メフは近くで悪意を感じ取り着地を果たす。


 路地裏、そこでどうやら誰かが襲われているようではないか。

 俺はそいつらに向かって歩きながらその人数を数える。

 ふむ、ざっと4、5人程か。大した戦闘力もなさげ、の割にかなり傲慢なヤツが混じっているな。

 小心者と卑怯者の腐った匂いがするぜ。



 あれ?あの服装って確かギルドの職員じゃね?……ナイフを持った輩に襲われている……でも不思議だな、あの女普通に殴り合えば間違いなくあの程度の輩ならサクッと殺せそうな気がするのにな。

『ギルド職員だからこそ、揉め事を起こす事に抵抗があるのでしょうね』


 なるほど。まあじゃあ俺が手出してやるとするか。


 ◇◇◇


「────そこの女、少し良いかね?」

「あ?誰だてめぇ、なんだぁすました顔しやがってよォ?!」


 首をグッと掴まれたが、その手を無視して。赤黒い鮮血がびちゃびちゃと体にかかるが、そんなことは気にすることでは無い。


「は?へ、あ、あれ?!……お、俺の手、手、手が……手が……ひっ、ひいっ?!な、何しやがるやっちまえお前らぁ?!!」

「お、親分の仇っ!」

「よくも不意打ちで!!」


 俺はそいつらの攻撃をひょいっとかわすと、切り取った腕をじっと見つめたあと。


「なんだ、返して欲しいのか?では返してやろう。……だが待て、謝罪の気持ちを込めてをおまけして返してやろう。そら。」


 俺は手をぺっ。と投げ返す。血が再び地面に筆跡を残してはいたが、それは綺麗に腕が無くなったやつの元に送り返された。


「?!……な、何しやが。」


 返された嬉しさからか、どうやら男は言葉を失ってしまったようだ。やっぱり人間ってのはあれだな、どうにも想定外に弱すぎるってのが問題だな。


「う、腕返されたところで何も問題は解決してねぇんだよ?!ってか痛ぇ腕がいてぇんだよ分かるか?!謝罪の金とか、有り金全部よこしやが……れ?」


 なんだ、金だったか。腕じゃなくて金を欲しがるとか、流石は人間。強欲の象徴だな。


「あーそれは失礼。ではたっぷりと返してやるよ。……何倍がいい?一倍、十倍いや……百倍ぐらいがいいのだろう?」

「は?え、いや今渡されて…………も」


「なぁに遠慮はいらんよ。たぁっぷり受け取ってくれ、それは俺からの謝意だ。感謝してくれよ?」


 そう言って俺は指をパチン。と鳴らす。

 突如彼らの頭上から金貨が降り注ぐ。それは遠目から見ればめぐみの雨のように感じたかもしれない。けれど、当事者にとっては。


 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃあ。という音が虚しく響いた。

 助けての言葉も、逃げようとする動作も全てを金により押し潰されて彼らは死んだ。


 その亡骸を俺は片手でつまむと手の中の炎で焼きこがす。


「さぁて。これにて万事解決だな。」

「─────何処がだよォォォォォ!!!!」


 後ろから先程助けた女性にぶちギレられた。あまりにも想定外の事だったのか顎が外れかけていたが、それでもそれすら気にすることなく彼女はメフに近寄り……そして。


 ───吐いた。いやまあ当然ではある。目の前でこんなふうに簡単に人が死ぬのに耐えられる人なんて滅多に居ない。からね。


 その後衛兵達が現れたが、そこに関してはギルドの職員と言っていた【リサ】の手で何とか丸く収まったのであった。







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【悪魔】な新人ギルド職員はお好きですか?〜契約者が異世界転移してしまったので異世界へ追いかけた悪魔は何故かギルド職員としてデビューする。 鍋式うどん @Cataman

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