第2話 悪魔、ギルドに赴く

「そう言えば今日、新人さんが来るらしいわ!」


 朝一番そんな事を同僚に言われた私【リサ】は、思わず。倉庫で叫ぶ。


「今かよ!!今、このクッソ忙しい時に新人?!バカだろってか誰よこんな時に採用したヤツ!!!」

「それね!なんで今!!って話しよね!……でも噂によると、なんかその人めっちゃ丁寧なイケメンらしいわよ?」


 な、何だと?イケメン?!。って言ってもどうせそこそこで私の好みには合わないやつなんだろうなぁ……。


 ◇


 私は【リサ】。冒険者ギルド職員をやっているごく普通の、まあ昔は冒険者をやっていただけの女の子!

 年齢はちなみに内緒だぞ♡──聞いたらミンチにしてやるよ。


「リサさん!冒険者さんがカウンターに並んでます!対応よろしくお願いします!!」

「はいはい分かった!……はぁ、朝っぱらからこんなにきやがって……。」


 私は朝の準備を済ませてダッシュしながらカウンターに向かう。

 今日も憂鬱な一日が幕を開けることを私は嫌々ながら受け入れて笑顔を作る。


「いらっしゃいませ!ようこそ冒険者ギルド【グノーシス】へ!クエストの依頼でしょうか?それとも」

「ああ?!見ればわかんだろっ!買取買取だよ!ったく、そんなことも言わねぇと分かんねえの?っはぁ〜。」


 ちっ。めんどくせぇやつが来た。

 私はそんなことを内心思いつつも、笑顔を崩さないようにしながら。


「では買取ですね。それで本日は何を買取査定して欲しいのでしょうか?」

「はいこれ。この【リザードマンドレイク】の牙の買取。これ苦労したからさぁ、かなりいい値段期待してんだよねぇ。」

「拝見いたしますね。……これは……確かに【リザードマンドレイク】の牙に間違いありません。……では査定額は……そうですね、この位で如何でしょうか?」


 私はしっかりとそれをよく見た上で、その金額を提示する。

【リザードマンドレイク】は蛇のような鱗を持つ草であり、その牙は特に入手がしずらい癖にかなりの用途に使われるのだ。

 だが今回のこのこれは、あんまり質が良いとは言えないものだった。


「───はぁ?!500エギルだとぉ?!おいおいおかしいだろ!普通2000エギルはくだらないはずじゃねぇのか!?おいおい馬鹿にしてんのか!!それっぽっちじゃ装備代ににもならねぇじゃねんかよォ!」


 ぐぬぅ。うるせぇ、耳元で騒ぐなよ。

 ってか妥当だと思うけどなぁ私は。

 だってこの素材、全然新鮮じゃ無いもん。


「その、あまり新鮮とは言えませんから……少し値打ちは下がってしまうのです。」

「あぁ?!新鮮だろどう見ても!目腐ってんのかぁ?おい、俺が若くないボロボロの装備だからってバカにしてんだろ?!お前も俺をバカにするんだな?!」


 あー年齢コンプレックスな奴か。知らねぇよ。そもそもこの素材一目見てわかるレベルで新鮮じゃないじゃん。

 そもそも装備がボロボロとかあんまりどうでもいいし、それこそ装備がキレイな奴ほど戦いしてない証とも言えちゃうし。


「ですから───」

「ちっ、もういい!!別んとこで売っぱらってくるわ!ふん、二度と来ねぇよこんなちっこいギルド!!」

「あ、あの……」


 ドカドカ。と音を立てて男は歩いていった。

 はぁ……めんどくさい客から始まっちゃったよ朝が。憂鬱だなぁ……。


 ◇◇◇


「────もーーーつかれーーたー〜ー!!!クソみたいな奴らしか来ないじゃん!!なんだよもーーーー!!!」


 私は休憩室で一人そう叫ぶ。午前中に来た冒険者の殆どがいちゃもんつけまくってくる客やら、セクハラ野郎やらで本当に疲れた。


「まあまあ、リサもよく頑張ってるよ。あ、そう言えば朝言ってた新人さんの話だけど……。」

「新人でしょぉーーもーー嫌よ嫌!ただでさえ業務が山積みなのに!!」


 そう言いながら私は水を飲もうとして……手が滑ってしまった。


「あ、やべ!……はぁ……もーー水なくなっちゃった……。はぁ高いけど外で買ってくるかぁ……」


 ◇◇◇


「はぁーーたっかいなぁ。水、本当に高くなっててやだよぉもう。」


 私が外の店で水を買ってギルドに戻ろうとしたその時。


「おい女ァ!聞いてんのかおい!」


 チンピラに絡まれた。それもどうやら私に恨みを持っているような殺気だった姿。

 冒険者ギルドの裏口で喧嘩ふっかけてくるとか、さすがに頭おかしすぎるって。


「あの、なにか用ですか?……なければ失礼さ」

「女ァ!リサとか言ったなぁ?うちの買取に行かせたヤツらがどうにもお前にバカにされたようでなぁ?……てめぇどういう落とし前つけてくれるんだァん?」


 見ると朝に【リザードマンドレイク】の素材を提示してきたヤツが後ろにいた。

 ちっ、アイツ。……。


「あ、あの!冒険者呼びますよ!それ以上殺意を滲ませてくるのなら!……ひっ?!」

「うるせぇなぁごちゃごちゃ!!おい金出せ、それかもう一回買取やり直せ!……じゃなきゃ……てめぇの体で払って貰おうか!!」


 あー不味いことになった。正直冒険者や衛兵を呼びに言ってもいいけど、こういうのは余計に因縁を付けられるだけなんだよなぁ。

 ──って危なっ!


 突如として男がナイフを掲げて襲い来る。

 かろうじて避けた私を見てさらに攻撃の姿勢をとる男共。

 あークソ武器さえあればこんなヤツらボコボコにできるのに……。

 どうしたものかなぁ。こんなゴロツキ共サクッと始末してあげたいけれど、それするとギルドの信用に関わるんだよなぁ……はぁあ。ダル。


「─────そこの女。少しいいかね」


 突然、後ろから誰かが話しかける。

 あー誰かわかんないけどさぁ、今この時に話しかけて来んな…………。


 あらヤダ、イケメン。


 そこにはびっくりするほどのイケメンがいた。ギルドの制服をピシッと着て、驚くほどスラリとした姿の紳士が微笑みながら現れた。


 ───この日、私は運命の人にであった。




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