【悪魔】な新人ギルド職員はお好きですか?〜契約者が異世界転移してしまったので異世界へ追いかけた悪魔は何故かギルド職員としてデビューする。

皆月菜月

第1話 悪魔、降り立つ。

「本日は何をなさいますか、我が主、契約者殿よ」


 悪魔はそう、隣で歩いている女に声を掛けた。

 それに対し女は──。


「ん〜?何しよっか!?えっとね、次は銀行強盗ごっこを……ってそれやっても何も楽しくないや。」

「はぁ、我が主……貴方様はもう少し計画性を持っていただきたい。それから銀行強盗などしなくとも、金ならば我が魔術でポン。と出せますのに」


 そう言って悪魔は手の中に金塊やら札束をばさりと創り出す。


「わー!バカバカ!こんなとこでそんなもの見せびらかすなぁ!もーいいじゃん、どうせ?ならやりたいこと、なんでもやっちゃいたくなる訳よ!」


 そう言うと、彼女は鼻息荒く微笑む。

 全く不思議な女だ。と俺は思った。

 悪魔を呼び出して、契約する。それは太古の昔から続く行為だ。

 悪魔は契約者の願いを叶え、その代わり魂を抜き取る。

 契約者は悪魔の力で欲望の限りを尽くして後悔して死ぬ。

 ──ただそれだけの関係。


「なのだがなぁ……」

「ん?何か言った?メッフィー?」

「何も。と言うよりもその某夢の国のマスコットみたいな呼び方をやめていただきたいのだが?」

「?それは新たな契約って事?良いよ!じゃあメフメフ!」

「───我が主はネーミングセンスがゼロ。と。」


 俺はあきれながら、二人は横断歩道に足を踏み入れた。


 次の瞬間、目の前にトラックが現れる。それは瞬間移動のようなふうにすら、感じ取れるほどに。


「なっ?!我が主!」


 ほんの少しだけ、我が主は前に行っていた。故にそれに引かれた。

 ゴン。と鈍い音がして我が主の肉体は簡単に砕け散っ………………ん?


 肉体が……無い?どういう事だ、どういう事だ?!


 彼女の肉体が消えた。それも引かれた瞬間にその場から。否、消えたのだ。

 ──悪魔は魂を契約の材料にする都合、主がどこに居ようともすぐに特定出来るのだが。


 無い。居ない。居ない?!

 紐付けられた魂のリンクがまるで何処かに消えてしまったかのように唐突に。

 それだけじゃ無い。今、彼女が引かれたということに誰も気がついていないのだ。

 隣を歩いていたサラリーマン、女子学生。老人。


 誰一人として、トラックの存在と引かれた彼女に気が付かなかった。そんなことがあるか?


『────すみません、悪魔殿。』


 俺が思考を巡らせていたその時、隣にいつの間にか女が立っていた。


「何者だ?……ふむ、俺を見ることが出来るという時点で貴様は只者では無いな。」

『えぇ、私は異世界の女神【トリエルテ】と申します。』

「ほぉ?女神ねぇ?……悪魔以上に胡散臭い輩が、何用だ?」

『えぇ、端的に。貴方の契約者は異世界に転移しました。』


 ほぉーん。異世界。……は?


 ◇


『ここならば落ち着いて話ができるでしょう。改めてこんにちわ、悪魔【メフィストフェレス】様。私は【トリエルテ】。女神をやらせていただいております。』

「はぁ、そりゃどうも。──んで俺を世界の狭間に呼び出して何のつもりだ?」

『───あなたには申し訳ないことをしたと思っております。ですが、これはいたし方ないことなのです。……あの方……貴方の契約者様は異世界を救う唯一の鍵だったのです!』


 ふーん。──あ?


『ですので、私が彼女を異世界へと送り出しました。勿論彼女には同意をいただいておりますし、何より世界を救ったあかつきにはちゃんと元の世界にお戻しいたしますと約束したのです。』

「はぁ。んじゃはやく返してくれるかな?どうせもう終わったんだろ?世界を救う鍵としての役目とやらは。」

『…………』


 おいおい、なんで黙っているんだ?──まさか何か返せない事情でもあると言うのか?


『あのですね。その……確かに貴方の言葉通り、ちゃんと世界を救うことには成功したのです……ですが……』

「ですが?」

『───魔王を自分諸共封印してしまったので……その……』


 俺は思わず顔を覆う。マジかよ、まさかの事態だぞこのパターンはよォ。

 つまりアレか、アレだな?!


「──封印解けるのは何年後だ?教えろ!」

『──早くて数百年……遅ければ数千年は掛かるかと……。』

「はぁ?!クソッタレ!なんてこったよ!あ〜思わず演技するのも忘れちまったぜマジでよぉ!?千年、短くて百年だと?!それまで俺は帰れねぇってことになるんだが?!」


 そう言って頭を抱えるメフィストフェレス。

 悪魔は契約した魂を回収するまで魔界に戻れない。そう、のだ。


『あ、あの……その、申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。悪魔が契約を重視するのも、知っていますし……その、もし良かったら私が収めるこの世界……勇者様が救った世界で暮らしてみては如何でしょうか?』

Holy shitマジかよ.!!!……あぁ、クソッタレェェエ!!……まあ良いか、アイツが救った世界とやらを守ってやるのも……悪くはねぇか。」

『で、でしたら……』


 そう言うと、女神はなにかのパンフレットをメフィストフェレスに手渡す。


「あ?なんだこりゃ……『ギルド職員採用?優しく強い元冒険者や志望者をお待ちしております』だァ?……おいおい女神さんよォ?俺にこれやれってのか?」

『あ、案外合いそうだなぁって…と言うか魔王との戦争が終わったんですけど人手不足過ぎて……だからこのギルド職員、やってみてはどうでしょうか!!』

「────悪魔がやっていい仕事か?悪いがパスで。」


 せっかく異世界とやらに赴くんだ、血みどろの戦やら愛憎振りまく物語に加担したい気分だしなァ。


『その、実を言いますと……割とこの冒険者ギルド職員って大変なんです。……悪意を持った冒険者や、貴族とかの相手をしなくちゃ行けなくて……だから人手が足りなく』

「───今なんて?だと?…………なるほどなァ、良いぜ?やってやるよ。悪魔たるもの、契約違反者は即刻ぶち○さなきゃ気がすまねぇんでなぁ?」


 そう言うと俺は腕まくりをする。悪魔の肉体は変幻自在、だからこそ今回のシチュエーションに適した見た目を想像する。

 確か、主が見てた漫画の悪魔系キャラは……こんな見た目だったっけな?


『──わぁイケメン。あの、ちなみにこの世界は魔法やスキル、魔力などのシステムがありまして……一応それらのシステムを貴方の元々持ち合わせる力でも使えるようにしておきますね……アフターフォローもバッチリってやつです!』


 俺は赤と黒に染まった髪を掻き分け、眼鏡をかける。赤黒いコートに二丁の拳銃。

 なんだっけ、確かあの主が好きだったデビル……何とか泣き、とかだったか?そんな感じのゲームのイメージを纏わせる。


「さぁて……いっちょやってやるとしますかァ?!──異世界、ンなもんがどうなってるかは知らねぇけど、あのねぼすけ契約者が目ぇ覚ますまで、退屈させてくれるなよォ?!」


 俺はそう言うと女神が開いたゲートをくぐり抜け……。

『あの、服多分こっちの方がいいと思います。──一応ギルド職員のていなんで……。』

「──先に言え。マジで。なんで服を装備した時に言わねぇんだよ。」


 ……俺は黒と紺色の服を着て、ゲートをくぐり抜ける。

 光が包み込んだあと、眼前には大きな城に街が一望できた。


 あれが王都、んであのちっこい街が俺がこれから行く場所かァ。

 ───まあせいぜい退屈してくれるなよォ?異世界とやら!!

 そう言いながら俺は自由落下を開始するのであった。





 この日異世界に一人の悪魔が舞い降りた。

 後に数多の物語の発端となる、最高にハードボイルドで、最高にクールな、そして容赦無しな悪魔のギルド職員物語が──始まるっ!


 ◇◇◇


「失礼!冒険者ギルドとやらは何処だ!」

「ひ、ヒィィィ?!人が空からおちてきたぁ?!!お、親方!!!」

「ば、化け物?!!に、逃げろぉ!!!!」

「あ?!何逃げようとしてんだてめぇ?!─まさかなにか不正なことしてる輩とかじゃ……ねぇよなァ?」


 ───大丈夫だよね?きっと。










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