第7話 テレビの画面の向こうで
わたしのばあい、その音が聞こえたのはその一回だけだった。
あの音が聞こえた日から半月ぐらいは、日没時間をチェックして、その時間になると
「聞こえませんように、聞こえませんように」
と祈る日々を送った。
わざと遠回りして帰って、夕日が赤く照らし出す時間に自分の部屋にいるのも避けるようにした。
夕暮れ近い時間に「ことっ」とか「ぽんっ」とかいう音がすると、それが何かいちいち確かめた。わからないときは時間を調べて、日没時間ではないことを確認してほっとする、ということもあった。
しかし、そのうち、あの音よりももっと恐ろしいものが襲ってきた!
それは「直前模試」の結果だった。第一志望の大学が合格確率半分以下は覚悟していたけど、第三志望でも確率七十パーセントの「B」判定だった。
「最近、帰り、遅いんじゃないの? そんなところで弛んでるからこんな結果なんでしょ。もーっ!」
とお母さんは激怒した。浪人させるおカネなんかないと脅された。
もう「ことっ」も「ぽんっ」もなく、勉学に(いまさら)いそしむ日々になってしまったのだ。
ところが、その第一志望だった大学に合格してしまった。
ヤマが当たったり、直前に解いた問題とそっくりの問題が出たり、という幸運の結果だった。
余裕のできたわたしは、あの「ことっ」という音を聞いて運が向いたのかな、とか思ってにやけたりした。そんなことを思っていると何か強烈なしっぺ返しが来る、と思わないでもなかったけど、そんなこともなく、また音のことは忘れてしまった。
わたしはその大学に通うために家を出て、一人暮らしを始めた。
大学を卒業してからも、わたしはその一人暮らしをしていた部屋から通える会社に就職した。
その会社にも慣れたころ、上司について他社に打ち合わせに行き、それが予定していたよりも早く終わった。直帰ということにしてあったので、わたしはさっさと一人暮らししている自分の部屋に戻ってきた。
初夏のことで、外はまだ明るい。
シャワーを浴びて、スエットに着替えた。
それだけではまだ少し涼しすぎるので、上に厚手のウールのカーディガンを羽織る、というわけのわからない格好でテレビを見ていた。
テレビは、夕方のニュース番組のなかで、一見ふしぎに見える体験を科学で解き明かす、というようなコーナーをやっている。
その日のテーマは「流星の音」というものだった。
明るい流れ星が流れたとき、「ぱん!」という音が聞こえることがある。
ちょっと聞くと、流れ星が、ぱっ、と破裂したときの音でしょ、と思ってしまうのだが、これがそうではない。
流れ星が光るのは何十キロという高い空だ。
たとえ、流れ星が爆発した音が地上に届くとしても、音の速さを考えれば、その音が届くのは何十秒か経った後のはずだ。
流れ星と同時に聞こえるなんて、あり得ない。
でも、現実には、その音を聞いた、という報告が何件もある。
しかも、それは、流星観測に慣れた観測家からの報告だ。
偶然とか、気のせいとかでは片づけられないのだが、では、どう説明するのか。
そんな話だった。
でも、わたしが、バスタオルで髪を拭きながらそのテレビに注意していたのは……。
天文学の専門家とは別に、もう一人、そこに出ていたコメンテーターの落ち着かないしゃべりがなぜか気になったからだ。
しゃべる内容ではなく、その、せっかちそうな、言わなければいけないことは言うけれど、言わなくていいことまであふれるように言ってしまう、そのしゃべり方が、何かみょうに心に引っかかったのだ。
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