■■県北部山村における民間伝承と風土に関する調査記録
藤野麻 饂飩
元村民へのインタビューならびに考察
以下は当該集落の風土とそれに密接すると思われる伝承、「コガキマッチャ」に関する元村民の女性(現在28歳)へのインタビューの書き起こしである。
あの、何からお話すればいいかわかんないんですけど、とりあえず、私が生まれた集落についてお話します。
あそこは四方が山に囲まれてて、自給自足の生活っていうか、外の世界と集落が完全に分かれてて、陸の孤島って感じの村でした、よくある辺鄙な集落を想像していただけると良いと思います。
でも、でも私、耐えられなくって、気持ち悪くって出て行ったんです。
東京の大学に行くからって、半分は大義名分のつもりであの村から逃げたんです。
きっと先生が聞きたいのはその部分なんですよね、お話します。
田舎の村にはよくあることだと思うんですけど、私の村にもそういう信仰というか、決まり事みたいなものがあって、一つは「コガキマッチャ」っていう、妖怪?みたいな存在です。
簡単に言えば夜に子供を攫う妖怪で、夜な夜な「コガキ~コガキ余っと~コガキマッチャ~」と言いながら練り歩く鬼だと、子供のころに教わりました。
明かりも少ない村ですから、子供が夜に出歩かないようにするための脅しめいた教訓だと思っていました。
それで、もう一つは儀式なんですけど、ごめんなさい、これが私が村を出た一番の理由で、「メササゲ」っていう儀式があって。
村の唯一の神社、「タバネ様」っていう神様を奉ってるんですけど、村の女性が初潮を迎えると同時にその人の父親と随伴して、本堂で、その、性行為をさせられるんです。
それが「メササゲ」です。村の大人たちはごく当たり前っていう風でしたけど、私たちみたいな若い世代は異常としか思えませんでした。
実は私、「コガキマッチャ」を見たことがあるんです。ボロ雑巾みたいな布だけ着ていて、酷い猫背で、子どもにも老人にも見えました。少なくとも正常な人間の姿じゃなく、鬼と形容する方が納得できるような異形でした。
私がソレを見たのは、すごく仲が良かった友達が「メササゲ」で妊娠してしまったときのことです。
あの村には堕胎が出来るような設備も病院もありませんでしたから、生むしかなかったんです。
産気づいたと報せを聞いて彼女の家に行くと、既に村の大人たちが大勢来ていました。そのまま、半分絶望しながら出産を見届けた後、あの子の父親と村長の話声が聞こえてきました。
「こりゃあ祟るど、もう束ねるしかなかろ」確かにそう言っていました。
泣きながら帰る道すがら、彼女の家に向かってこそこそ歩いていくソレを見たんです。
なんだかもう恐ろしくなって、気持ち悪くって、この村を出ることを決意しました。
私が知っていることは以上です。すみません、大したこと知らなくって。
以下個人的フィールドワークによる調査結果
まず、「メササゲ」については各地で見られる通過儀礼の一種であると思われる。人口の維持のため性行為に対する慣らしのために発生した儀式であると考える。
しかしながら過度に人口が増えることを懸念してか、相手は父親に設定されている。
よしんば妊娠してしまった場合は祟りを適応し、生まれてはいけなかった子どもという扱いを受けていることが見て取れる。
次に、個人的見解にはなるが「タバネ様」と「コガキマッチャ」は同一視ないし同一の存在であると考える。
倫理的観点から明言は避けるが、この集落で信仰している神社裏の山奥に小さな山小屋を発見した。無人であったがそこらに腐敗した肉片と未成熟な白骨を確認した。
前述の証言から、「コガキマッチャ」と呼ばれる存在は確かに実在し、何らかの方法を用いて、生まれてはいけなかった子どもを一人が「タバネ」ているのではないかと考える。
なお、寝床とみられるゴザから採取した毛髪はDNA検査の結果99.9%人間の毛髪であった。
■■県北部山村における民間伝承と風土に関する調査記録 藤野麻 饂飩 @udk777
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