夜行

※男女の苦手な方はご遠慮くださいくださいm(_ _)m




────────────────────


 神殿は男女の居住区が分かれている。


 皆が寝静まった頃。


 私はトイレに向かった。


 そう、これはトイレに向かっているだけで、決して他意は無い。決してだ!


 トイレに行く理由なんてひとつしか無いでしょう?


 ちょいと用を足しに?


 うん。


 そりゃあね? 道に迷うこともあるじゃない? だって、初めて来たところなんだし?


──ガチャリ……パタン。


「……」


 ふふん。良く寝てるみたい?


──ゴソゴソ……。


 掛け布団をめくり、敷布団との間に自分の身体を滑り込ませた。


 温かい。


 そして何だろう? とっても柔らかい。きっとリラックスして寝ているに違いない。


 ……それにしても柔らかい。柔らかいにも程がある。そして何だか良い香り。まるで……。


──女性!?


 ついにルカが女性になってしまったのだろうか。


 部屋は真っ暗でよく見えない。


 私はベッドを抜け出て窓際のカーテンをそっと開けた。


──……。


 ベッドの上に女性が三体横たわっている。


 ベッドの上で、たゆんたゆんしたスライム付きの身体が、三体綺麗に並べられているのだ。


 どんなご馳走だ!?


 しかし、憐れと言うべきか、その手足は縄で縛られて、猿轡までされて、身動きひとつ、言葉ひとつも発せられないでいる。


 私は黙って部屋を見渡す。


「なん……だと!? ルカが居ない!? んでもって、なして姉ちゃんズがここに居んのさ!?」


 月明かりに照らされた部屋は、ベッドと椅子と机と言う簡素な部屋で、ベッドの上には所狭しと駄肉が転がっているだけだ。


 姉ちゃんズは何も言わずに、いや、言えないのだろう、こちらを見ている。


 私は事情を聞くべく姉ちゃんズの猿轡を外そうと、ベッドに腰掛けた。


 揺れる駄肉スライムが六つ。

 

 表面張力ギリギリの水玉のように、何の抵抗もなく揺れる駄肉を摘み上げて、離してみた。


「んんっ!?」


 駄肉は重力に従うべく、引っ張り上げた力から解放されて、重力方向へ落ちるかと思えば、表面張力に従ってその形態を元に戻そうとする。

 重力に抗えない分だけ垂れ下がり、されど丸みを帯びた駄肉は無駄に美しい。


 憎らしいので、何度か摘み上げては、放すを繰り返して弄んだ。


「ぶはっ! あんた、もっと早く外してよ!?」

「おうおう、駄肉スライム。 そんな口をきいて良いのかな?」

「なっ!?」


 私は外した猿轡をチラつかせて、ニヤニヤ嗤って見せた。


「ご、ごめんなさい。あたしが悪かったわ……」

「ふふん。わかったらいい」


 そう言うと、他の二人の猿轡も外してやった。


「手縄も外してくれない?」

「その前に聞いておきたいことがある。なして駄肉たちはここに居んべさ?」

「それは……だって、これから神殿で仕える事になるじゃない? 私たちだって、ちょっとくらい良い事あったってバチも当たらないでしょう? なんて欲望のままにここに来たのだけれど、この有り様よ。ルカとは何も無いわ?」

「あったら、その駄肉スライム、削ぎ落とすところ」

「ひっ!? な、何も無いから!!」

「当たり前。で、ルカは?」

「部屋を出て行ったわ? 行き先は私たちにも解らないけど……」

「ふむ……じゃあっ!!」

「あっ! ちょっと、手縄も!! あぁ……あ、ノートちゃん、ルカを骨抜きにしたくない?」


──パタン、無情にもドアを閉めてやる。


「……」しかし。


──ガチャ、ギィ……再びドアを開いた。


「骨抜き?」チラッ、半分だけ顔を覗かせる。


「そうよ? あたしたちはのプロ、なんですからねっ!?」

「私にも出来る?」

「たぶん?」


 のそり、と私は身体をねじ込ませるように入った。

 それを見て、ニカはにっ、と笑う。


「あんたも好きね♡」

「う……うん、ルカのこと、大好き♡」

「……そうゆう意味じゃないんだけどね。でも、ノートちゃんて可愛いわ♡」

「……ソレデ?ルカヲホネヌキニスルホウホウ?ッテドンナノ?」

「うん、その前にこれ、解いてくれないかしら?」

「……意地悪しない?」

「しないしない。助けてもらうのに、そんなことするわけないでしょう?」


 私は駄肉たちの手縄を解いた。足は自分で解いてもらうから、そのままだ。


「助かったわ。それじゃ、耳貸してくれる?」

「ヘ、ヘンナコトシナイ?」

「しないしない。だって私たち裸じゃない? 何かしようったって、何も出来ないわよ?」

「……わかった」


 私はニカ姉ちゃんの横に座った。


 その後、私の耳に飛び込んで来た言葉は、私の想像をずっと超えていて、私の脳汁を沸騰させるのに十分な熱量を有していた。


「ノートちゃん、耳まで赤くしちゃって……あむっ!」

「ひゃうっ!! ……はっ……うっ」


 み、耳元を舐められているだけなのに、か、感じちゃう。こ、これは本物だ。本当にルカを骨抜きに出来るんだ。なのに、ルカは骨抜きにならずに駄肉どもを捕縛した。信憑性は半々と言ったところか。


 それでもいい。私はルカと気持ち良くなりたいのだから。


「じ……、じゃっ!!」

「うん、ルカが何処に居るのか知らないけれど、見つけたら頑張るのよ!!」

「うん!!」


──バン! 私は意気揚々と部屋を飛び出した!


 それにしても……。


 ルカは何処へ行ってしまったのだろう?


──ブルッ。


 うん、とりあえずはオシッコだ。何をするにも漏れたら台無しだからね!


 トイレへ続く廊下の先は、薄暗くて静かだ。


「こ……コワクナンカナインダカラ、コノヤロー!!」


 私は、さっさと用を済ますと、とりあえず自分の部屋に戻った。


──パタン……。


「ふぅ……」


──ガチャリ。


「え?」鍵が勝手に閉まった?


──ドン!


「きゃんんんん!!んーっ!!」


 不覚だ。部屋に誰か居る!?


 私は声を出せない様に、口元を塞がれて、壁に押し付けられた。すごい力だ。


「んんんん!? ん──っ!!」

「静かにしろ!」


──っ!?


「んん……」

「いいか?」

「ん」


 ゆっくりと、口元に充てがわれた手が離れてゆき、言葉が解放される。


「ルカ!?」

「ああ、そうだ。悪いな? 風呂を出て、部屋に戻ったらさ? 部屋に姉ちゃんたちが裸で寝そべってるから、部屋を間違えたのかと思って出ようとしたんだ」

「うん」

「そうしたら、姉ちゃんたちに部屋に引きずり込まれてさ、俺の服を脱がそうとするもんだから、身の危険感じて、姉ちゃんたちをふん縛って、出て来たんだ。そしたら行くとこないからここへ来たって理由わけさ」

「うん」


 ルカとの距離が近い。近いなんてもんじゃない。ゼロ距離だ。

 肌着を通してルカの体温が伝わる。

 ルカが言葉を発する度に、前髪がルカの吐息で揺れる。


 私は壁に貼り付けにされた様に身動きが取れない。


 ルカの顔がゆっくりと迫り、私は息を呑む。


「ノート……」


 私の左耳にそっと囁くルカの甘い声が、私の名前を呼んだ。


 ぶるっと軽く身震いがして、肩に力が入る。


 名前を呼ばれたのに、息が詰まって返事ができない。


 ルカの口が私の左耳を食べてしまいそうなくらいに近付いて、さっきより優しく、とろける様な声で囁いた。


「のぉと……」


 私はやっとの思いで声を絞り出す。


「ん……」

「俺は……」

「ん……」

「お前のものだ……」

「ん……?」


 何? どういう事?


「俺はお前に救われた」

「……」

「お前が居なかったら、今の俺はない……」

「……」

「だからノート……」

 

 わわっ!? 近い!近いよ!?


「うん」

「ありがとう……」

「う、んっ!?」


 ふわっ!? きっ、キス!? 


 しっかりとルカの口で塞がれた私の口は、何の抵抗もなく言葉を失い、何度も繰り返される愛を受け止めた。


 ルカがっ、ルカがグイグイ来るよぉ……。きゃあー♪


 ルカが熱くなった身体を、私の身体に押し付けて来るのに、壁が私の逃げ場を奪って逃さない。


 私の身体の熱もぐんぐん上がっているのがわかる。熱い。


 身体が火照って、息遣いが荒くなり、ルカの髪が私の頬を撫で、洗髪料の香りが鼻腔を擽る。


 ルカの唇が離れた隙に、大きく息を吸おうとするが、させるものかと言わんばかりに口を塞がれる。自然と鼻息が荒くなり、お互いの呼吸がみるみる激しくなってゆく。


 これはヤバイ!


 ルカを骨抜きにする前に、私が骨抜きにされてしまいそうだ!?


 でも!


 それもイイ!!


 ルカのキスが、唇から頬を滑り、首すじに吸い付き、私はくっと顎を引いて軽く抵抗するも、ぐいっと顎を押し上げられて、一層激しく首すじに唇を吸い付けてくる。


──っ!?


 声が漏れそうになるのを必死に我慢する。

 私の身体の中を、何かビリビリとしたものが走り抜けてゆくのを感じて、身体を仰け反らせるが、ルカは構わず私の形を確かめる。


「んあっ……」


 悔しい。


 先に声を上げてしまった。


 ルカはそれを聞いて、少し笑ったのかどうか鼻息が漏れる。鎖骨のあたりに唇を添わせながら、器用に脱がせてゆき、唇は下方へ。


 しかし彼の唇は私の思惑とは別の場所へと向かう。期待した私が馬鹿だった。


 見事に肩透かしをくらって、私は身体をモジモジくねらせた。


 ルカは意地悪だ。私に何を言わせたいのだろう。


 だが、そんな挑発になんて……なんて……。


 ルカは私の思惑以外の箇所を執拗に口をつける。少し掠めては、絶妙な距離を取ってくる。もう……我慢なんて出来やしない。挑発なんだから乗るだけだ!


「お願いルカ……な……メテ……?」


 しかし……。


 お願いしたのに、全然お願いを聞いてくれない!? それどころか通り過ぎてお腹に……おなかから……した……あ。


「るかぁ……そ、ソコは駄目だからぁ……イッ」

「だめ?」

 「もっとして?」

「ん?」

「ルカのいぢわるっ! もっとしてって言ったっしょや!?」

「のぉと可愛い♡」

「あぁ……っ」


 もう、仕方ないよね? 先ほどまで仰け反っていた私は、今度は前屈みになりながら、ルカの頭を自分に押し付けていた。


 脚に力が入らない。


 がくがく、と腰が抜けるように落ちるが、壁に押し付けられてる。わなわなと震える脚を、彼の丈夫な腕で抱えられる様に持ち上げられた。私はああっ、と軽く身体を震わせて、されるがままに宙に浮き、ベッドへと運ばれた。


 今度は背中をベッドに押し付ける様に、腰を持ち上げられて、私の脚は空を切った。


 ルカに私の全てが晒される。そしてルカは口をつけ、私の脚が伸びる。


 私は何度も脚を震わせるが、ルカは止まらない


 このままでは、私の身体の中の骨と言う骨が、溶けて無くなってまいそうだ。私の羞恥はもう、何の抵抗もなくルカに支配されている。


「のぉと……」

「んぅ……るかぁ……」

「愛してる……」

「ん♡」


 と、ルカは私を強く引き寄せた。


「ひゃんっ……」


 私は突然襲われたその刺突攻撃を、何の抵抗もなく、ゼロ摩擦で吸収した。


 そして、先ほどまで見向きもしなかった、いや、最後まで取っておいたさくらんぼを、美味しそうにしゃぶりつくのだ。


「ひあっ!」


 私は死んだ。


 きっとここは天国で、嫌なことなんて何ひとつなくなった世界だ。ルカと二人天国にいる。


 私は何度も殺されて、何度も天国へと送り込まれる。


 ルカから注がれる愛は、私の中で爆発し続けた。私はルカの愛に満たされて、何度も溺れ死ぬのだ。


 ルカが好き。


 ルカが大好きだ。


 生きてて良かった。


 今、私はルカと死ぬ為に生きている。


 ルカ、死ぬ時は一緒だからね?



 それが、私とルカの八日目だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る