第5話 大団円
状況を、愛一発見者が話している。さっきまでは、慌ただしかったこともあって、ハッキリと聞いていなかった状況を、男は、思い出しながら、興奮はしているが、淡々と話しているようだった。
「ご通報、ありがとうございます。また何かありましたら、お伺いいたしますので、今日はありがとうございました」
といって、奥で、もう一人の刑事が、どうやら、男の連絡先を聞いているようだった。
高橋は、今尋問していた刑事に声を掛けられた。
「そこのペンションに、合宿にきていた、大学の文芸サークルの方ですね?」
と言われたので、軽く会釈をしながら、上目遣いになっていたことを、警察は気づいたであろうか。
「はい、そうです。一緒に幹事をしていた高杉と言います」
というと、
「そこで倒れていた彼女は?」
と聞かれ、
「彼女は、私と一緒に今回の幹事をしてくれていた、高橋つかささんという方です」
というと、
「なるほど、こちらに来られたのはいつだったんですか?」
と聞くので、
「昨日の夕方には入りました。ここまでは、チャーターしたバスで来たんですが、そのバスには、また帰りの時に来てもらうということになっています」
と高杉は答えた。
そんな話をしていると、刑事の元に、連絡が入っていた。
何やら、深刻な表情に変わったかと思うと、
「高杉さん、今病院に行っている他の刑事から連絡があって、実は彼女ですが、病院でたった今亡くなったそうです。ご愁傷様です。それでですね。その彼女なんですが、死因に不審な点があるということで、解剖に回されるということです。今回は、これくらいにしておきますが、またお伺いすることになろうかと思いますので、その時はまたよろしくお願いします」
ということであった。
刑事は、それまでに、自分たちのこと、どうしてここに来たのか? そして昨日の宴会のことと、高杉が話のできる範囲では、話をしたのだった。あから、もし、警察が来るとすれば、それは、今度は、
「殺人事件として捜査をする時だ」
ということになるのだろう。
そして、実際に刑事はまた話を聴きにきた。それは、
「事故に遭った友達」
のことについて、証言者ということではなく、今度は、
「殺人事件の参考人の一人」
としてであろう。
もちろん、重要参考人ということではなく、ただの友達ということであるので、
「警察へのご足労」
というものでもなく、普通に聞いていっただけだった。
ただ、警察が一つ気にしていたのは、
「首を絞められて殺されていたのですが、最初は、ピアノ線のようなもので殺されたのでしょうが、なぜか、その後から手ぬぐいのようなもので殺されているんです」
というではないか。
「それは妙ですね。逆であれば分かるんですが」
というと、
「そうなんですよね。このままだと、犯人複数説が出てくるんですよ。ただ、それは、お互いが協力してというよりも、最初の犯行を幇助しているというのか、それとも、前の犯罪を知らずに、その人はその人で単独に殺したいと思ったのかですね?」
ということであった。
「えも、そうだとすれば、彼女を殺したいと思っている人が複数いるということになるのか、それとも、彼女は関係なく、犯人を助けたい一心で、最初の犯行をごまかせるとでも思ったのか、ごまかせないまでも、犯行をカモフラージュでもしようと思ったのかではないでしょうか?」
と、高杉がいうと、
「それはそうなんだけどね。でも、警察の科学捜査は、かなり進んでいるので、どちらが致命傷になったのか、あるいは、どちらが先にできた後なのかということも分かるわけで、しかも、死亡推定時刻もハッキリしているので、アリバイもある程度確かめられるというもの、犯人は、そんな簡単なことに気付かなかったんだろうか?」
と刑事が言って、
「そうなんでしょうが、カモフラージュだとすると、彼がそこで何かを行うことで、犯人にとって、都合のいいことがあるとすれば、逆に正確な警察の科学捜査を利用しようと考える人もいるでしょう」
と高杉はいった。
「でも、もしそれがその通りだとすると、幇助者とでもいうか、タオルで首を絞めた人は、冷静だったということにある。まるで、犯人が犯行を犯すのをわかっていて、そのつもりで対応方法もある程度考えていたのかも知れないですね。もっとも、殺人が分かっていたとしても、犯人が、どんな方法で殺害するかなど、前もって分かっていないでしょうけどね」
と刑事がいうと、
「それは関係ないのかも、犯人がどんな手で殺そうとも、手ぬぐいで幇助しようと考えていたのかもですよ?」
というと、
「まさか、犯人が殺人を犯すのは今回が初めてではなく、前にも同じことがあって、その時もピアノ線のようなものだったのかも知れないですね」
と刑事が言った。
その話はまったくのでたらめでもなかった。
警察のその後の捜査で、つかさが、以前、一緒に旅行した相手がいたのだが、その女性が、実は、死んでいるというのだ。
「その女性が死んだというのは?」
と聞くと、
「ええ、自殺だったというのです」
という。
それを聞いて、高杉は、何となく嫌な予感があった。
「その女性というのは?」
と聞くと、
「松岡いちかという人なんですが、二人は親友だったようですね?」
と聞いて、思わず、
「親友なんですか? そんなバカな」
と声に出して、言いそうになるのをグッと堪えた。
高杉は、松岡という人物を知っている。そして、その妹である、いちかも知っている。つまり、いちかが自殺をしたということは知っていたことになる。二人とは、結構な仲で、兄の松岡とは親友のような間柄だった。だが、
「まさかいちかが自殺をするなど信じられない」
と兄の松岡も言っていたし、高杉も信じられないと思っていた。
だから、二人は自殺の原因を分からないまま、悶々とした気持ちになっていたのだが、兄としては、何も知らないということが許せないと思ったのだろう。密かに調べているということを聞いたことがあった。
しかし、それを松岡に確認することはできなかった。彼は、まるで人が変わったみたいになっていたのだ。
じゃあ、昨日のは、松岡だったんだろうか?
と、今朝、実は一度、いちかを探しに早朝表に出たのだが、慌てるように一人の男が、慌てたように車に向かっていって、急いで車を発進させて逃げているところだった。
後姿が似ていたと思ったが、その時は何も発見される前だったので、よくわからなかったのだ。
刑事がふと口を滑らせたのは、
「その松岡いちかという女性が自殺した原因というのが、どうも、暴行されたことが原因らしいんですよ」
ということであった。
それを聞いて、高杉は、震えだした。ただ、それは、高杉が初めて聞いたことで、驚愕の事実に怒りによって震えが止まらないのではなく、警察がそこまで知っているということにビックリしたのだった。
「なるほど、じゃあ、松岡が、それ以上のことを知っていたとしても、不思議ではない。じゃあ、あの行動は?」
と考える。
実は、高杉も、
「それくらいのことは知っているさ。俺はいちかを、それだけ好きだったんだ」
ということであった。
その時の高杉の顔は、狂気の沙汰であった。
実際に、高杉は、一人の男を殺している。その時、いちかを暴行した男だった。その時にもバレないようにということで、松岡が、高杉の犯行をカモフラージュしてくれた。そして、高杉は、松岡の犯行を、今度はカモフラージュしたのだ。
まるで、
「幇助の交換殺人」
というべきか?
しかし、今回の事件で一番許せないのは、つかさだった。
実は最初に暴行を受けていたのは、つかさで、それを助けようとしたのが、いちかだったのだ。男二人に襲い掛かられて、いちかは、無残にも暴行され、そのまま、つかさは逃げ出して、助けてもくれない。
つかさとしても、ショックではあっただろうが、保身のために、助けを呼ぶことをしあかったのだ。だから、高杉としては、
「つかさが、一番許せない」
と思ったのだ。
高杉は、つかさに近づき、部に紛れ込む。そして、偶然を装って、一緒に部活で幹事となった。
幹事になってから、高杉は、つかさと男女の関係になった。それは、別に愛があったわけではない、復讐段階の第一歩だった。
しかも、つかさは何と抗うどころか、高杉を受け入れた、受け入れてしまうと、高杉の言いなりだった。
しかし、高杉としては、つかさが、自分を受け入れたことが信じられない。
「暴行を受けたことがまるでウソのようだ」
と思うと、まさかと感じたが、
「つかさは、いちかをわざと暴行させたのではないか?」
と思った。
いちかの何かに嫉妬して、いちかを葬ろうとしたのかも知れない。
女性の嫉妬というのは、どういうことから起こるのか分からない。ただ、そうなると、つかさという女が一番の悪だということになり、この、
「制裁」
というのは、これまでの男に対しての行為をさらに正当化させる自分にとっての、犯罪の集大成だと思ったのだ。
だから、今回のことは。松岡には教えていない。さすがに彼を巻き込むことはいけないと思ったのだ。
そう、高杉はいちかを愛していた。これは間違いない。失ったショックは、兄のそれとも比較にならないと思ったのだ。
だから、いちかを殺した。
しかし、
「それを今度は松岡が、知っていて、自分の幇助をしてくれるなんて」
と感じた。
さらに、高杉がビックリしたのが、警察も、すでに、高杉が怪しいということを分かっているようだ。そうでもなければ、あんな捜査上の話を、ペラペラと喋るわけはない。
高杉は、自分の死が近いということを感じていた。
「どうせ警察も、自分たちが重ねてきた犯罪まで、明るみに出すことはないだろう。今回の事件だけを単独にするという意味でも、ここで、自分の死が、幇助までしてくれた松岡を救うことになるのだ」
と思った。
「こんなこともあろうか」
ということで、密かに手に入れていた
「青酸カリ」
これは、高杉が幇助した相手のその部屋にあったものだ。
「どうせ、こんな悪党なんだから、何かに使おうと思っていたんだろうな」
と別に不思議にも思わなかったが、その時、きっと、こうなることを感じて、その場から持ってきたような気がした。
「俺は、これで、いちかのところに行こう」
そこから先は、走馬灯のように思い出せる過去のことを頭の中に感じながら、最後にうかんだ松岡に対して、手を延ばそうとしている手が震えているのを感じたのだった。
( 完 )
交換幇助 森本 晃次 @kakku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます