煙突に吐く
nes
煙突に吐く
言葉にも0を掛けたら0になると思った欄干が灼けていて
何匹か鬼を殺してきたようなほほえみの栄える夏の駅
生きやすさと生きづらさとの間には大鎌切の楽園がある
追いつけるならば車に成り代わり轢くだろうあなたの陽炎を
カフェオレに砂糖を足している友は濃い闇を持つ 眉のあたりに
愚痴は吐くものでありつつひとびとが巧妙に吐く食事のさなか
珍しく歩道にガムの落ちていてあやうい口づけのように踏む
写真には笑っているのがよいとされ鳩の旋回する城下町
むしろ月がわたしに吠えるただなかにスマートフォンがいっときを死ぬ
湯に爪を立てれば暫し臆病な獣と風呂のなかでまじわる
窓のうらおもてを惑わせる雨よ 脳は思索のあとにすずしい
残響を止める手つきで右胸におしあてる部屋干しのバスタオル
ほんらいは墓石の色を持っているあの月はこのベランダからは
覚悟って立っているときにしかできない 遠い海辺のベンチまで来た
屋根の無いホームで霧雨を飲めばやわらかい電車になるだろう
もう久しく日焼けをしないままの手の、手相とは手の影であること
たたかいを見捨てるように離席してトイレまでゆく、鷹の速さで
時計からときおり痛いおとがする午前を午後をつよく刻めば
煙突をこころの奥に並べたい バスレーンへとずれてゆくバス
夕焼けの色のひかりの瓶としてかぞえきれない栄養ドリンク
煙突に吐く nes @nes_mochir
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