頭痛とバトンは等しく円を描く

 あの日、私は部活の大会があった。バトントワーリングの大会だ。

 自分たちの演技はとても良くできたし、昼食も美味しかったしで、私はワクワクしながら演技を見ていた。しかし、だ。不意に広げたパンフレットに、聞いたことのある高校名が乗っていた。


 私が併願校に決めようとして、結局変えたところ。中学時代のクラスメートが多く通っている高校。恐る恐る、メンバーを確認する。


「っ………!」


 あった。あってしまった。

 「凪」という名前だと仮定しよう。その高校のバトン部に、凪がいたのだ。


「凪」


 私の中では、良い「凪」だとは到底言えない。

 いつだったか。球技大会で敵である私の顔面にサーブを叩きつけた。さすがバレー部。そう思って、へにゃあと笑ってみせたら凪は…


「あははははっ!あはははっ!ごめんねーっ!」


 大爆笑したのだ。お腹を抱え、床をバンバンと叩きながら。そこから苦手意識は感じていた。


「何書いてるの?」

「…演劇部で使う台本。」

「え、キモっ。要は妄想話を書いてるってこと?妄想癖?」

「え……あ…。」


 こんなやりとりもした。

 私を笑った凪。私をキモいと言った凪。私の意見を自分のことのように発表した凪。私とペアを組むのをとても嫌がった凪。

 凪は、私を嫌な気持ちにさせる天才だった。


 凪の高校の演技が始まる。バトンがクルクルと踊り出す。あ、と凪を見つけた。相変わらずの背の高さと四肢の細さだ。

 競技フロアと2階席。かなり離れているのに、見つかってしまうような気がしてならない。もうあの頃の私とは違うのに、凪がこちらを見て笑い出しそうな気がする。

 この微かな頭痛は、気候、風邪、ストレスのどれが原因なんだろう。

 水色の派手な衣装を着て、凪は舞う。


 私は、変われない。


 ふとそう思ってしまって、自分で自分を殴る。

 凪の言葉が浮かぶ。


「変わらないねーっ!」


 中学の頃に言われたはずなのに、今に刺さった。

 少し、泣きそうになった。

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徒然なるままに 真白いろは @rikosyousetu36

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