研ぎ澄まして

今日も口角をくいっと上げ元気に挨拶をする。クラスにいた子はほとんど私の声に答え挨拶を返してくれる。

そして昼休み時間になると「昨日のあれ見た?」と学生らしい会話をして過ごしている。 

「お、加納。ちょっと職員室来てくれないか。頼み事があって。」

そう言われ私はご飯を食べる手を止め、急いで職員室に向かう。

頼まれたのは私じゃなくてもできそうなただの雑用。でもこれを頼まれるのも信頼されている証だと思い、結局はしっかり責任を持ってやる。

「学級委員って大変だよねー。でも加納ちゃんは真面目でしっかりしてるからそうでもないか。やっぱ優等生だね〜。」

職員室から戻った私をお決まりの「優等生だもんね」で迎えるのは今年同じクラスになったお友達。

仲良くなったはいいものの「優等生」というレッテルが意地悪に私にまとわりつく。だからせっかくできた友達も一定の距離で止まってしまい、そこから仲を縮めるのが難しい。

一日が終わると気疲れしてるのか何もやる気が起きない。とりあえずベッドに飛び込んだ。体は横になっていても脳はフル回転していて、今日のことや今までのことがフラッシュバックしてくる。

「ねー!帰ってきてるの?勉強は?やったの?」

「あと、お迎え行ってくるから洗濯物もよろしくね。」

ぼーっとしていたら帰ってきたお母さんの声がした。

返事する気力もなくてそのまま無視してしまった。

私は歳の離れた妹がいる。お母さんは私がしっかりしているからと言う理由で色々頼んでくる。嫌ではないけれど、ここでも「しっかりしている」というレッテルを貼られ、呆れる。

気づいたら体がさっきよりも深くベッドへ沈み込み立てそうになかった。

一人になるとふと思う。

自分の本音が言えるくらい素直でありたい。

だけど優しくありたい。周りから必要とされたい。そんな感情が邪魔をする。

生きるのが下手くそだなって我ながら思う。

私は嫌われないように取り繕ってるし、強いふりをしている。

本当はそんなしっかりしていないし、弱い。

誰かどうしたらいいか教えてよ。

気を紛らわそうと棚に並べられている本に手を伸ばす。

ページをいくつかめくるとある言葉が目に入った。

「人生は間違いばかり。それでもそんな今日をまず愛そう。」

こんなのただの理想でしかない。これができたらどれだけ楽か。

布団に潜り込みスマホを開く。暗い中での画面の明るさが眩しくて少し目を細める。

スマホに何件かの通知が来ていた。

「明日、放課後一緒に遊びに行かない?」

そんな連絡だった。普段の私なら迷わず「行きたい!」と返信していたけど、今日はそんな気になれなくて、すぐに返信しなかった。

ただ不安だった。私だけグループに馴染めていないような気がして。少し孤独を感じていた。

そんな中、遊びの誘いは嬉しいはずなのに、なぜか躊躇ってしまう自分がいる。

矛盾しすぎている。自分に呆れてしまう。

こんな矛盾もどこかの哲学書では「美しい」「美」だと言われてしまうんだろう。

呼吸を少し整える。お母さんからの期待も友達からの期待も私はまっすぐ受け止めらるだろうか。

誰かからの期待ではなくただ愛されたい、は望んでもいいのだろうか。

ベッドから起き上がり窓を少し開ける。

涼しい風が頬を撫でる。頭が一気にクリアになった気がした。

みんなからの期待を積み上げたのも私。

それが崩れてしまっても誰のでもない。

私の考え過ぎだったのかもしれない。

考えるのも疲れた。無理をするのも疲れた。でも窓から空を見上げると、空に浮かぶ月がこちらを覗いている。

「君は正しい。」そう言ってくれている気がして、なんだかほっとした。

目を瞑り神経を研ぎ澄ます。頭をもっとクリアにさせる。

誰にどう思われたっていい。私が私らしくあれるなら。私を愛せるなら。

人は不安定な生き物だから関わる中でズレや間違いもあるけれど、それも愛したい。

ありのままを愛したい。

今夜はなんだかそう思えた。きっとこの世界にいる、名前も顔も知らない誰かも同じようなことを思っているんだろう。

私たちは不器用。故に愛おしい。そして等しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も貴方に伝えたくて saya @saya190817

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ