ちいさなあくむ

水円 岳

(1)


とおのいてゆく おおうみに

きのうのかけら ふりまいて

わたしをのせた はとがとぶ

はかないゆめの にじのはし

ぜんまいのびて またきえる



(2)


そとあかるいと みんなこないの

よるはさみしい みんなねてるの

ごはんもひとり えほんもひとり



(3)


ひとりでいると ゆめをみる

ながいながあい ゆめをみる

ぎんいろとけい ぱかりとあいて

きんいろのはり かちりとなって

よるのしっぽを わにしてしまう

うそでいいから あかりをつけて



***


 本作は、十五年ほど前に小児科病棟の夜というテーマで編んだ折句。少しだけ前景を整え、トキワハゼ、ソヨゴ、ヒナギキョウの小さな花をモチーフにして定型詩をこさえました。

 詩のみを純粋に味わうという点では邪道かもしれませんが、シチュエーションを短文で掲げますので読み合わせていただければ。


 幼い女の子が一人。

 ベッドに横たわっています。


 今夜も独り。

 昼間はいてくれるお父さんも、お母さんも、看護師さんも、夜はいません。


 女の子は、両腕を伸ばして闇をまさぐります。

 そこから何か形のあるものを取り出そうと。


 でも。

 伸ばした手は虚しく空を切ります。


 痩せ細った腕が、掛け布団の上にぽそりと落ちました。

 女の子は、いやいや目を瞑ります。


 今夜も。

 小さな悪夢が、女の子の船を揺らします。

 ゆうらり、ゆうらり。

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ちいさなあくむ 水円 岳 @mizomer

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