第2話 少年A、客寄せパンダになる。
「う、うーん……」
目を覚ますと全身を縛られていて、室内を引きずられていた。何故。
しばらく引きずられると、扉の前まで連れてこられる。
扉の横には、「風紀室」と書かれた看板があった。
「風紀委員長!例の変質者を連れてきました!」
「変質者じゃないわい!」
「宜しい。入りなさい」
聞こえてきたのは少女の声だった。
少し幼さを残しつつも、威厳が載ったその声は頼りになることがうかがえて、声だけで風紀委員長に任命されるのがわかる。それくらいの、威厳。
ごクリと唾をのみ部屋に入ると――その部屋の中は、異様。そのものだった。
壁一面には銃がかけられており、そして大きな机の後ろには特大のロケットランチャーがかけられていた。
風紀を守るどころか、むしろ自分のほうから破っている。
この世界には銃刀法違反はないのだろうか。
「ご苦労。戻って頂戴」
「はッ!」
そういい、縄を僕の体に巻き付けたまま去っていった。
ポカン、としていると風紀委員長と呼ばれた少女が話しかけてくる。
「あなたが噂の変質者?」
「だから変質者じゃないってば」
「突然、わが誇り高き『陰陽師育成高等学校』の学内に現れたあなたが変質者以外の何もなのかしら?」
「うぐっ」
言葉に詰まる。
ところで、『陰陽師育成高等学校』とは何だろうか。
おそらく、その名の通り陰陽師を育成する学校なのだろうが。
「あの、陰陽師って?」
「あなた、突然現れたうえに、陰陽師も知らないの?ますます謎ね」
「で、その陰陽師ってなn」
「その説明は後。どこから来たか言いなさい。さもなくば……」
そういうと、懐から小型の銃を取り出し、眉間に突き付けてくる。
コクコクとうなずき、どこから来たのかを言う。
「えっと、トラックにひかれて気が付いたらだだっ広い草原にいて、人狼が現れて、響さんにって、ひえっ」
響と言う単語が出た瞬間、風紀委員長の顔が修羅のようになる。
「いいわ。続けて」
「そ、それで岩が頭に直撃して、気が付いたら牢獄にぶち込まれていて。そんで数年後に世界が滅亡するとかなんとか。それでこの学園に崩壊の手がかりがあるから何とかして来いって」
「つまり、式神とか陰陽師とかの説明は一切受けていないと?」
「はい」
どうやら、彼女にとって世界滅亡よりも説明のほうが大事らしい。何故。
「あいつ……説明全部丸投げさせやがって……今度行ったらもっかい牢獄にぶち込むからな……っは!失礼。それじゃぁあなたのここに来た説明も終わったことだし、陰陽師、及び式神の説明を始めましょうか」
「え、今の説明信じるんですか」
「えぇ。だって、この世界――桃源世界の神々は悪趣味だもの」
「は、はぁ」
数分間の説明を受けた後、ますますライトノベルのような世界に来たんだと実感した。陰陽師と式神の概要はこうだ。
式神・この世界に生息する、不思議な生物。種族ごとに能力がある。さっきの人狼の能力は、『天狗鼻』人狼だけど天狗鼻だ。どうやらものすごく鼻がよくなるらしい。
陰陽師・式神を使役する人間のこと。
とまぁこんな感じだ。少々和風なラノベ仕立てになっているらしい。銃はあるが。
「ところで、世界崩壊ってのは?」
「あぁ。それは、僕もよくわからないんですけど、なんか響が言ってました。『世界崩壊ルート』とかなんとか」
ようやくこの話について説明が求められると、風紀委員長がだんだんと渋い顔になる。
って、ずっと風紀委員長だと呼びにくいな。
「そういえば、名前は?」
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前は鬼灯彼岸。風紀委員長を務めているわ。
そう言えばあなた、この学園に崩壊の手がかりがあるって言ってたじゃない」
「えぇ。そうですね」
なんかよく図らないけど、響の中ではこの世界を助けることは確定していたようだし。解せぬ。
とはいえ、なんか僕にはものすごい力があるようだし、死にたくないし、頑張るしかないだろう。
「入学する?この学園に」
「はい!?」
久々だな。驚いたのは。
さっきからずっとずっと不審者不審者言ってたくせに、その当人を入学させるとは何事だろうか。行動理念ブレブレすぎやしないか。
「少しこの学園の事情が絡んでくるんだけどね。
この学園は、三つの勢力に分かれている」
『陰陽師育成高等学校』。この学校は、先述の通り三つに分かれている。らしい。
重火器を掲げ、あらゆる脅威から学園を守る風紀委員。委員長は鬼灯彼岸。
ボールや砲丸を掲げ、生徒の健康を守る体育委員。委員長は青井ひなた。
鉛筆と本を掲げ、学園の伝統を守る文化委員。委員長は菫玲子。
この三つに分かれている。
そして風紀委員は、何故か委員が少ないんだそう。決して、決して彼女が銃ですぐ脅してくるからとかではないらしい。絶対に。
そして人数によってその学園での立ち位置が変わるらしく、今最も立場が弱いんだそう。
だから、一人でも役員を増やして立場の補強を。ついでに異世界からの来訪者として客寄せパンダをしてほしいそうな。誰が客寄せパンダだ。
「てなわけで、あなたが気絶している間に偽の戸籍も作っておいたし、入学準備もばっちりよ」
はぁ!?と声を出す前に、彼女が指を鳴らすと、どこからともなく腕に風紀委員と書かれた腕章をつけた人間がやってきて、制服に着替えさせる。
「あっちょっまっ」
「よろしくね、客寄せパンダさん」
どうやら僕は、不審者から客寄せパンダにグレードアップ(?)したようだ。
桃源世界の少年少女~We are the ones who move the hands of a rusty clock~ ミャウミャウ @20240329
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。桃源世界の少年少女~We are the ones who move the hands of a rusty clock~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます