桃源世界の少年少女~We are the ones who move the hands of a rusty clock~
ミャウミャウ
第1話 少年A、牢獄にぶち込まれる。
太陽の光がぽかぽかと体を照らす。とても暖かくて、眠くなる。
もうこのまま寝てしまおうかと普段なら思うだろう。ここが異世界でなければ。
頭上には、巨大な鳥が飛んでいて、おそらく異世界だということがうかがえる。確証があるわけじゃないが。
端的に言うと、トラックにひかれて死んだと思ったらここで寝ていた。異世界転生物のド定番である。
しかし、そのド定番のチート能力は、今のところ見受けられない。
なんか適当に印結んだり呪文言ってみたり、手をかざしてみたり指を鳴らしたりしてみているけれど、一切何も出てこない。
何なら、慣れない指慣らしをしたことで、指を軽く痛めた。割と痛い。
うんうんと頭をひねりながら胡坐を組んで思案していると、北のほうに町があるのを発見した。そこに向かおうと立ち上がると、
「ぐるぅ」
「えっ」
二本足で自立したオオカミの化け物、「人狼」が突如として生成された。
「ぐるあぁ!」
「ホギャー!?」
こちらの存在に気が付いた人狼は、全力でこちらにダッシュで近づいてくる。
そして僕も、全力で走って逃げる。
命を懸けた、最悪の鬼ごっこが始まった。
「でぇぇぇぇ!」
「グルあぁぁぁぁ!」
その凶爪がその背中に迫ろうとしたその時。
上空から、巨大な音が降って来る。比喩表現でもなんでもなく、「ズドン」という形をした巨大な音である。
その音が地面を砕いたかと思ったら、そこそこ大きな石が頭部に直撃。そのまま意識を落とした。
「大丈――あっ、やばっ」
とか聞こえたのは気のせいだろう。
※※※
「うーん」
目が覚めたら、牢獄にぶち込まれていた。
とても訳が分からない。僕は混乱している。
「おう、起きたか?」
目の前には、金髪の少女が座っていた。鉄柵越しに。
その手首には手錠がつながれていたが、その先には何もなく、なにかで溶かしたかのような跡があった。
「えーと、あなたは?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺――といっても女だが。俺の名前は共鳴響。科学者見習いだ」
よく見ると、彼女の後ろには怪しい薬品があった。
科学者見習いというのが本当なのだろう。
「ほんでな、今お前がいるところは学園の地下牢なんだ。とりあえず突如として学校の敷地内に現れた怪しいお前を拘束している」
「は、はぁ」
急に現れたということは、やはり異世界転生したということだろう。
しかし、科学者見習いに何の権限があって僕のことを拘束しているのだろうか。
……まぁいいか。なんか偉いのだろう。人は見かけによらないと言うし。
「ちなみに、俺は何も偉くない。独断と偏見で捕まえている」
「おい」
偉くなかった。
ますます訳が分からない。
響は銀河級ため息をつくと、困っているようなジェスチャーをした話す。
「いやぁ、それが訳合って俺は学校の敷地内に入れないんだよ。そんで散歩の時間にお前を見つけたんで、学校に報告しようかとも思った。だけど、入れないもんでな。とりあえず、ついこの間まで俺の入っていた牢獄にぶち込んでいる」
「いろいろと突っ込みたいことはあるけど分かった」
この世界に来てから、訳の分からないことしか起きていない。
懐が広くなければやっていけない。
「ところで――その、大丈夫なの?その……頭」
「へ?」
頭を触る。すると何かべたりとした感触が。
恐る恐る手を見る。その手は、真っ赤な血の色で染まっていた。
「そういうことね!?」
「あ、あぁ、偶然とはいえ、やってしまったのは俺だし、一応謝っとくわ。ごめん」
最後に聞こえた「あっ、やばっ」ってこれか。
にしたって結構な量の出血だな。なんで生きてんの僕?
そういや、この世界ってどんな世界なんだろ。
試しに聞くと、こんな返答が返ってきた。
ここは端的に言うと、神の遊び場だ――と。
「か、神の遊び場?」
「そう。神々ってのは悪趣味で、適当に世界作ってそこに人間放り込むような奴らだ。そしてここは神々に見初められた奴らが来る場所。あんた、不運だったな」
「ってことは、響も?」
「いや?俺は転生者――見初められた奴の子孫だ」
「なるほど」
「さて、この話はそろそろ終わりにして――本題に入ろうか」
「本題?」
「そう」
一転して、神妙な顔つきになった響。これから、世界が滅亡するとでも言いたげな顔をして――
「これから数年後に、この世界は滅亡する」
本当に言った。
え、なんで僕この世界に転移させられたの?
「詳しい話をすると、どうやら俺の読み取ったふっっるい文献から、『世界崩壊ルート』と呼ばれる事象の記述が見つかった。
このまま世界は崩壊の一途をたどるだけ――なわけなかった。
その文献には、こうも書かれていたんだ。『この文献を読み解いた時、異世界よりめっちゃ中性的な男が現れるだろう。その男が世界を救う』――と」
「それほんとにふっっるい文献?」
本当本当というと、彼女は説明を続ける。
「そんでな?ちょうどこれを読み終わったのが散歩に時間だったんで……外に出たらお前がいたんだ」
「なるほど?」
つまり、僕にはその「世界崩壊ルート」やらを防げる力があるのか?
あるわけないだろう。なんも出なかったし。
「ま、おそらくお前さんはいろんなことを試して、なんも出ないから自分に世界を救う力なん恵あるのか疑心暗鬼なんじゃねーの?」
「心を読んで……!?」
「いんや?俺に心はよめねーぜ?だけど、少しばかり目と頭が良すぎるもんでな。大体考えていることがわかる」
もはや特殊能力である。
「っつー訳で、世界崩壊の原因がこの学園にあるみたいだから、何とかしてくれ。それじゃ、行ってらっしゃい」
「は?」
そう響が言うと、近くの謎の機会をいじる。すると僕のそばに真っ暗な穴が生成され――吸い込まれた。
※※※
花が咲く。
風が吹く。
そして、また一つ錆びた時計の針が動き出す。
桃源世界の少年少女~We are the ones who move the hands of a rusty clock~
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