最初の仕事



あれから一週間後。


早くもバウンティハンターとしての仕事を見つけたらしく、パソコンを持ってきた無塚は雪見に資料を見せる。


というのも、三人はあの一件以来雪見が親から誕生日プレゼントに貰ったマンションの一部屋で居候もといルームシェアをしていたのだ。



「ふーん?一年前の音楽家連続殺人犯?」


「ああ、ヴァイオリンにフルート、ハープにサックスといった演奏者を狙った殺人だ。いずれも高大生をターゲットにしていて、そのどれもがコンクールでの未解決殺人事件。」


「つまり犯人の顔と名前は分かってないんだな?」


「そうだ。だが事件が事件だから、警察はどの音楽コンクールでも覆面警察官を置いている。」


「え、初っ端から名前も顔も分からない指名手配犯なんだ?」



驚く夏河に対して、無塚の言葉に少し考え込む雪見。


ずいっとパソコンの資料に目を通す夏河は、突然何かを思い出したかのように「あっ!」と声を上げた。



「そういえば、ゆきみんも次のコンクール出るんだっけ?」


「まあ、こんな話を聞いて出ないわけにも行かなくなったしな。ちなみに被害者の死因はどうなってる?」


「……全員が演奏時の射殺。」


「射殺って…日本だよね?」


「ああ、平和大国日本での事件だ。だから警察は最初の一件以降来館時に持ち込み検査をしていたが、事件後すぐ封鎖をして持ち込み検査をしても、誰も拳銃を持っていなかった上、会場を隈なく探しても凶器が残っているなんてこともなかった。」


「つまりある意味密室トリックと。」


「うむむ、謎だ〜!」



むしゃくしゃして頭を掻く夏河は、机に置いてあったオレンジジュースをごくごくと飲む。


暖色系の色が好きな夏河にとって、オレンジジュースは昔から大好きな好物だった。


こういった頭を使う場面において、夏河にとってオレンジジュースは必須級のアイテムなのだ。



「んー。…でもまあ、オレが投げたら弾丸貫通しそうだけど。」


「それ言ったら終わりだろ。」



呆れたような視線を夏河に向ける無塚は、ロッキングチェアに座って今一度資料を見る。


ちぇ、と口を窄めた夏河はそんな無塚の座る椅子からずいっと顔を寄せてきた。



「被害者はほぼ全員が各コンクール受賞経験者か。となるとやっぱり俺狙われる確率高ぇな?」


「えっ、ゆきみんまさかの初仕事で死んじゃう?」


「いや助けろよ。」


「もちろん殺させやしないけど!でも万が一ってあるから、スーツの中に防弾板着ておきなよ?」


「着ていくには着ていくが、あんま意味ねえだろ。」


「え、なんで?」



疑問に思い首を傾げれば、頭にはてなを浮かべる夏河。


雪見自作の防弾チョッキの防御力を知っているからこその疑問だった。


そんな夏河の反応に、雪見は人差し指で自分の頭をトントンと叩く。



「よく考えてみろ、客に気付かれず遠距離から撃ったとして心臓部はともかく身体は狙いやすくとも決定的な致命傷にはなりにくい。その点頭は狙いやすく大抵すぐ死ぬ。」


「じゃあ、やっぱりオレが銃弾止めなきゃいけない感じだね?」


「そーいうことだ。」



そう言ってニヒルな笑みを浮かべた雪見。


それに釣られてふふん、と夏河は得意げに笑った。



「じゃ、銃弾はオレがどうにかするとして、犯人はどうする?顔も名前もわからないんでしょ?」


「とりあえず、ここ一年の音楽コンクールの観客演奏者情報全てハッキングしてもらう。」


「マジかよ。」


「大マジだ。つっても一応俺も手伝うが。」


「いや俺がやる。お前はお前のやることをやれ。大体、次のコンクールまで一週間もないんだろ?」


「……そうだな。」



雪見を見つめる無塚は、その雪見がどこか憂鬱そうなのを見て感じ取った。


それもそのはず、雪見はピアノ奏者として出場が決まっている……というか決められたが、稽古が面倒くさくて講師から逃げていたからだ。



「とにかく、俺はどうせコンクールには出る。というか出させられる。」


「ゆきみんってば何しても天才なんだから、どの業界もゆきみんが喉から手が出るほど欲しいだろうしね。」


「ま、運動に関してはお前がぶっちぎりだろうけどな。」


「ついでにIT分野だと無塚が化け物だ。色んな意味で。」


「うん。やっぱりオレたち、なかなか良いトリオなんじゃない?」



それに無塚と雪見はふっと優しげな顔して不敵に笑って、夏河は両手でぴーすぴーす〜!とか言ってはしゃぐ。


探偵役の雪見に情報係の無塚、実行犯の夏河。


確かに無駄がなく良いトリオで、雪見には人選スペックも高いのだろうと無塚は思った。



「じゃ、俺はちょっとハッキングしてくるわ。」



そう言ってリビングを去って行った無塚に、残った二人は苦笑いをする。



「そんな深夜にコンビニ行ってくるわ〜みたいなノリで言われてもね…?」


「俺は演奏してくるわ。」


「はーい。オレは美容のためにもう寝るから、おやすみ〜。」



各々解散することになれば、部屋へと戻って行く。


アイドルである夏河は健康に気を遣っており、雪見は防音室でピアノ練習をすることにしたのだった。







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ウィアードハンター 葵すみれ @kacao

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