第2話 トドメだ! ヴィキャン・サンライズ!
「何がヴィキャンだ! 者共かかれ!」
魔物が扇動して、攻撃の指示を出す。
わたしの脳内に、直接戦い方が叩き込まれた。
飛びかかってくるモヒカンに、パンチを一発叩き込む。
「ビヒヒイ!」
モヒカンが放物線を描いて、飛んでいった。他のモヒカンたちを巻き添えにして、地面に落下する。
モヒカンが、鎌状の武器を振り回す。
わたしは、屋敷の壁を駆け足で登って、鎌を回避した。そのまま跳躍・反転し、相手の背中側に着地する。モヒカンの腹を抱え込んで、後ろへ放り投げた。
「ヒビー!」
モヒカンの頭が、地面にめり込む。
「何をしている! 早く連れて行ってしまえ!」
怪物がモヒカンに指示を出し、伯爵を連れて行こうとする。
「させるか! レーザー・キッス! んちゅ❤」
わたしは、敵のモヒカン共に向かって、投げキッスをした。
「チョーイ!」
「ヒィーッ!」
投げキッスだけで、モヒカンたちが吹っ飛んで転倒していく。
「早く逃げるんです!」
解放されたメイドたちが、伯爵を助け出す。
「ヒール・キッス! ぅんま!」
続いて、冒険者たちに回復魔法を込めた投げキッスを送った。
ふらつきながらも、冒険者たちは立ち上がる。
「ありがとう。あなたは?」
「わたしのことはいいから、伯爵を守って!」
「わかった。感謝する!」
あとは、冒険者たちに任せよう。
「最後はお前だけです。うーんま!」
フナムシ型の怪人に、わたしは投げキッスをする。
「ヒレエレエー!」
だが、フナムシ怪人は前足でキッスを払っただけで破壊してしまった。
「んまんまんま!」
何発当てても、フナムシ魔物はびくともしない。
ボス格には、通じないみたいだ。
「ブレレレー!」
フナムシ怪人が、口から泡を吐く。
わたしは、腕で泡を防いだ。
さすがに泡を防ぎきれず、ビキニがわずかに濡れる。
「な!」
泡が当たった場所の生地が、溶けてきた。
「これは、ピンチだね!」
ビキニには再生機能があるようだが、回復が追いついていない。
防御だけしていても、変身が解けてしまうだけ。
「他に武器は、ございますか?」
「あるよ! 腰のベルトに手をかけてみて!」
「はい」
指示通り、わたしはベルトに手を添える。
キラリと、サーベルがきらめいた。
フナムシ怪人の関節の境目を狙って、突きを繰り出す。
「ビイイイイ!」
強力な装甲を持った相手も、中身に直接攻撃を受けると弱っていった。
「ブレレ! こうなったら、【
フナムシの魔物が空を見上げながら、前足をグルグルと回す。
魔物の手の動きに合わせて、雲が回転を始めた。段々と、黒く染まっていく。
暗雲から雷が落ちてきて、フナムシ怪人に降り注いだ。
「ブイイ!」
雷を浴びた怪人は、死ぬどころか魔力が増している。装甲から、トゲトゲが突き出てきた。
「パワーアップしたみたいだね! やつの力は、さっきの四倍に膨れ上がっているよ!」
「わかるんですか?」
「このビキニアーマーには、敵の戦力を分析する機能もあるからね!」
フナムシの魔物が、口から泡を吐く。
泡には、雷属性の魔法までかかっていた。
「ここで避けたら、お屋敷が!」
お屋敷を守るため、わたしはあえて壁になる。
「ぐうううう!」
わたしは、泡をまともに浴びてしまう。
感電して、身動きが取れない。
こうしている間にも、ビキニが溶け始める。
「ブイイイイイ! 覚悟しろ。女騎士! 無様に肌をさらして、骨だけになってしまえ!」
このままでは!
さっきのように壁を伝って……。
だが、お屋敷のほうが割れて、わたしを押しつぶそうとする。
「そんな! お屋敷のほうが、わたしに攻撃を!」
「待って、ラモナ! このお屋敷はニセモノだよ!」
「でも、お屋敷に違いありません」
「本物そっくりのハリボテだ! この世界は、魔物が作った幻影だよ!」
ならば、守る必要はないというわけか。
「そりゃ!」
わたしは、お屋敷の方を切り裂いた。
「ぶいいいい!」
幻影魔法を壊されて、魔物がダメージを受けている。
そういう仕掛けか。
「わたしの忠誠心を利用して、攻撃するとは。許せません!」
サーベルに手を添えて、わたしは魔力を注ぎ込む。
「ソル・セイバー!」
太陽の力が、サーベルに蓄積されていく。
「ブロロロー!」
全身を雷で包み込み、フナムシ怪人が体当たりを仕掛けてくる。
同時に、わたしも突撃した。正面から、魔物の頭にサーベルを突き刺す。
「ブイオイイイイイイ!」
サーベルを引き抜き、大きく振りかぶった。
「ヴィキャン・サンライズ!」
魔物に対して、逆袈裟に切り込む。
サーベルに内蔵した全魔力を、魔物に叩き込んだ。
「ボエエエエエエ!」
フナムシの魔物は仰向けに倒れた後、大爆発を起こした。
魔物が消滅すると、辺りの景色も元通りになる。
「勝ったよ! やったね!」
「やりました。ですが、伯爵は!」
変身を解いて、わたしは伯爵の避難先へ向かう。
だが、そこに伯爵の姿はなかった。
「閣下は!? 伯爵閣下に、何があったのですか!?」
避難先にいたメイドに、問いかける。
まさか、ムジョーに連れ去られたのでは?
「さきほど、あなたを探しに礼拝堂へ」
わたしは急いで、礼拝堂へ戻った。
礼拝堂は、ムジョーの攻撃によって無惨に破壊されているではないか。
「閣下!」
泥まみれになりながら、伯爵はガレキをどかし続けている。
「伯爵閣下! わたしはここにおります!」
「おお、ラモナ! 無事だったか! 礼拝堂にいると聞いて、いてもたってもいられず」
「大丈夫です。ヴィキャンなる覆面の女性騎士に助けていただきました」
わたしは自分の素性を伏せて、伯爵に報告をした。
「そうか。ヴィキャンというのか。彼女がいれば、ウジョーもおいそれと手出しできまい」
伯爵は、わたしを抱きしめる。
「閣下!? メイドの身で、この愛情表現は刺激的すぎますわ」
「いいんだ。よく無事でいてくれた。キミは私の、大切な人だ」
「身に余る光栄ですわ。閣下」
後日、ムジョーを屋敷に送り込んだとされる権力者が、王家の命令によって処刑された。
閣下の功績が実ったのである。
だが伯爵は、権力者のほうがムジョーに脅されていたのではと睨んでいた。
今でもムジョーは、世界を裏から操っている。
ムジョーを追いかけ続ける限り、閣下はまた命の危険にさらされるだろう。
「伯爵の命を守るため! 世界の平和を守るため! 戦えラモナ! 注染せよ! 幻装騎士 ヴィキャン!」
「いや、ビキニさん。わたしは伯爵を守れれば、それでいいですから」
盛り上がっているところ、申し訳ないが。
(おしまい)
メイドはビキニアーマーで、病弱ご主人様を闇の組織から助けたい 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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