メイドはビキニアーマーで、病弱ご主人様を闇の組織から助けたい

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 注染《ちゅうぜん》せよ! 幻装騎士 ヴィキャン!

「ラモナ。キミの紅茶はいつもおいしいよ。ゴホゴホ!」


 ベッドの上で、伯爵がまた咳き込む。

 咳をした拍子で、ベッドにおいていた書類が散らばった。


「お休みになってください、閣下。ご無理なさらず」


「そうはいかんよ、ラモナ。こうしている間にも、暗殺ギルドが国王を狙っているのだ。正体を突き止めねば」


 閣下はまだ、お仕事をなさるつもりだ。



 世界を揺るがす犯罪結社【ムジョー】を、伯爵は一人で追っている。


 ムジョーは、魔法学に詳しい人物をさらったり、実験で強化した魔物を金持ちに売ったりして、勢力を拡大していた。


 しかしムジョーの存在は、権力者に守られている。


 伯爵は闇の世界にムジョーありと、世間に公表するつもりなのだ。


「国王を、みすみす殺されてなるものか」


「あなたを静かに殺すのは、病ですわ。閣下」


「そうかもしれない。ただ、この身体は、王に預けた。私の命は、王のためにある」


「わたしの命は、閣下のためにございますわ」


「ありがとう。ラモナ。キミの言うとおりだな。少し横になろう。キミも、休むといい」


「そうさせていただきます。おやすみなさいませ、閣下」 

 

 わたしは伯爵閣下に休憩してもらう。


 閣下の回復を早めるため、離れの礼拝堂でお祈りをする。

 

 おお、伯爵閣下。おいたわしい。


 幼い頃から病弱だったというのに、閣下はドレイだったわたしを拾ってくださった。

 お風呂や、お食事まで。

 その上、体罰や恥辱などもまったく与えようとしない。

 ちゃんと人間として、見てくださっている。


 当時のメイド長からあらゆる手ほどきを受けた。戦闘術や、閣下の護衛。攻撃魔法まで。


 前任メイド長は産休に入り、今やわたしがメイド長になっている。


「本当に、わたしに使えるのでしょうか?」


 礼拝堂の棚に隠しておいた、秘密のアイテムを取り出す。

  

 元メイド長から「何かあったときのために」と預かった品があった。


 結局、前任メイド長に使う機会は訪れなかったらしい。


「有事の際に使え」といっていたけど、使うことがあるだろうか。


 おお神よ。願わくば、閣下の病を取り除いていただきたいですわ。


「ヒャッハー!」


「何事!?」


 礼拝堂の窓から、外を覗き込む。


 外を見ると、メイドたちが外に出されていた。

 伯爵まで、連れて行かれようとしている。


 伯爵を連れ去ろうとしているのは、黒尽くめのモヒカンたちだ。

 先頭を歩いているのは、フナムシみたいなバケモノである。


 モヒカンたちの死体に混じって、雇っていた騎士や冒険者たちもうめいていた。

 屈強のボディガードまで、刃が立たないとは。


「おのれ!」


 倒れていた老魔道士が、杖から炎の槍を放つ。


「チョーイ!」


 フナムシ型の魔物が、炎の槍を食べてしまった。


「そんな老いぼれの術が、このムジョーのキメラモンスターに通じるものか! チョーイ!」


 魔物は、老魔道士を蹴り飛ばす。


「ムジョーが、とうとうこのお屋敷に! 大変! まさか、これを使うときが来ようとは!」


 わたしは、宝玉を握りしめた。


 有事は、今である。


 このアイテムを、使う時が来たんだ。


 だが、入っていたのは、赤い宝玉だけである。


 これで、どうやって戦えというのか。

 

 恐る恐る、宝玉に手で触れてみた。

 なにも起こらない。


 こうしている間にも、伯爵が連れ去られようとしているのに。


「どうやって使えば……うわ!」


 突然、宝玉が光った。


 宝玉が、ビキニアーマーの形を取る。

 

「おおお? なんだ? 強い力に引き込まれたら、ビキニアーマーに転生しちゃった!」


 ひとりでに、ビキニアーマーが宙に浮かんだではないか。


 しかも、宝石がしゃべるなんて。

 

「あなたは?」


 わたしは、宝石に声を掛ける。

 

「ワタシはビキニ。もともとは人間だったんだよね」


 人間だった頃の名前もあったらしいが、もう覚えていないという。


「ゲームのイラストレーターだったんだけど、取材中に死んでしまって。ここの宝物庫に眠っていた宝玉に、転生したっぽい……って言ってもわかんないよね?」


 なんでも、前世でヨロイのデザインをしている最中に、資料にしていた甲冑の下敷きになって死んだばかりだという。

 説明がよくわからないが、とにかく甲冑のイラストを描く絵描きだとわかった。鍛冶屋か、絵描きかのどちらかだろう。


「わたしは自分では直接戦闘できないけど、『力がほしいと願っている人の装備品になれる』って力を得たんだ。で、キミにはビキニアーマーの適性があったわけだ」


 わたしが望んだ姿が、このビキニアーマーだと。


 たしかに、伯爵と初めて会ったとき、わたしはビキニの水着を着せられていた。

 幼いながらやや膨らみのあるわたしの身体を求めていると思っていたのだが、伯爵はいまだ、劣情の一切をわたしに向けてこない。

 もっと派手な色の水着なら、伯爵も喜んでくれるだろうか、と思っていた。

 それが、形になったのかも知れない。


「ビキニさん。あなたを着れば、強くなれますか?」


「そんじょそこらの雑魚敵なら、一撃さ。ワタシを転生させた女神が、そう言っていたよ。あなたをその力で助けなさいって!」


 ならば、心強い。

 

「しかし、このプロテクターの着方がわかりません」


「問題ない。ワタシが指示した言葉を発すれば、自然と身体にフィットするから!」


 わたしは、ビキニさんから言葉を教わる。

 

「参ります……注染ちゅうぜん!」


【変身コード】なる言語を発すると、わたしのメイド服が赤いビキニアーマーへと変化した。


「やったね、大成功だ! チャージタイムも、【一ミリ秒】とか、特撮番組そのままだよ!」


 胸元の宝玉から、ビキニさんがワイワイと喜びの声を上げる。


 これが、わたしの装備……。


「どういう原理なんですか?」


「この宝玉から発せられる魔力が、赤いビキニアーマーに転換されて、一ミリ秒で注染装着されるのだ! えっへん」


 聞いても、よくわからない。 


「【注染】って、元は、染め物の用語なんだよね。金属アーマー系のヒーローの変身プロセスって、たいていは「蒸着!」とか「焼結!」など、金属を扱う用語が使われるんだよね。でもこれって、特殊な布だからね」


 一人で、色々としゃべっているが、ビキニさんの言葉はよくわからない。


「覆面をかぶっているから、わたしの正体もバレません。こっそり、伯爵を助けられます」


 伯爵は、わたしに戦闘能力があるなんて知らない。

 知っていたとしても、こんなメイドなんかに助けてもらいたいと思っていないだろう。


「時間がないよね。行こう!」


「はい!」


 わたしは、窓をぶち破って外へ飛び出す。


「何事だ!?」


 モヒカンたちが、こちらに注目する。


 わたしは、伯爵を乗せた荷馬車を、素手で破壊した。


 馬車を囲んでいたムジョーの手下たちも、同様に吹っ飛んでいく。


 これは、すごいパワーだ。

 思わず、屋敷の天井までジャンプしてしまったではないか。


「ゲギョ!? 貴様、何者だ!?」


 フナムシ型の魔物が、触腕でわたしを指す。


「わたしは……ええっと」


 せっかく覆面をかぶっているのに、あやうく本名を名乗るところだった。


「ネーミングは、いかがしましょう?」


「うーんとね……ひらめいた!」


 わたしは、ビキニさんが考案した名称を教わる。


「……幻装騎士! ヴィキャン!」


 ポーズまで教えてもらい、構えた。


「……で、よろしいのでしょうか。ビキニさん?」 

 

「いいねえ、『ジャン・ギャバン』とか『ロイ・シャイダー』から名前を取った特撮番組にあやかって、『コードネーム U.N.C.L.E.』のアリシア・ヴィキャンデルから取ったんだけど。結構いいカンジじゃないの?」


 また、ビキニさんが独り言をいう。


「ビキニさん?」


「ああ、ゴメンゴメン。またトリップしていたよ」


 アーマーに内蔵された戦闘スキルが、脳内に流れ込んでくる。

 これで、ようやく戦えそうだ。

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