第2話 出会い
「みなさん着きましたよ」
その言葉でリュカは目覚めた。
「ふわぁ〜。長かったぁ〜......」
そう白髪の少年リュカは呟いた。疲れているのも仕方がない。気が遠くなるほど遠い田舎からはるばるここまで馬車でやってきたのだから。
ここは冒険者の聖地とも呼ばれる大国『デウス』の王都。リュカのように冒険者に憧れこの街にやって来る者は少なくない。
リュカは疲れながらも馬車から降りた。その瞬間、彼の眼に映ったのは数週間前まで自らがいた田舎とは人の数も、活気も、建物の多さも大きさも桁違いな光景だった......。
「ここが......冒険者の聖地か......」
「ここから僕の物語が始まるんだ...!!」
そう意気込んだその時、後ろから叫び声が聞こえた。冒険者の諍いか?良いね冒険者の聖地に来た実感がするよ......!!と少しカッコつけたことを心の内で思いながら彼は振り向いた。
だが、そこにいたのは
「うおおぉおおおおあああぁあ!!」
と、今にも死にそうな顔をしながら発狂し、全力疾走しているボサボサな黒髪をした男。そして、それを今にも人を殺してしまいそうな顔で追っている武器を背負ったイカつい男たちだった。
「待て糞野郎がァ!!」
「やだね!!まだ死にたくないんでね!!」
と互いに言い争っている。なにか揉め事があったようだ。
これは、関わらないほうが良いな。絶対。そう考えたリュカは道のすみっこに隠れるように移動した。
その瞬間、男と目が合った。一瞬男の右目が紅く光ったような気がした。
するとなぜか黒髪の男がこちらに一直線に向かってくる。偶然だと思いまた反対側に寄ってもこちらに一直線に向かってくる。
「なんでこっち来るんですか!!!!!?」
僕なんかやっちゃったかな......?
だがそんなことを考えている間に男とリュカの距離はほぼゼロになっていた。
ヤバい!!このままだとぶつかる!!とリュカはその恐怖から逃げるために目を瞑った。
しかしなぜかその男はリュカの胴体をがっしりと掴み、そのままリュカを担ぎながら全力疾走を続けた。
リュカは理解ができず一瞬フリーズする。だがそのすぐ後に
「はぁ!!!? なんですか急に!?」
リュカは大声で叫んだ。
「マジごめん!! でも君が必要だ!! 一緒にどうすれば逃げれるか考えよ!!!?」
男は意味のわからないことを叫んでいる。
「なんでよりにもよって僕!? しかもなんでそんなことしなけりゃいけないんですか!? さっさと離してください!!」
当然の反応だ。
しかしそんなことを言えていたのも束の間。
「いいの? いまここで離しても。もしかしたら俺の仲間だと勘違いされてボコボコにされちゃうかもしれないよ?」
男はニヤニヤしながらそう言い放った。
「この...っ!! 糞野郎め!!」
リュカは自分でも聞いたことのない声量で叫んだ。
「それに君、それなりに魔法使えるでしょ」
男にそう言われてリュカは驚いた。この世界で魔法を使えるのはそう珍しくはない。だが多いという訳でもない。
初対面の筈の男に魔法を使えることが気づかれた経験などリュカにはなかった。
「......なんであなたがそんなこと知ってるのか知りませんけど、今回だけですからね!!」
「助かるよ!!」
そんな会話をしている間にイカつい男たちがすぐ近くまで迫ってきている。
「早くーー!! 魔法で助けてェー!!」
「分かってますよ!! 魔法は発動まで準備が必要なんです!! 少し待っててください!!」
リュカはそう怒鳴り、眉間にシワを寄せながら魔法の準備を始める。
「風魔法『アクセラレート!!』」
すると男の脚が薄緑に光り始めた。
「思いっきりジャンプして下さい!!」
「了解!! せーの、とうッ!! ......って飛びすぎーーーーーーーーッ!!!! 死ぬーーー!!」
「はぁ......大丈夫ですよ。着地する時に僕が魔法を制御して安全に着地できるようにしますから」
少し呆れたように言った。
そうして着地寸前で男の速度はゆっくりになり、リュカの言った通り安全に着地することができ、イカつい男たちを撒くことができた。
「いや〜〜、ほんとにありがとね!! それじゃあ俺はこれで......」
男はそそくさとその場から離れようとする。だがそれを許さない男がいた。
「おい......待てよ。まさかこのまま帰れると思ってないよな....?」
男の前にはさっきのイカつい男たちと同じ顔をしたリュカが立っていた。
「あれ? もしかして俺、今から死んじゃう?」
男は震えながらそう呟いた。
「僕さ、さっきこの王都に来たばっかなんだよ。」
リュカの説教が始まってしまった。
「はい......」
「まぁとりあえず、僕が納得できるように事情を説明してください」
「もし納得できなかったら......?」
男は不安げに問いかける。
「良いから早く説明して下さいよ!!」
リュカはキレた。それも当然。あんなイカつい男たちに狙われているうちは憧れの冒険者など出来はしないのだから。
「はいぃ!!」
男は怯えながら返事をした。
「俺のことを追ってた奴らはDランクの冒険者なんだけど、あ、俺はEランクの冒険者ね。で、あいつらが罠で捕まえた魔物の素材を横取りしちゃったんだよね...」
「確かそれって規定違反ですよね? ホントに何やってんですか...でもそのくらいであぁはならないですよね? 一体なんの魔物を横取りしたんですか?」
「......クリスタルボアって分かる? Dランクの魔物なんだけど」
男がそう言った瞬間、リュカは心底呆れた。それもそのはず。クリスタルボアの額に嵌っている宝石は一体数百万以上する、激レアな素材だ。
クリスタルボアがなんなのか分かりやすくいうと、デカくて宝石が額に嵌っている猪である。
「あんた今すぐ謝ってこい!!」
「無理だよ〜!! 謝る前に殺されちゃうって!! もう.......お金ないからってやるんじゃなかった......」
「働けば良いじゃないですか」
「......この王都は魔力を使えることが前提の仕事がほとんどだろ?俺は魔力が使えないんだよ」
「!!すみません......」
「いや大丈夫。気にしてないから」
この世界で魔力を使えない人間はほとんどいない。それも王都ではなおさらだ。心が荒むのも当然か......。そう思いかけた瞬間、男が言った。
「ってことでこんな可哀想な俺に免じて今回のことは水に流してもらえないかなぁ〜」
前言撤回。こいつはただのクソ野郎だ。
「横取りした宝石返せばいいんじゃないんですか」
「......逃げてる時にどっか落としちゃった。てへっ」
「......ホントに馬鹿ですねアンタは。もう僕は行きますよ。さっきの方達に事情を説明してなんとか許してもらいます。」
そう言ってその場から離れようとする。
だが、
「やめたほうが良い。さっきの奴らはこの辺りで悪い意味で有名な冒険者パーティだ。リンチにされちゃうよ?」
そう男が言った。
「じゃあどうしろって言うんですか!?」
リュカは怒りをあらわにする。
「方法はある」
「俺たちでもう一匹クリスタルボアを捕まえるんだ」
それはどう考えても不可能な話だ。
「できるわけないでしょ。どんだけレアな魔物だと思ってるんですか?」
リュカはその話を信じない。
「それがあるんだよなぁ〜、クリスタルボアをもう一匹捕まえる秘策が。あ、もちろん君も一緒ならの話だけどな」
男はまたニヤニヤとした顔をしている。
リュカはその顔が気に入らないようで眉間にシワをよせて不細工な顔をしている。
「嘘だったら一生許しませんよ」
リュカはその話を鵜呑みにしたわけではないが、もはやそれ意外に方法がなかった。
「よっしゃあ!! 助かるよ!! あ、それと俺の名前はあんたじゃない。『アマルティア』っていう名前があるんだ。気軽にティアって呼んでも良いぜ!!」
アマルティアという名前らしい男はニヤニヤとした憎たらしい顔のままそう言った。
「ホントに頼みましたよティアさん」
「おうともさ!!じゃあ行こう!!クリスタルボア捕獲作戦、開始だーー!!」
ティアは腕を掲げそう叫んだ。
「不安だ......」
リュカは小声で呟いた。
異世界なんでも屋 アルカナ @sakusyadayo
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