第7話 スッキリしたので後は末永く
――魔王ラミアによる究極魔法、メテオが地球に落ちたその日。文字通りオワコン王国は消滅した。
元居た国民や王族、その文明どころか人が住んでいた形跡すらも、一切残らなかった。
地図にポッカリと空いた場所は、魔族が済む王国として新たに書き加えられる事が決まった。
ラミアは周囲の国に条件を言い渡した。人類への侵攻を止める代わりに、魔族によって築かれたラミアス王国の存在を認めよと。
そして、人間と魔族による不要な争いはしないこと。人間が何か仕掛けるようであれば、また隕石が落ちるだろうと。
人間達に、拒否権は存在しなかった。こうして、人と魔族の棲み分けは迅速に完了したのだった。
「終わったな」
「終わりましたね」
ラミアス王国が築かれるまでを雲の椅子からのんびりと眺めていたアルスとミリアは、長い溜息を漏らしてからそう言った。ミリアは大きく伸びをしながらスッキリとした表情で言葉を続ける。
「勇者を蔑ろにしたしょーもないクサレ王国は無事滅んでめでたしめでたし!」
「言い方。もう聖女の見る影も無くなっちゃったね君」
「肩書にこだわる理由なんて、もうありませんから。ミリアは聖女失格です!」
「なら俺も、もう勇者である必要もないな。……よし」
アルスは立ち上がり、大きく息を吸いこんでから元オワコン王国のあった場所に向かって叫んだ。
「クソ王どもめーーっ! ざまぁみろーーっ!!」
これまで勇者としての心がけを優先していたために、ため込んでいた想いを思い切り吐き出した。気分が晴れたアルスの表情は、陰りが消えたようだ。
「うふふっ、これでアルスも勇者失格ですね!」
「だな!」
憑き物を落とすことができて喜んでいた所で、雲の上はだんだん白い霧を纏い始めた。それに合わせてアルスとミリアの存在も朧気になっていく。
「あれ、なんだか視界が白くぼやけて来たな……」
「……どうやらこの時間も、そろそろ終わりのようです」
「……そう、か」
――禁呪の効果が解ける。アルスの心は急に締め付けられた。
この空間が消えたら、きっと自分と彼女はこの世からいなくなる。
成仏してしまう前に、愛する彼女に思いの丈をぶつけたくなった。
「あいつらが滅びていくのを見て、スッキリした。ありがとうミリア、これで悔い無く逝けるよ。……欲を言えば、ミリアともっと一緒に平和な時間を過ごしたかったよ。けど、それは流石に望みすぎなのかな……」
思いが次々と溢れていく。自分でも止められなくなる。
視界が滲んでいく。彼女との時間が終わってしまうのが、嫌だ。
彼女も、同じ気持ちでいてくれているだろうか。
俺と、まだ一緒にいたいと、思ってくれているだろうか。
そう思って見た彼女の顔は……キョトンとしていた。あれ?
「何を言ってるんですか? 私達はラミアさんの力を借りてラミアス王国で生き返るので、これから二人っきりのラブラブ甘々スローライフが始まるんですよ?」
「え? 今成仏の流れじゃ無かったの?」
「違いますよ?」
さも当然かのように生き返る事を知らされたアルスは、全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。自分の言ったことを思い返したアルスは、両手で顔を覆った。
「恥ずかしい……めっちゃ恥ずかしい事喋っちゃったじゃん……。ワスレテ……」
「えー? 私はアルスの本音が聞けてとっても嬉しかったですよー?」
「ニヤつきながらフォローするのヤメテ……」
ミリアからの揶揄いは、ラミアス王国への復活が完了するまで続いた。
ラミアス王国の中央に位置するラミアス城、アルスとミリアは城内の一室で復活を遂げた。二人の意識が覚醒すると、正面でラミアが直々に迎え入れた。
「待たせたのぉ、アルスとミリアよ。二人専用の部屋を設けてあるから、好きに過ごすが良いぞ! 儂の認めた客人に衣食住で困らせる事は無いと誓おう!」
「ご相伴に預かります!」
「ミリアさんちょっと遠慮無さすぎない!?」
「はっはっは! ほれアルスも、ミリアぐらい堂々と厚意を受け取ってよいのじゃぞ!」
「まあ、ラミアがそういうならいいのか。……力になれることがあったら呼んでくれ、戦力にはなれると思うからさ」
「うむ! その時が来たらよろしく頼むぞ!」
こうして元勇者と元聖女は、魔王の元での生活が始まった。アルスとミリアは結婚して仲睦まじく生涯を過ごすのであった。
……城に二人が入居した数か月後、ラミアが何の気なしに『アルスを愛人とするのも有りか? 或いは……』と呟いた事で正妻戦争が勃発したのだが、それはまた別のお話である。
とある国の因果応報を生と死の狭間から見届けてみた こなひじきβ @konahijiki-b
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