「悪役令嬢イベントが近いわよ!!」
魔法を教え始めてから1週間ほど。
どれだけ電気を発生させようとしても身体強化の魔法が出るせいか、
「いっそのこと私の体に電撃を流し続ければ電気袋みたいなのが出来て扱えるようにならないかしら!?」
と狂気的な提案をされて即断ったり、それから無茶して頑張った末に静電気程度なら指からちょろっと出せるようになったりした頃。
「スズ!!作戦開始よ!!」
唐突にお嬢様はそう叫んだ。明らかに面倒なことが起きるサインだ。
「そうですか、頑張ってくださいね。」
なので、私はいつものように適当にいなす。
「もーっ!いつもノリ悪いわよ!!今回のも悪役令嬢回避に大事なイベントなんだから!!」
するとこうやって食い下がってくる。もはやテンプレである。
「はいはい、一応話だけでも聞いてみますよ。」
「それでいいのよ!…それでね、近々あるイベントが起きるのよ。」
はぁ、イベント。
「私の悪役令嬢としての運命を決定づける、大事なイベントよ。」
今更ながら、令嬢に悪役もくそもあるのだろうか。
あれか?境遇が違えば勇者も魔王だったかもしれない~的なあれなのだろうか。
「はぁ。で、なんですそのイベントって。」
「ふっふっふ…知りたい?」
「急激にどうでもよくなりました。それでは今日の魔法の勉強についてですが」
「あーごめんって!すぐ話すからー!」
「飲み会?」
「ごめん、ちょっと間違えたかも。宴会?会食?集会?貴族が集まってなんかしゃべったり飲んだり食べたり…えーっと確か…」
「社交界のことですか?」
「そうそれ!!」
逆に飲み会なんて単語どこから覚えてきたのだろうか。
「近いうち、それに私も参加させられるのよ!!」
「お嬢様が?」
「そう!私が!」
…。
「ハッ」
「あー!今鼻で笑ったでしょ!!ホントなんだからね!!」
いやいやいやいやいやいやいやいや。
ない。
ないったらない。
そもそもまだまだ子供であるお嬢様が呼ばれるということは無いだろう。
というか最近は奇行が目立つ品性のないふるまいが多い。
これでお呼びがかかるようなら。
そしてそれを奥様とご主人様が了承するなら。
私は改めてこの家と国のバ…じゃなくて無茶苦茶…でもなくて目の節穴さ…でもなくて。
まぁ、とにかく色々疑うだろう。
「…無いと思いますけどねえ。ま、本当だというなら今からでもマナーを1から教えこまなければいけませんが?」
「うげ、それは…ううん、明るい未来の為ね!お願いするわ!!」
「正気か」
声に出てしまった。ジョークのつもりだったのだが。
まぁでもお嬢様も珍しく勉強に乗り気だ。
ここらでマナーを改めて教え込んでおけば、万が一別の「飲み会」に呼ばれたとしても恥をさらすことは無く、私にご主人様たちからの叱責が飛んでくることもないだろう。
流石私。念には念を入れて行動できるクール系メイドの鑑。
「それでは今日は魔法に関しては一旦やめとして…テーブルマナーからやっていきましょうか。」
「え゛。今日からぁ?」
「無論です」
やる気があるうちに体に教え込まなければいけませんからね。
さて。
そんな感じでマナーについて、お嬢様に改めて叩き込んだ。
叩き込んでしまった。
当然、館でも普段から品行方正なふるまいを心掛けるようになった。
なってしまった。
まあつまり館内でのお嬢様の評判が良くなるということは。
「歳のわりにできた子供」という評価につながっていってしまうわけで。
「来たわよ!!スズ!!」
凄く嫌な予感がする。後ろでお嬢様を見るご主人様や奥様の目が、何かしらの輝きを含んでいる。期待とか愛とかそんな感じの。
「……何でしょう、お嬢様。」
だが、聞かなければならない。
従者として。
導いてしまったものとして。
「手紙が来たの!!呼ばれたわ!!社交界に!!」
「うっそだろ。」
この国と家は節穴を通り越してハチの巣なんだなぁと思いました。
お嬢様が何か思い出したらしい。 箱屋 @hakogiya85
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。お嬢様が何か思い出したらしい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます