いざ、聖大陸へ


「ついに…ついに…ついに…!!」


幾十もの捨てられた魔力回路。失敗作の装甲。そして一ヶ月もの製作期間を掛けて作り上げられた青白の鎧。それは、宿の庭にて完成した。


「出来たぞー!!!!」


3メートル強の巨体。全身が魔力伝導率の高いミスリル鉱と氷龍の鱗の合金で作られていて、白の機体に青のラインが入った神秘的な雰囲気を感じさせる。


正式名称は、『龍鎧・氷鱗』。魔力を流すことで冷気を発生させ、冷気を動力に変えることで動くパワードスーツ。魔力を込めれば込めるほど強力な冷気が出現し、本来の何倍もの身体能力やエネルギーを引き出すことができる。


「んでもって、コアが手に入るまで暇すぎて作ってしまったこれ…!!」


とても脆く、壊れやすい。しかしその切れ味は世界最高峰の黒曜石と、魔力伝導率の高いミスリル鉱を合わせた合金にて作ったとある武器。


それは日本刀。大太刀と呼べるほどのサイズであり、龍鎧に取り付ける前提の性能。普通に使用するだけではちょっと切れ味が良い壊れやすい刀だが、龍鎧と合わせて使うことでどんなものもスパスパ斬れ、ばかみたいな耐久性を発揮する武器となる。


「名前は、う〜ん。まぁいいか。」


正直、ノリと勢いで作ったところはあるので、名前はいらないだろう。呼称はタルワール1号とでも呼ぼうじゃないか。


「よし、早速乗ってみよう!」


テストだテスト。宿の庭でやるのは流石に憚られるので無論外でやることにする。雪林はガープの獲物を取ってしまうことになるので、再び絶望山脈へと出向こう。


「んじゃ、起動するぞ。」


俺はアイテムバッグの中に巨大な龍鎧を保管し、ひとまずネクスから出る。そして、その背中部分がパカッと開く仕組みなので、そこから操縦席へと入る。


入った感想は、とても窮屈で暗い。魔力を入れなきゃただのデカい鎧だから当然といえば当然だ。だが、魔力を込めればそれは変わる。


「龍鎧・氷鱗、起動。」


キュイイイイイン!!!


龍鎧全体に魔力を込めると、そんな音が鳴り響きとてつもない冷気が発生する。一瞬だけ感じたその冷たさは、伝承の八寒地獄を連想する寒さだった。


だが、次の瞬間には冷気は動力へと変換される。すると視界は一気に明るくなり、窮屈さも解消される。外側からみたら、純白の鎧に青色のラインが光っているような見た目だろう。


「すっごい魔力消費。こりゃ、一般人には使えないわ。」


俺の魔力は、全開の時は師匠30人分はある。師匠も並みの魔法使いに比べたらかなり高い方なので、俺の魔力量は異常とも言えるだろう。


その俺の魔力でも、これを起動するのは半日が限界だろう。魔法やタルワール一号を使えばさらに減る。こりゃ、改良が必要そうだ。


「でも今は、性能テストだな。」


俺は、軽く足に力を込め、ジャンプしてみる。すると目視で30メートルほどは飛び上がった。そこからダッシュしてみると、まるでガープのような速さで駆けることができる。時速にして、数百キロは出ているだろう。


『ワオオオオン!!!!』


「ちょうどいいところに来たなクソ狼。」


あっという間に絶望山脈へと到着した俺が立ち止まると、早速ブリザードウルフの群れに発見された。


ブリザードウルフは勢いよく走り出し、鎧に向かってその爪を振り落とす。だが次の瞬間、驚きの光景が広がった。


『きゃうんっ!?』


鎧の胴体部分に激突した奴の右爪は、粉砕した。爪どころか、右腕全体の骨がイカれただろう。それくらいの、硬度をこの鎧は持っていた。


(エグいな…)


魔法使いで、しかも闘神気を纏えない俺の弱点である紙装甲は解決された。これならば、並の戦士なんかよりも遥かに硬いだろう。


「さて、次は攻撃だな。」


タルワール1号は、まだ使わない。ひとまずはステゴロの強さを測る。


「オラァッ!!」


『きゃうん!?!?』


爪が粉砕されたブリザードウルフは、痛みのあまり後ろに飛び退る。だがそんなのは見逃さず、地面を蹴り加速。右拳を腰だめに溜め、奴の頭部に向けて抜き放つ。


結果、爆散。頭部に右拳がめり込んだ瞬間、冷気が爆発し奴の頭部は弾け跳んだ。それはそれは、グロすぎて面白いくらいに。


「なんか、楽しくなってきたな!」


この世界に来て、近接戦闘なんて全然やってこなかったからか凄い楽しい。俺はつい楽しくなって、ここら一帯のブリザードウルフに襲い掛かる。


「おらおらどうした子犬共ぉ!!!」


『きゃうん!?』


『ぐふっ!?!?』


右ストレート、相手は死ぬ。飛び蹴り、相手は爆散する。ライダーキック、相手は死ぬ。その他にもひたすらに殴り続け、10分が経つ頃には地面に、100を超えるブリザードウルフの死体が転がっていた。


(やっべえこの鎧、バケモンみたいな強さしてやがる。)


我ながら、凄い発明をしたと思う。この大質量の鎧にぶん殴られるだけで、相当な衝撃だ。だけど、魔力を冷気に、冷気を動力に変える魔力回路の仕組みでこの大質量の鎧が時速何百キロで突っ込んでくるのだ。そりゃ、肉体が爆散してもしょうがない。


それに、弱点の脆さをカバー。タルワールによって武器戦闘も可能だし、魔導の虹杖を龍鎧に合うように作り直せば魔法も使える。それに、炎龍や雷龍など、他の龍も倒せればそれに合った龍鎧を作れるだろう。夢が広がるな。


(よし、魔石だけ回収して帰ろう。ガープさんもそろそろ戻ってきたはずだ。)


できるのなら、今度ガープに剣を教えてもらいたいな。ガープもタルワール使いだし、剣皇だし。






―――――――――――――――――――――





「てな感じで、結構使えそうです。この鎧。」


「…凄まじいな。」


宿に帰ると、ガープはすでに戻っていた。俺が椅子に座り、彼がベッドに座る形で今後の方針会議をしているところだ。


「ものは相談なんですけど、今度俺に剣を教えてくれないですか?」


「構わん。お前なら、すぐに剣聖にでもなれるだろう。」


「ありがとうございます。余裕ができたら、ガープさんの龍鎧も作りますね。」


「俺にはそれほどの魔力はない。それを装着すれば、魔力不足で死ぬだろう。」


「じゃあ、軽く魔力を吸い取る程度の魔剣でも作りますよ。」


「それくらいなら、頼もう。」


ただで剣を教わるのは、忍びない。今回の龍鎧づくりで魔力回路を組んだり、鍛冶を行ったりはだいぶ慣れてきた。何回も何回も、失敗したが、2週間くらいほぼ寝ずにやっていたら出来るようになったので、努力はすごい。


「アレン。剣を教えるのは、少し後になる。」


「なんでですか?」


「8000万ゴールド。聖大陸最北の国、神聖国アルトハイムへ行くための魔導船費用が、ついに貯まった。」


「本当ですか!?!?」


これは、本当に嬉しい。何気にこの闘神大陸にすでに数ヶ月といるのだ。ルード王国は聖大陸の中央南部だから、アルトハイムに行ってもまだまだ時間はかかるが、それでも、聖大陸に戻れるのは嬉しい。


やっと、人間の住む大陸に帰れる。それは、俺の心をとても高揚させた。


「ガープさん。本当に、ありがとうございます。」


「感謝は、お前を無事に送り届けたときに受けよう。」


「それでも、です。あなたのおかげで、ここまで来れました。」


絶望山脈に転移した時。俺は本当に、死んでもいいやと思った。最終的にはガープが助けに来てくれたが、あの時助けてくれなければ、今ごろはブリザードウルフの腹の中だろう。


それに、俺が龍鎧を開発している時もガープは毎日氷龍を狩り、素材提供と金策をしていてくれた。その甲斐もあって、今回の8000万ゴールド到達に至ったのだ。


「出発は明日だ。準備をしておけ。」


「了解しました。」


ガープはそれだけ言い残すと、荷物をまとめ始めた。明日の朝にでも出発するのだろう。今日は早めに寝ておいた方が良いな。


(ここまで、すごく長かった。)


だからこそ、油断はしちゃいけない。この闘いの地で学んだことを活かして、アルトハイムでも生き抜いてみせる。


「よし、俺も準備するか。」  


なんだかんだ言って、結構長いこと過ごしたこの地に思いを馳せるのも終わりにして、俺は出発の準備を始めた。


 

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魔法極めたら世間から魔導王って呼ばれるようになった件 〜異世界で魔法極めたいだけなのに魔王や龍神に邪魔されまくってます〜 ピーマン @atWABD

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