最後のパーツ、大決闘


「ぐぬぬ…」


聖霊闘鎧を真似た独自の兵器『龍魔闘鎧』の開発を始めてから2週間。途中までは順調に進んでいたのだが、とあるところで躓いてしまった。


(氷龍の素材で作るから、魔力を込めたら自動的に冷気が発生する魔力回路を組む。そして、冷気を自動的に動力に変え、馬鹿げたパワーやスピードを発揮できるようにする。)  


これ自体は、なんの苦労もなく成功した。今までずっと魔法の研究をしてきたからか、魔力回路や装甲設計なんかは得意なのだ。 


だが、問題はその制御だ。魔力を込めた瞬間、回路がばらばらになったり素材そのものが壊れたりする。この鎧には、制御装置がないのだ。


「これほどの兵器を制御するとなると、龍よりも強い魔物の魔石か、アダマンタイト級の鉱石を使うしかないか…」


少なくとも、この地には氷龍より強い魔物は存在しないし、アダマンタイト《世界最硬鉱》は無い。故に、俺はここで躓いた。


冷気変換、動力変換。これだけでも、ガープのような速度で剣を振ることが可能だ。だが、制御装置があればさらに色々な武装をつけられる。例えば、魔法耐性を付与したバリアとか、相手の闘神気を無効化して斬る剣とか。


(どうしたものか…)


「戻ったぞ。」


「あ、ガープさん。お疲れ様です。」


ガープが帰ってきた。そのバッグには大量の氷龍の素材が担がれている。彼は、俺の開発に非常に強い協力をしてくれている。ありがたい限りだ。


「ガープさん。とても強力な魔物の素材とか、アダマンタイトみたいなレベルの鉱石って、この街にあると思いますかね?」


「……無い、とは言い切れん。この街には、あらゆる物が集まる。探せば、あるかもしれない。」


「ありがとうございます。」


既に、頭、胴、腕、脚、のパーツは完成している。魔力回路も埋め込めているし、あとは胴につける予定の制御装置だけなのだ。


俺は、決意を胸に街へと降り立った。




―――――――――――――――――――――




「よし、探しますか。」


冒険都市ネクスの中央部は、冒険者や商人が売買を行う商業エリアだ。俺はそこに歩いて向かい、様々な露店に目を通す。


(そう簡単には見付からない。根気よくだな。)


興味深いものは多いが、探しているレベルのものは見付からない。刺さったら魔力を噴射して内部から爆発させるナイフとか、興味深いが今は買わない。


(そういや、闘神ってどこにいるんだろ?)


闘神ジークフリート。この闘神大陸にいるとのことだが、一回もお目にかかったことはない。どうやら子供っぽいお方とガープからは聞いてるけど、ちょっと会ってみたいかも。


彼だけが、あの聖霊闘鎧の仕組みを知っているのだ。そして伝記にも、かの鎧に乗った闘神は天を割り地を砕き、海を裂く力を発揮すると綴られていた。非常に、話が聞きたい。


「おい、まじか!?」


「行こうぜ!?」


「久々じゃねぇか!?あのお方がネクスに来るなんて!?」


俺が思考にハマっていると、辺りは騒然としていた。商人も、冒険者も、町人も、全員が等しく中央の公園へと集まっていく。俺もその流れに乗り、公園へと向かう。


『アーハッハッハッ!!!!!皆のもの!よくぞ集まったな!!!』


公園中央、ステージのような盛り上がった部分に立ち叫ぶ男が一人。髪の毛は緑色、キリッとした顔立ちで、身長は170ちょいだろう。だが彼から感じる圧は、あの『魔龍神』と似たものを感じさせる。


(まさか……)


『俺こそが!闘神ジークフリート!!今この場で俺と戦い奴はステージに上がれ!!一撃でも入ったら、願いを叶えてやる!!!』


俺は心が震える。あのリンドブルムと死闘を繰り広げ、生き残った化け物が目の前で宣戦布告をしていることに。そして、彼ならば、否。彼しか、今は俺の願いを叶えられる人物はいないということに。


(怖い、な…)


ここが、正念場だ。この前に立つだけで失禁しそうなほどの圧を放つ御仁に打ち勝ち、俺は願いを叶える。そう決めたときには、俺は声を上げていた。


「闘神ジークフリート様!その決闘、このアレンが申し受ける!!」


『む、むむむ???』


俺がそう声を上げ、ステージに登るとジークフリートは不思議そうな顔を浮かべて顎に手を当てた。観客も静まり返った。


だがその時に、ジークフリートは笑った。


『アーハッハッハッハ!!!!面白いな!!小僧!!周りの冒険者を差し置いて、我こそはと手を挙げるその姿勢!!貪欲だ!良いぞ!!』


ジークフリート、ちょっと長いからジークと呼ばせてもらうが、彼は俺を絶賛した。そして、背中から一本の大剣を引き抜き、ニヤリと笑った。


『俺を倒し、理想を叶えるが良い。』


「胸、借りさせていただきます。」


『来い!!』


伝説の闘神ジークフリートとの、一騎打ちが幕を開けた。




―――――――――――――――――――――




『殺しはしない、安心してぶちのめされるが良い!!』


「素直に受けないですよッ!!!」


戦闘開始。直後に展開するのは大質量の水を高熱の炎によって溶かし水蒸気散布。濃霧を発生させて視界を遮る。さらに上級水魔法水雨降臨によって雨を降らす。聴力も奪う。


だが、膨れ上がる馬鹿げた魔力。次の瞬間にはすでに、大剣は振り抜かれていた。


「予測可能ッ!!」


こんな小細工をしても、ゴリ押しで崩される。それくらいは予想している。だからこそ、こうして霧を大剣の風圧で晴れさせ、そのまま俺に斬りかかるのだって予想できてる。 



予想してれば、対策可能。俺は地面を溶かし地中に退避して風圧を避ける。元々俺がいた位置は間違いなく食らえば体がばらばらになる風圧が通り過ぎた。


(とんでもねぇ威力!!聖霊闘鎧を使わず、全力も出してないのに!!)


「ターン制バトルは、させないッ!!」


かつて、師匠が俺に言った言葉だ。俺は杖の魔石を光らせ魔法を発動。30を超える無数の蒼炎弾を奴に向けて発射。上空からは水剣を降らせ、雷魔法で雨を受ければ感電する仕組みを作る。


『5つの魔法を同時展開!!それにその魔力!俺以上だなァッ!!』


しかし、ジークが全身から凄まじい覇気の闘気を展開。嵐のように振り回される大剣によって、攻撃の尽くは撃ち落とされる。


やはり、闘神。リンドブルムと並ぶ怪物。俺なんかの攻撃ではダメージ一つ通らない。だがそんなものは、承知の上だ。


そして、反撃が飛んでくる。


『堕ちろォッ!!!』


「ぐうっっ!!??」


刹那。攻撃が止んだ一瞬の隙に、ジークは俺の目の前まで移動しており、目にも止まらぬ速度で大剣を振り落とす。俺は本能的に左手を突き出した。


抗闘結界アンチバトルフィールド!!」


闘気と反発する性質をもたせた魔力による結界、それは闘気による攻撃の威力を大幅にダウンさせる。それは、ジークの重たすぎる攻撃を俺の左腕を犠牲にして受けられくらいにまで効果がある。


「離れろッ!!!」


全身から高熱の蒼炎を噴射。まるで、ジークには効いていないが目眩ましにはなったようなのでなんとかフレアアクセルを発動し後退する。しかし、ジークの一振りが間に合ってしまい、俺の腹部は大きく切り裂かれる。


魔力はまだ十分にある。だが、出血が酷い。もう攻撃は、受けられない。


(左腕はもう使い物にならない!!)


衝撃の斬撃を真正面から受けた左腕は、肩から先の骨と筋肉がばらばらになってしまった。治癒魔法を使う暇はない。


「でも、油断しましたね?」


『む!?』


俺の左腕を差し出すことで、右手に込めていた魔力を悟らせなかった。そして、右手から放たれる魔法は、俺の最大火力である。


「希望のアリュクシオンフレア!!」


『聖級魔法!!!!良いなァッ!!!』


ドリルのような形に尖ったアリュクシオンフレア、温度を極限まで上げ、蒼炎へと変化させる。回転をかけ、貫通力を上昇。もっと鋭く、もっと速く回す。そうして出来た蒼炎ドリルを、奴に向けて放った。


「いっけえええええええ!!!!!!!!」


音速を超える速度で放たれた魔法は、ジークへと激突した。激しい土煙を上げ、轟音と共に炸裂する。そして、30秒ほどが経つと、結果は明らかとなった。


『良い、良いぞ、良いぞォ!!!!!』


闘神ジークフリートの頬には、微かな切り傷があった。ほんの少しの傷だ。でも、確かに一撃が、通った。


『小僧、名前は?』


「アレン、です。」


『アレン!!子供のくせして俺に一発かましやがったクソガキ!!願いを言え!!!』


ジークは、とてもうれしそうだ。やはり性格的に強者と戦闘が大好きなのだろう。闘いの神と呼ばれるくらいだし。


そして、願いは決まっている。最低でも、アダマンタイト級の鉱物。だが、俺は最低ラインじゃなく、最高峰を要求する。


「ジークフリート様が持っているリンドブルムの魔石を、ください。」


『………』


俺が願いを言うと、ジークは黙った。折れはやらかしたか!?と焦り散らかしたが、それは杞憂だったらしい。


『良いだろう!!!!ベン!!』


『ハッ、ここに。』


『あのクソ龍の魔石取ってこい!!』


ジークはベンという名を呼ぶと、老紳士と呼ぶべき人物が虚空から現れた。その名は、ジークの伝記を書いていた著者の名前だ。


『俺はお前を気に入ったぞ!アレン!困ったら俺を頼れ!!』


そんな言葉と共に、ジークは一つのオレンジ色に光る指輪を渡してきた。俺は無言でそれを人差し指につける。


『こちらでございます。』


ベンという名の老紳士は、まるで大玉転がしの大玉のような大きさの魔石を持ってきた。俺はそれを受け取り、領域拡大を施しているバッグへと放り込んだ。


「本当にありがとうございます。」

 

『どうということはない!!俺もアレンとコネクションを築けて嬉しいからな!!!!』


いつまで経ってもハイテンションなジークは、ベンを連れて空中へ飛び上がった。


『それではさらばだ!!ネクスの我が民たちよ!!次会うときまでに、研鑽を積んでいることだな!!!』


「「「「「「おおおおおお!!!!!!!!」」」」」」


ジークが飛び上がると、周りから歓声が沸いた。全員が戦闘民族の闘神大陸において、ジークは文字通り神様なのだろう。俺とどこか、あの神が好きになったような気がした。


まぁそれはともかく…


(これで、作れる!!!!)


俺は速攻で宿へと戻るのだった。












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