思い付きの大発明
『グオオオオオオオ!!!!!』
雪林の深くに、10メートルの体躯と二本の翼。そして氷に覆われた見事な龍鱗を持つ化け物は、まさに氷龍である。
「『破砕剣』」
そんな氷龍が、顎を大きく開きとてつもない魔力を口に収束させる。放たれるのは、辺り一帯を凍てつかせるほどの冷気を保ったドラゴンブレス。
ガープめがけて放たれたドラゴンブレスは、ガープの抜き放ちざまの斬撃によって、粉砕される。剣撃は凄まじく、風圧だけで氷龍の図体がよろめく。
その隙さえあれば、撃ち抜ける。
「
俺が向けた杖の先端から、蒼炎の弾丸が放たれる。それは氷龍の腹部へと吸い込まれ、奴の腹に巨大な風穴を開ける。氷龍は叫び声を上げジタバタと大暴れする。
そこに、ガープが駆けた。
「沈め。」
目にも留まらぬ斬撃。到底聖級や王級などに留めることのできないような剣技が、地面を蹴り奴の首前まで跳躍したガープから放たれた。横一閃の斬撃は、奴の太くて硬い首を、豆腐のように切断した。
(冒険者になって1ヶ月。やっぱ、ガープは頼りになるな。)
この氷龍狩りも、段々と慣れてきた。ガープが隙を作って俺が攻撃。ガープがすかさずトドメ。最初こそビビってたけどガープとずっと戦ってるからか速度が速い敵も見えるようになってきた。
そして、なによりこの氷龍狩り、金になる。使えるかもしれないからじゅうような魔石部分や逆鱗、爪や羽などは残しているが、それでも肉やただの鱗はかなり金になる。魔導船を使うにはまだまだ足りないけど、それでもかなりの近道だ。
「アレン、受け取れ。」
そんな無愛想な言葉と共に、ガープは一つの本のようなものを氷龍の根倉から取り出して俺に投げた。
俺はそれをキャッチして、中身を見てみる。するとそこには、闘神大陸の支配者、何千年も前から生きている『闘神ジークフリート』の伝記のようなものが記されていた。
生い立ち、信念、強さの秘訣、女の好み。闘神について詳しく記された本は、俺の興味を強く引いた。裏側を見ると、著者の名前が記されていた。
「ベン=バックス、知らないな…」
割とこの世界の歴史は調べているのだが、聞いたことのない名前だ。バックスの名字にはなんか聞き覚えがあるのだが、いまいちピンとこない。
「ありがとうございます、ガープさん。」
「気にするな。行くぞ。」
俺は初級空間魔法領域拡大にて、ボディーバッグの中を拡大して本を入れる。半径100m位の円形状の部屋くらいのスペースはあるので、遠慮なく入れていく。
ガープは根倉に他に有益そうなのが無いか確認すると、腰を上げ歩き出す。彼は1日中氷龍や青龍、そしてこの雪林に生息するあらゆる魔物を狩っている。何か、目的があると聞いたが教えてはくれなかった。
―――――――――――――――――――――
「ガープさん、月夜亭行きましょ?」
「むっ、良いのか?」
「はい!ガープさんのおかげで今日もガッポガッポですから!!」
夜も8時になった頃、俺とガープはネクスへと帰還した。冒険者ギルドで依頼達成金と素材買い取りをしてもらったことによって、今は500万ゴールドほど手元にある。
よって、今日も頑張ってくれたガープを労うためにもガープの好きな焼肉屋さんである月夜亭へと向かった。俺も焼肉が好きなので、今日くらいは贅沢していこう。
「すいませ〜ん、二名でお願いします。」
「はい、2名様ですね。こちらのお席へどうぞ。」
店に入ると、そこはいつも通りの少し和風な焼肉屋だった。店員さんの丁寧な接客も、畳の和室も、日本チックで少し懐かしさを覚える。ガープも、この畳が好きらしい。
「オークカルビとミノタウロスタン2人前、お願いします。」
「はい、承知しました。」
ガープと俺が座り、荷物や服をまとめると店員さんが来たので注文をする。ひとまずガープお気に入りのミノタウロスタンと俺の好きなオークカルビをいただこう。
(なんだかんだ、楽しいなぁ…)
つい一ヶ月前、リンドブルムに殺されかけ、師匠は死に、転移で家族と分かれ、絶望の渦中だったのに、今は割と楽しい。
こうして焼肉を食べれるし、楽しくガープとおしゃべりもできるし、冒険者として活動する中で魔法の技術も伸びて戦闘経験も積める。リンドブルムには勝てる気がしないけど、ガープ相手なら惜しいところまではいけるだろう。
「本当に、ありがとうございます。」
「礼を言うなら、お前を家に送り届けた時にしろ。まだ、お前を救えたわけじゃない。」
「そう、ですか。なら、今後もお願いします。」
ガープは、無愛想だが義理堅く、子供に優しい。剣の腕は他の冒険者に聞いてみたところ、龍剣流と呼ばれる流派の『剣皇』だそう。これは、上から2番目の位で、ただでさえ珍しい龍剣流の中でも、トップクラスの強さだそうだ。一番上は、龍剣神と呼ばれるらしい。
そんなこんなで、俺達が和んでいると、その空気をぶち壊す輩が現れた。
「よぉガープ。こんなガキのお守りとは、剣皇の名が泣いてるぜ?」
「……」
そんな舐めた言動をしながら、俺達の畳に乗り込んでくるのは、一人の男。髭を生やし、冒険者らしい軽装と一本の片手剣を持っていた。
ガープは奴の言葉を、無視した。
「無視かよ、なら、そのガキちょっと貰ってくぜ?」
「駄目だ。それをしたら、俺はお前を殺す。」
「それがしたいんだよ、お前と。本気で殺し合いしようじゃねぇか。」
奴は、俺が気づかない速度で後ろに回り込み俺の背中の服を掴みあげた。すると、ガープからとてつもない殺気が放たれる。
そして、ガープは奴の首根っこを掴み、店の窓から奴を放り投げた。
「すぐ戻る。」
それだけ言うと、ガープも奴を追いかけて外に出た。俺は店員への事情説明をさっさと終わらせ、追いかけた。
「我は剣聖!リューク!!」
「剣皇、ガープ。」
決闘方式のような挨拶をすると、リュークと名乗った男が、まるで閃光のように駆け、その刃を閃かせる。
「オラァァァァ!!!!!」
「……」
凄まじい速度による、剣撃。アクロバットな動きや奇抜な動きも組み合わさり、複雑な連撃だが、ガープは表情一つ変えず、全ての剣撃を撃ち落としている。
剣聖と、剣皇。あまりに、技術に差がありすぎるのだ。
「『龍撃』」
ガープのタルワールに、古代龍族特有の、紫色の魔力が宿る。そして放たれる大上段からの一閃。それは、リュークの剣を、真っ二つに叩き割った。
「去れ、幼き剣聖。」
「ッ…!?なぜ!お前のような強者が、ガキのお守りなどをしている!!」
「それが、俺のやるべき事だからだ。」
「違う!お前のような強い剣士は、もっと剣を極めるべきだ!お前みたいな、才能に恵まれた奴は!!」
ガープは、それ以上言葉を交わさなかった。その場にリューク一人を残して、月夜亭に戻り、ミノタウロスタンを美味しそうに頬張るのだった。
―――――――――――――――――――――
「ふむふむ。」
月夜亭でご飯を食べ、腹を満たした俺達は何日も泊まっている宿に戻った。風呂にも入り、ガープが明日にも備えて眠ったあとも、俺はベッドの上で一つの本を開いた。
「闘神、ジークフリート…」
俺が今居る、闘神大陸の支配者。普段は神出鬼没で突然闘神大陸のどこかに現れては消える謎の人物。人間ではなく、寿命が10万年近く存在し、再生能力と怪力、未来視の魔眼などを持つ戦闘民族『アレス族』の出なのだとか。
(リンドブルム、戦…)
今から、500年ほど前、闘神大陸をほぼ支配したリンドブルムを殺すため闘神ジークフリートは戦いを選んだ。
闘神たるジークフリートは、自身の象徴である『聖霊闘鎧』を着てリンドブルムと一騎打ちを行うも、奴の『魔力炉』を破壊して敗れた。だが魔力炉を破壊したことで、後の初代剣神と聖龍神レルネアがリンドブルムをほぼ無力化することに成功した。
だが同時に、闘神ジークフリートは己の象徴である聖霊闘鎧を失った。その代わり、リンドブルムの魔石の半分を手に入れた。だがショックを受けた闘神は、もう二度とリンドブルムとは戦わないと決意した。
みたいことが、リンドブルム戦には書きつられていた。そこで気になったのが、この聖霊闘鎧というものだ。この言葉は、フレアスーツを着込んだ師匠にリンドブルムが告げた言葉だ。
「ガープさん、起きてますか?」
「起きている。どうした?」
「聖霊闘鎧を、ご存知でしょうか?」
「知っている。かの闘神の切り札だ。」
「それについて、詳しく教えてくれませんか?」
もしかしたら、それを取り入れて新兵器を開発できるかもしれない。恐らく師匠も、その聖霊闘鎧を参考に、フレアスーツを作ったはずだ。
「聖霊闘鎧は、魔力を喰らい鎧が動力に変換する。そして、変換した動力で動く仕組みだ。この仕組み上、魔力を多く込めれば込めるほど、身体能力や防御力が上がる。莫大な魔力と魔眼、そして戦闘センスを持っていた闘神を強化する最高の武器だった。」
「どのような素材で作られていたんでしょうか?」
「それは知らん。だが、魔力伝導率の高い鉱物か、素材で作られていただろう。それこそ、龍鱗とかだ。」
俺はそこで、思いついてしまった。考えついてしまった。
もしも、氷龍の素材を使ってこの聖霊闘鎧と似たものを作れれば、俺も近接戦闘が出来るんじゃないかと。
もしも、リンドブルムの素材を使ってこれを作れば、世界最強の鎧ができるんじゃないかと。
(俺は闘神気を纏えない。だから近接戦闘は最弱だし、闘神気を纏った攻撃を喰らえば一撃死する。でも…)
魔力を込めれば込めるほど、機能が上がる。魔力量に関してだけは、ガープにも龍神級と褒められるくらいある。その、疑似聖霊闘鎧を俺が搭乗すれば、身体能力は数倍になり、防御力も上がるんじゃないんだろうか。
いずれ、俺はリンドブルムを殺す。あのクソ龍だけは、殺す。そのために、この鎧はとても大きな力になるだろう。
「ガープさん。これから数週間、俺は外に出ることはできません。」
「む?」
「今まで手に入れた龍の素材やブリザードウルフキングの素材、この街にあるあらゆる素材を使って、作ります。」
「何をだ?」
「龍鱗から作る聖霊闘鎧『龍鎧』です。」
ガープは、頷いてくれた。拒否するどころか快くオッケーしてくれた。薄々気づいていたが、彼は子供に激甘だ。
(久々に、集中してやるぞ〜!!)
やる気十分。こんな夜中だが、眠気は起きなかったのでどうすれば作れるかの魔力回路や構造を考え始めてしまうのだった。
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