信頼


「あの、ガープさん。」


「なんだ?」


「失礼かもしれませんが、龍族、ですよね?それも、古代龍族。」


「紋様を知っているのか、そうだ。あまり詳しくは数えていないが、600年ほどは生きている。」


「600年…」


絶望山脈からの脱出は成功した。今は冒険都市ネクスまでの道中にある雪林をガープと共に歩いている。


この道中でわかった事がある。それは、ガープさんはとてつもなく強く、優しい人物だと言うことだ。彼の放つ剣閃は、とてもじゃないが俺には見えない。比べるのもおかしいが、フレアスーツを着込んだ師匠と同等か、それ以上の速度だ。


「ガープさんは、そんな強いのに、なんでパーティーを組まないんですか?」


「俺は、パーティーは組まん。そう、決めている。」


そう呟くガープは、どこか悔しさを噛み締めるような顔をしていた。過去に、何かあったのだろうか。


ここで少し、ネクスについて話そう。冒険都市ネクスは文字通り冒険者の街だ。元々は、煉獄魔王アラフェッセの領地だったため、周辺には魔物が多く危険な地域だ。


だがそれは、貴重で使い勝手の良い素材がたくさん手に入るという意味でもある。故に、冒険者が集まり魔物を狩り、流通も良くなり商工業も発展する。ネクスはそういう面も考えて、冒険者に様々な優遇をしていのだそう。


っていうのを、ガープは語ってくれた。


「ちなみに、冒険者ランクは…?」


「Aだ。大して、依頼はこなしていないからな。」


それでも、冒険者全体の上位数パーセントしかいないAランクだ。充分凄い。


俺はおそらく、冒険者になるだろう。ネクスで冒険者として活動し、金と知名度を手に入れて魔導船の存在する都市へ移動すること。これを当面の目標にする。


それを達成するためにも、これは必要だ。


「ガープさん、俺とパーティーを組んでくれませんか?」


「断る。送り届けるのとは、話は別だ。」


「いえ、関係あります。ガープさんの冒険者ランクはA、俺が登録したてだとE。俺のランクに合わせると、大した依頼が受けられない。」


「そんなものは、分かっている。」


俺とガープ、パーティーを組めばガープが依頼を受け2人で熟すという動きができる。そのメリットを提示してもなお、彼はパーティーを組もうとしなかった。


「パーティーを組めば、情が生まれる。お前が俺を庇って死ぬようなことは、許されない。」


「死にませんよ、俺は。絶対に生きて帰らなきゃいけない理由が、あるので。」


「なぜ、断言できる?」


「ガープさんを、信じているからです。」


「…?」


俺が足を止め、そう告げるとガープは固まり困惑を露わにした。そして、会ったばかりなのに何故、そんな信頼を寄せている?と怪訝そうに言った。


「身を挺して俺を守ったあなたを。当然かのように、送り届けるといったガープさんを、信じているからに、決まってるじゃないですか。」


「そんなものは…」


「大したことです。俺はガープさんを全面的に信頼しています。だから、ガープさんも、俺を信じてください。」


一方的に守られるだけなんてのは、俺は許せない。きっと、父さんが見たら情けないと煽るだろう。リルが見たら失望するかもしれない。


「お前は、馬鹿なのか?」


「そう、かもしれません。」


大真面目に馬鹿なのか?と言うガープに、少し笑いそうになる。だが、俺が即答すると、ガープは小さくはっ、口元を綻ばせ、不器用な笑顔を見せてこう言った。


「なら、背中は任せた。」


「っ!!」


ガープは、俺のことを信頼してくれたようだ。俺はそれがとても嬉しくて、思わず飛び跳ねてネクスへの道を急ぐのだった。





―――――――――――――――――――――





「ここが…」


「あぁ、ネクスだ。」


目の前にそびえ立つのは、果てしない高さの黒い壁。それはありえない範囲を囲んでおり、要塞と呼んでも良いくらい、立派な防壁だ。


そして、門をくぐった先にあったのは、まさに冒険者の街というべき光景だった。色んな種族が武装し、楽しそうに談笑をしたり、反対に悲しみを浮かべていたり。


「行くぞ。」


ガープは言葉足らずだが、頼りがいのある背中を見せ町中を歩く。俺はネクスの地理は分からないため着いていくだけ。


「冒険者ギルド、ですか。」


「あぁ、ここで登録と依頼をする。」


5分ほど歩くと、かなり大きな建物があった。そこには剣が交差するようなシンボルが立てられており、ガープは扉を軽く開け中へと入る。


すると、周りがざわついた。


「おい、『龍剣』が来たぞ。」


「今日は一体どんな魔物をやったんだ?」


「見たとこ、ガキンチョ連れてるだけだが…」


一斉にガープへ視線が集まる。だがそれは、迫害や不快などの悪感情ではなく、もっと上位の感情。強いて言うのなら、畏怖と言うべきだろうか。


どうしても荒事が多くなる冒険者稼業において、強者は絶対。俺の目から見ても、飛び抜けた強さを持つガープは、この街の有名人と言ったところだろうか。


「ガープさんですね。今日はどのような要件で?」


「アレン、この子の冒険者登録だ。」


「承知いたしました。パーティーは組まれますか?」


「頼む。」


建物の奥の方へ進み、カウンターにて猫耳を生やす女性と会話するガープ。ここが人間があまり居ない闘神大陸なだけあって、受付嬢も獣人だった。


「それでは、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「アレンです。」


「???」


俺が答えると、受付嬢はなんて言ったのですか?と聞き返してきた。そしてここで、ようやく気付いた。


(闘神語じゃないと通じない…)


そして同時に、母へ特大の感謝を覚えた。何故なら俺の誕生日、母さんは俺に闘神語の教科書をくれたからだ。俺は一日として、勉強を怠ったことはない。


「あー、あー、すいません。」


「闘神語を、人間の子供が…」


「えーと、アレンです。」


俺がそう答えると、受付嬢は驚愕からすぐに接客モードに切り替わり、一枚の鉄製のカードのようなものに、魔力で編み込まれたインクを羽ペンに付け、文字を書いていく。無論、闘神語だ。


「年齢と職業を教えてください。」


「10歳で、魔法使いです。一応、炎聖級魔法使いです。」


「炎聖級!?」


答えると、彼女はとても驚いた。やはり、この年でこれだけ魔法が使えるのは珍しいのだろう。でも、褒められるのは慣れてないので頬が緩みそうだから辞めてくれ。


「はい。これで、貴方も冒険者です。階級は一番下のEランクになります。」


「了解しました。」


その言葉と共に、名前年齢職業、そして階級が記された鉄製のカードを渡される。そこには、パーティーメンバーであるガープの名前も記されていた。


「リオン。氷龍討伐依頼を。」


「分かりました。報酬金150万ゴールドでよろしいですか?」


「問題ない。」


ガープは、登録が終わるといつものように依頼を受ける。その内容は、全然普通にSランクの氷龍の討伐依頼だった。


(んんん!!??Sランクの討伐依頼!?)


「行くぞ。」


「あ、はい。」


拒否権は無し。すでにガープは歩きだしている。目的地は絶望山脈付近の雪林。置いてかれたら迷子になるので戦う覚悟をして付いていくのだった。


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