ブリザードウルフ・キング
「くっそ…」
行くべき方角を決め、歩きだすこと一時間。俺の足元には大量の氷狼や、氷のフクロウ、氷の巨人之死体が転がっていた。その全ては、熱によって溶かされていたが。
「一対一体がB以上…、ここまで厄介だとは。」
氷狼ブリザードウルフBランク、アイスゴーレムB+、スノーバードA−ランク。こいつ等が数十体単位で襲ってくるせいで、中々進めない。一対一体が強いから無視はできないし、倒すのにも魔力を使う。
(これが絶望山脈、Sランク冒険者でも滅多に近づかない危険地帯。)
正直、寒さと吹雪にさえ気を付ければ下りれると思っていた。だけど、そんな甘い場所では無かったようだ。
「それに、まさかとは思ってたけどさ…」
ブリザードウルフには、上位種が存在する。それは頭数が多いゆえの進化であり、そのパワースピード、魔法能力にサイズ、その全てが規格外のものへと成長する。
俺は先程から5分、魔物に襲われていない。それは一体何故か?それは、俺の目の前に映る光景が全てを物語っていた。
「よぉ、氷野郎。」
『グルルル…』
目の前に映るのは、3m級の全身を氷で覆った狼。そして、それに追従する200を超えるブリザードウルフ。
(ブリザードウルフ・キング。S−ランクの魔物、、、)
ランクにしたら、師匠や父さんよりは劣るが目の前の威風は本物だ。奴は俺が魔導の虹杖を構えた瞬間、遠吠えを繰り返し地面を駆けた。
「おっも…!!」
『ガオオォッ!!!!』
巨大な牙をむき出しにし、殺意を持って俺に噛みつこうとするキング。俺は炎の障壁を展開し奴を受け止めるが、その瞬間に地面の雪が氷へと変化し、先端が尖りながら俺の腹部へと突き刺さる。
(キングが接近戦、雑魚が魔法で補助か!王道だが、対処が厳しい!!)
「
周りに群がる雑魚30匹近くと、俺の目の前でヨダレを垂らしながら障壁を破壊するキング。その全ての足元に魔法陣が出現し、炎の柱が吹き出し業火に包む。
「動きが単純だ!!」
あちこちに出現する業火の柱によって、動きが制限されたキング。奴の窮屈な突進や噛みつき、引っ掻きは分かりやすくその全てを余裕を持って回避。そして炎剣を放ち、奴の腹部に風穴を開ける。
(肉を食らわせ骨を断つ!!多少のダメージは許容しろ!!)
未だ150匹近く残っている雑魚たちは、一斉に氷魔法を展開する。その全てを避けきることは不可能、急所以外の攻撃は受け入れ最低限の防御を行い、キングへの攻撃は止めない。
炎剣炎槍による武器攻撃、炎地雷にホーミング炎弾など、炎魔法の火力と攻撃範囲を存分に使いキングを近づけさせない。
(もう蒼炎も希望の炎も魔力的に使えない!ならば、このまま押し切る!!)
そんな事を考え、フレアサークルを再び発動。30匹ほどの雑魚を蹴散らし、キングの氷の鎧も着実に剥がしダメージを与えていく。このまま行けば勝てる、そう甘えが頭に浮かんだ。
それが、命取りだった。
『ガオオオオオオオオッッッ!!!!!!』
キングの、とてつもない咆哮が大気を揺らす。その瞬間、周辺の全ての雪と冷気がキングの右爪へと収束されていき、とてつもない威圧感を放つ。
「くそっ!?」
防御も、回避も、許されない。隙を晒してしまったこの状況で、奴の極限の冷気パンチは俺の頭部めがけて放たれた。それは、命を刈り取る一撃であり、俺の体感時間は引き伸ばされる。
目の前に迫る、死。なんとか魔法を発動しようともがいた瞬間。
俺とキングの間に、一人の白髪の男が立っていた。
「……」
『グルルル!!!』
その男は、
「………」
無言を貫き、氷絶撃を受け流す白髪の男。勢いそのままにタルワールを一閃し、ブリザードウルフキングの首を断ち切った。
あまりに速く、あまりに鋭く、あまりに、美しい斬撃だった。
「大丈夫か?」
こちらを振り返り、怖い顔を心配そうに歪めて俺の目を見る白髪の男。差し出された手を、俺は素直に握ることはできなかった。なぜなら、彼の左頬にある黒く、禍々しい紋様を、俺は知っているからだ。
(古代龍族の、紋様…!?)
魔龍神リンドブルムを始めとした、数百年前から存在する龍族の証『龍紋』。それが、彼の左頬にはあった。
「子供…、このような地に、何故?」
彼は、とても不思議そうな顔を浮かべる。そして同時に、驚愕を浮かべる。俺はつい先程、殺されかけたせいで舌がうまく回らないが、なんとか答えた。
「詳しく、は、話せません。でも、転移魔法で失敗、して…」
「なるほど、転移の失敗。座標設定のミスとなると、危機からの逃亡、か?」
「そこまで、お見通し…?」
転移の失敗。この言葉だけで、熟練の戦士は何が起きたかわかるのだろう。命の危険がある中での脱出手段としては、最適だからな。
「帰りたいか?」
白髪の男は、俺にそう尋ねてきた。俺はその問いに、今までの恐怖も、焦りも、すべてひっくるめて答えた。
「帰りたいです。帰らなきゃいけない理由が、あるんです。」
「なら、送り届けてやる。着いてこい。」
白髪の男は答えた。まるで、そうするのが当然かのように。見ず知らずの子供を助けるのを、当然のように。
(とてつもなく怪しい、古代龍族には嫌な思い出しかないし、見た目も凄い怖い。)
だけど、この人は、大丈夫な気がする。理由は一切ない。勘だ。
「おr、僕は、アレンです。」
「ガープだ。一人称は、別になんでも構わん。」
これが、俺とガープの奇妙な出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます