友達
「父さん、外に行ってくるね。」
「お?なんかしにいくのか?」
「このくらいの時期ならアルバドもいると思って、狩りにいこうかなっと。」
「なら任せた、今日の夕食はお前にかかってるぞ!」
誕生日パーティーの翌日、昨日のパーティーで食材をほぼ使い切った我が家の今日の夕食のためにも、俺は村の方に降りて食料を探すことにした。
目標はこの冬の初めくらいにのみ、我が村周辺に出現する鳥『アルバド』だ。とんでもないくらい美味くて柔らかい肉が特徴的で、食肉の中では最上位のものだ。その分、アルバドは滅多に姿を表さない。
「ようし、一応持ってこう。」
俺は自分の部屋に大切に置いていた師匠からの贈り物『魔導の
(快晴も快晴、もう11月の終わりだってのに結構暖かいじゃん。過ごしやすくて良いね。)
ちなみに、まだ魔導の虹杖をつかって魔法を発動させたことはない。どうやら師匠曰くかなり強力な杖らしいので使う場所は選べとのことだ。
「さてさて、去年はここらへんにいたはず。」
俺は暫く歩くと、去年アルバドを見つけたらへんに到着する。少し高めの草が生い茂る草原だ。ここには魔物も出現するため、杖を持ってきたのだ。
(まぁ、師匠に比べたらここらへんの魔物なんて赤子同然だけど。)
割と楽観視しながら、魔力を眼に込める。師匠から習った基本的な魔力技術だ。眼の細胞とかに気をつけて使わないと失明するから集中力がいるけど、これで視力は強化されるから見つけやすい。
「ん?ソードベア?珍しいな、こんな魔物。」
数字にして8くらいまで強化された俺の視力は、一匹の両腕から刃を無数に伸ばす熊を発見する。比較的強力な魔物、ソードベアである。
そして、ソードベアの足元には一人の少女が腰を抜かして倒れていた。その瞳には絶望が浮かんでおり、足元にはちょろちょろと液体を流している。うん、それだけは見なかったことにしよう。
「絢爛な装飾が施された服に、あの宝石の髪留め。さては貴族か?」
『ぐぉぉぉ!!!!』
ソードベアの叫び声が上がると、奴はその凶器を生やした右腕を振り上げる。そして明確な殺意を持って、それを振り下ろす。
(迷ってる暇はないな!!)
俺はそれを視認した瞬間、自身の足裏に風魔法と火魔法の組み合わせで爆発を起こし目的の方向へと超加速。右手で杖を握り奴へと先端を向け、魔法を発動する。
「
『ぐぉぉ!!??』
間一髪。振り下ろされた右腕と少女の間に体を滑り込ませた俺の前方に水の壁が展開される。それはソードベアの腕を完全に停止させ、奴を困惑させる。
(ごめんだけど、一発で殺す。)
俺はとある、致命的な欠点が存在する。不器用なのか分からないが魔力を身体に流し身体能力を強化する『闘神気』を扱えないのだ。これのせいで、魔物の攻撃を一発喰らえばほぼ即死なのだ。だから、一発で殺す。
「
『ぐあっ!?!?』
水壁は解除せずにもう一つの魔法を発動。俺の両脇に出現した水の剣は空気を切り裂く音を奏でると突撃しソードベアの腹部を貫き風穴を開け、上半身と下半身を分断する。
(凄い威力、こりゃ庭の鎧に向けて放ったら家が壊れるわ。)
俺は師匠が言った言葉の意味を理解する。だがそれは置いておいて、魔法を解除して後ろを振り向き、杖を左手へと変え空いた右手を差し出した。
「大丈夫ですか?」
「す、すごい…」
俺の差し出した右手は目に入っていないようだった。その瞳は、さきほど俺が放った水剣しか捉えていない様子だ。
少女は、身長にして140前後。透き通るような青いショートヘアーと水晶のように透明の瞳が特徴的だ。
「あ、すいません、助けてもらっちゃって…」
「気にしないで下さい、それに、貴族のお方ですかね?」
「っ!?凄いですね、貴方ほどの年の方が、それを見破るなんて…それに、その魔法…」
彼女はとても驚愕と疑問を隠し切ることはできていなかった。だがその全てを頭に置きつつも、自己紹介をした。
「私はリル、リル=ブランケットです。ブランケット侯爵家の長女です。」
「侯爵家…それほどの方が、一体何故ここに?それに護衛もいらっしゃらないようですが…」
「敬語は要りませんよ、ここにいるのは、ただの家出です。」
「警護を外せと言われましても、あなたは侯爵家…」
「ならば、侯爵家権限よ。私も敬語は使わないから貴方も使わないで。あと、名前は?」
「アレンでs、アレンだ。」
なんだか、よく言えばお転婆。悪く言えば貴族らしくないお嬢様だ。それに、何故か言いづらそうにモジモジしている。
「それで、ものは相談なんだけど…」
「なんか予想が付いてるけど一応聞こうか。」
「お願い!アレンの家に泊めて!」
「別に良いよ。」
「そうだよね、駄目だよね…って、え!?良いの!?」
「別にだめな理由ないし…父さんも母さんも優しいから大丈夫だよ。」
それに、この『ルード王国』貴族の二番手であるブランケット侯爵家の方を死なせたらどんな目に遭うか分かったもんじゃない。それに見殺しにするのも悪いしね。
「それじゃ、今日から友達ね!」
「友達、友達、か…」
「なによ?私と友達は嫌?」
「いやいや!そんなことないよ!」
でもなんだか、すごく憧れる響きなんだ。この世界に転生してから、両親は凄い優しいし師匠も厳しいけど俺を受け入れてくれる。だけど、何か寂しかったんだ。
でも、それが凄い薄れた気がした。それくらいの軽い関係なんだ、友達ってのは。だからこそ少し、嬉しい気持ちになった。
「それじゃ、今日から友達だな、リル。」
「当たり前よ!それにさっきの魔法、もう凄く凄いわ!私にも教えて!」
「貴族なんだから、今まで俺よりも凄い魔法使いに教わらなかったの?」
「さっき確信したわ!アレンより凄い魔法使いなんて居ないわ!だから教えて!」
「絶対いっぱい居ると思うんだけどな…」
そう言い切るリルは、凄く楽しそうに笑っていた。それを見て、こちらも少しだけ自信がついてきた。
「でも、教えるのは全然良いよ。日没には帰るけどね。」
「アレンの保護者にも挨拶しなきゃだしね!」
それだけ話し終えると、彼女は早く早く!と俺を急かし始めたので魔法の解説を始めるのだった。
―――――――――――――――――――――
「むむむ、出来ない…」
「ん〜、無詠唱がそんな難しい技術だとは…」
リルに魔法の指導を始めて2時間、俺はそこでとある事に気づいた。
(無詠唱は、結構珍しいのか。)
詠唱を介さずに魔法を発動するのは、とても難しく一国に一人いるかどうかってレベルらしい。俺に魔法を教えてくれた師匠も無詠唱使いだったから全然知らなかった。
「でも、リルは魔力量とか魔力操作とか、そういうのは凄いね。」
魔力量は、俺よりかは圧倒的に少ないが師匠の三分の一程度はある。魔力操作に関してはかなりスムーズだし詠唱有りだけど魔法の発動も手慣れていた。
「ちなみにリル、得意属性は?」
「治癒ね、小さい頃から得意で唯一上級まで使えるわ。」
「治癒魔法を上級!?」
俺はすっごく驚いた。まずあんまり使えるものが居ない治癒魔法が使えるのも驚きだし、それを上級まで扱えることにさらに驚く。あの師匠(見た目に反して80歳以上)ですら40歳くらいに習得したというのに…あ、俺は初級しか使えませんよ?
「リルは何歳だっけ?」
「10歳よ、ふん!アレンより年上だからね!お姉さんなんだから敬いなさいよ!」
「敬えっていうお姉さんほどパワハラ気質な人はいないよ?リル。」
「じゃあ辞めとこ!」
うん圧倒的才能、10歳の時点で上級治癒が使えるということは将来的には聖級や王級だって夢じゃない。侯爵家という恵まれた血筋と鍛錬環境も幸いしてるのだろうけど、それでも凄い。
「んじゃま、そろそろ帰ろうか。」
「アレンの家には誰が居るの?」
「父さんに母さん、それと魔法の師匠であるリシアさんがいるよ。」
「へぇ?凄い人なの?」
「あんまり表舞台には出たがらないけど、炎聖級魔法使いなんだよ。」
「聖級魔法使い!?ま、まぁ、アレンの師匠なら当然ね?」
リルは帰りの道を飛び跳ねて驚く。国に10人いるか怪しい聖級魔法使いなのだから、当然といえば当然なのだろうけど、身近にある人がそんな凄い人だとなんか変な感じだ。
「父さん、母さん、ただいま!」
「あらアレン、その子どうしたの?」
「えっとね、家出してきたらしく、あのこうs」
「ただの町娘です!家が嫌すぎて飛び出してきたところを魔物に襲われて、アレンに助けられました!」
「そうなのかアレン!こんな可愛い子を助けるなんてお手柄じゃないか!!」
「父さん、ふざけないでくれ…」
「それでものは相談なんですけど…」
家につき、扉を開けるとそこにはいつもどおりの家族団らんが広がっていた。そして、事情を話すと父さんは豪快に笑った。
「どうにか、ここに泊めてはくれないでしょうか?お父様。」
「別に構わんぞ、俺も若い頃はよく家出したからな。親が直談判して来ない限りは匿ってやるさ。」
「やったぁ!!」
「そんで、嬢ちゃんはなんていうんだ?」
「リルです!」
「可愛い名前じゃねぇか!風呂は沸かしてあるし入んな入んな!!」
父さんは明らかにデレデレしながらそう喋る。師匠は何故かこちらを凄い殺意の籠もった視線で見てくる。いや、見ているのはリルか?
「アレン!命令よ、一緒にお風呂入ろ!!」
「はぁ!?」
「強制!行くわよ!!」
「は、ちょ、待てよぉ!!」
そんなことを喚いても、年の差と俺が闘神気を使えないのも相まって強制的に風呂に連行されるのだった。そしてその様子を見て、師匠は冷静に杖を構え父さんが死ぬほど慌てていたのであった。
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