誕生日パーティー
「3日ほど、家を開けます。」
「なるほどアレンに追い抜かされそうで仕事放棄か。」
「燃やしますよ?」
「やっぱ俺に当たりキツくねぇか?」
俺の年齢がそろそろ8歳を迎える時期に、師匠は朝食の時間でそう告げた。彼女にしては珍しく、完全なる休みを所望したのだ。
「私とて、アレンの指導を放棄するのは嫌です。ですが何よりも大事なことを思い出したので、その準備をと。」
「準備…、なるほど、そういうことか。」
「え?父さんわかったの?」
俺は全然わからず、混乱したまま黒パンを口の中に放り込む。父さんはニヤニヤしていると師匠に杖を向けられ焦っていた。
「んま、そういうことならオッケーだ。」
「ありがとうございます、アレンもこの3日間サボらないでくださいね。むしろ、私を驚かせてみて下さい。」
「上等、驚きすぎて腰抜かさないでくださいね?」
師匠はそれは楽しみです、と告げると朝食を食べ終え食器を片す。そしていつものローブに恥ずかしげもなく下着姿を晒した後に着替え、杖を握り玄関へと向かった。恥じらいとか無いのだろうか。というか、こちらの目のやり場に困るのでやめてもらいたい。
(それにしても、どうしたんだろう。真面目な師匠がこれだけ家を開けるなんて初めてだ。)
これまで2年近く一緒に暮らしてきたが、こんなことは初めてだ。まぁ俺はそんな気にするものでもないかと切り捨て、朝食を片す。
「そろそろ、炎聖級魔法を教わりたいなぁ…」
俺はそうつぶやくと、今日は座学にしようと決め、すっかり魔法書だらけになってしまった自分の部屋へと戻るのであった。
―――――――――――――――――――――
現在、俺の使える魔法はかなり増えている。魔力量も日に日に増していっており、今やあの師匠に追いついたほどだ。
水魔法と蒼炎魔法は上級、光、治癒、氷は中級。風、土、雷、闇は初級まで扱える。他にも重力魔法や磁力魔法、空間魔法に時間魔法などなど強力な魔法はあるが、扱いが難しいのと師匠も使えないので教われない。
「でも、師匠には勝てねぇんだよな…」
これまで何百、何千、何万と師匠と死合をしてきたが一度たりとも勝てたことがない。かすり傷を負わせるので精一杯だ。
その原因は一重に、師匠の魔法発動速度と状況に合わせた魔法の選択。そしてその判断力や法則設定の素早さだ、師匠が炎聖級を扱わない以上、等級でのハンデはない。ならばそこしかあるまい。
(それに、師匠には杖がある。俺は杖がない。これも大きな欠点だろう。)
今手に取っている魔法書を偶然読んだときに知ったのだが、師匠の杖の先端についている宝石は魔石。魔法の杖には大体この魔石が付いていて魔法の効果を増幅させることができる。だから威力において俺は師匠に勝てることは不可能に近い。
「だがそれを抜きにしても、杖は欲しい。だってカッコいいし杖が無いと魔法使いはカッコつかないし。」
俺はこの時、呑気に魔法書を読み進めていた。その扉の奥に、聞き耳を立てる赤髪の魔法使いの存在など気付かないまま。
―――――――――――――――――――――
「こ、これは…?」
師匠がいないけど、いつも通り魔法の訓練を半日ほどやって、汗だくで家に帰還すると、そこには色とりどりの豪華な装飾がつけられ、さらに豪華ないつもは出ないような食事が並べられた机が広々と広がっていた。
「「「「誕生日おめでとう!(ございます!)」」」」
扉を開け、俺が驚愕しているとクラッカーが爆音と共に飛び出し俺の顔に紐が引っかかる。俺は真ん中に置いてあるケーキに書かれた誕生日おめでとうよ文字で気付いた。
「あ、そうか。俺誕生日か。」
「あったりめぇよ!!このためにアレンを外に出して訓練させて準備したんだぞぉ!!」
「初めて会ってから2年、早いものですね。背も随分と大きくなりました。」
「アレン!カッコいいよ!!」
皆が一斉にお祝いしてくれる様子に嬉しい。前世ではあまり祝ってくれる人物がいなかったのでなんだか新鮮な気分だ。師匠も、さっきまでいなかったのにいつの間にか居る。
「ほらほら座れ今日の主役殿!お前の帰る時間を見越して料理を作ったからな!熱々だぞ!」
「マジで!?」
「おうよ、それに皆プレゼントを用意してるからな!」
「ちょっとあなた!それはサプライズで渡すものでしょ!」
「あ、すまん!」
父さんが勢いのあまり話しすぎたせいで、母さんが父さんの背中をひっぱたく。師匠と姉さんは笑い、俺はそれを見てくすっとなる。
「よっしゃ食え食え!リシアも今日は遠慮すんな!お前の好きな果実酒も用意したんだ!」
「おっと、私の喜ぶものを分かってますね?」
「姉さん、姉さんの好きなフライドチキンあるから上げるよ。」
「いや、今日はアレンが主役。食べて。」
いつもなら喜んでいただく姉さんも、今回は我慢して俺に食べろと言った。師匠も父さんから薄い赤色の果実酒をもらい喜んでいる。母さんはそれを見て笑い、幸せそうな顔だ。
そこからは、まさに宴会という雰囲気だった。みんなで美味しいものを食べ、酒を飲み、父さんがマジックのようなものを披露して豪快に笑った。
(あ〜、楽しいな。)
俺は心の底から楽しんでいた。いつもは浮かべないようなニマニマとした笑みを浮かべ、こういう時間がいつまでも続けば良いなと思った。
「それでは、良い時間ですし、アレン。そこに立って下さい。」
「ん?なんですか?」
師匠はお酒を飲みすぎて顔を赤らめた状態で、俺を椅子から立たせる。そして師匠も椅子から立ち上がり、右手を虚空へと突っ込んだ。
(なに、あれ…?)
師匠が右手を右の傍らに突っ込むと、空間に歪みその中に右手が入る。そしてそこから右手を引き抜くと、1メートルほどの長さで、杖が漆黒で先端に虹色の拳大の魔石がついた立派な杖が握られていた。
「一人前の魔法使いになった弟子に、師匠は杖を餞別として渡す伝統があります。アレンが優秀過ぎて渡すのを忘れていましたが、受け取ってくれますか?」
「も、もちろんですよ…。こんな立派な杖、もらっていいのか不思議なくらいです。」
師匠が両手でプレゼントを渡すように、丁寧に俺に杖を差し出す。俺は両手で受け取り、しっかりと握り穴が空くように見つめた。
「魔導の
「当たり前じゃないですか!一生使います!」
俺はもう大興奮だ。思わず師匠に抱きついてしまったが師匠は一瞬ビックリした後、俺のことを抱きかかえて父さんの前においた。
「なぁアレン、魔法は好きか?」
「もちろん、大好きだよ。」
「ならお前に一つ教える、魔法は強いし便利だが、全てを守ることは出来ない。魔法だけを極めるんじゃなく、その欠点を探し出しカバーすることも重要だ。」
父さんはそう言葉を並べたあと、コホンと咳払いをして立ち上がり、タンスを開けて一本の長剣を取り出した。
「硬いものほど、よく切れる。単純明快だが冒険者時代の父さんの愛剣『黒曜剣』。これを、アレンにやろう。」
「良いの!?こんな凄い、高そうな剣。」
「あぁ、アレンが使え。もう前線に出ない俺が持っていてもしょうがない代物だ。それに、お前ならもっと有効活用できると思った。」
そう言って渡されたのは、柄から刀身に掛けてその全てが漆黒の剣。刀身だけで1メートル近くある大剣に近い長剣で、何十年と使い込まれた形跡を感じる。
「ありがとう、父さん。絶対大切にするよ。」
「大切にすんのはいいが、ちゃんと使ってやれよ。」
「ちょっとアレン、母さんからも渡させて?」
俺が父さんと話し始めると、母さんが慌てて俺の肩に手をおいた。俺が母さんの方を向くと、一つの本を差し出した。
「アレンは魔法を使えるから、魔神語は使えるけど闘神語は使えなかったわよね?」
「これ、、、闘神語の本!?」
差し出された本を手に取り、驚愕する。闘神語は扱うものが少ないのと扱うものは基本戦闘民族なので言語を教えてなどくれない。そのせいであまりにも闘神語の本は少ないのだ、その教本が今、手にある。
(いずれ、世界を旅したいとすら思っていたし凄い嬉しい。戦闘力を鍛えるのも良いけど、勉強もしたかったし。)
俺は、右手にマジックウォンドを、左手に黒曜剣を、膝の上に本をおいて座る。そして、自分が感じている幸せを、噛み締めた。
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