師匠
「
父さんが騎士で、さらに無駄に広い村を統治している影響でうちには大きな庭がある。その右端には父さんの訓練用に使われていた再生鎧が置かれている。俺はそれに向けて、高スピードで鋭利な水剣を飛ばす。
水剣は鎧を貫通し、風穴を開ける。俺がふぅと一息つくとその瞬間に再生していた。
「よし、中級魔法の扱いにも慣れてきた。」
俺は3歳になった。時間の流れは早いもので、俺が魔法の修行を始めてから2年半も経ってしまった。
だがその間で、俺はかなり成長した。初めて蒼炎球を使ったときは2発打つだけで気絶するくらいの魔力量だったが、今では数百発打っても気絶しなくなった。
「アレン、相変わらず凄い魔法だな。」
「父さん!今日は早いね!」
「あぁ、アレンのために頑張ってきた!」
俺が今の水剣の魔法で、少しズレた魔力制御を修正していると父さんが庭に入ってきた。普段なら仕事をしている時間帯なのに、珍しい。
「それにしてもすごいな、3歳で2属性の中級魔法を扱うなんて。」
「いやいや、まだ水と蒼炎しか使えないから。風と地は適正が薄くて全然使えないよ。」
魔法には等級が存在する。七段階に分かれていて、大雑把にするとこんな感じだ。
初級魔法。魔法使いの入門とも言える等級で子どもやあまり練達していない魔法使いは一部を除きこの等級しか扱えない。だが、それでも攻撃魔法は充分な殺傷能力を持つ。
中級魔法。これを発動できれば一人前の魔法使いと呼ばれる。殺傷能力、範囲、利便性、どれを取っても初級とは一線を画す。
上級魔法。一般魔法使いの頂点とも言える等級で、凡夫な才能しか持たぬ魔法使いは上級魔法が限度、だが中級よりも殺傷能力があり、範囲が狭まる。一対一において強さを発揮することが多い。
聖級魔法。特別な血筋や、天才と呼ばれる人物しか扱えない高等魔法。天候操作や地形変化等の超広範囲に及ぶ魔法を展開する。
王級魔法。天才や王族が極限まで鍛錬を積むことでたどり着ける領域、街一つを滅ぼすほどの範囲や威力を持ち、王級魔法を扱えるものは一国に指で数えられるほどしか居ない。
皇級魔法。勇者や魔王といった神に選ばれし者のようなものが扱える魔法、即死効果や大地震を引き起こすなど、規格外の魔法。
神級魔法。文字通り、神にしか使用できない、もしくは神に相当する人物しか使用できない禁術。死者蘇生等の世界の理を破るような芸当を可能にする。
「それでも、だ。アレンはこれからもっと凄くなる。」
「ありがとう、父さん。それなら今度上級魔法の魔法書を買ってきてくれる?もう少しで水の中級魔法はコンプリートできそうなんだ。」
俺は庭の端においてあるベンチに置いた、水の中級魔法が記されている魔法書を見て父さんに言った。辞書のような分厚さだが、一年近くかかったがようやく制覇できそうだ。
(まだ中級、将来的には聖級や王級の魔法だって習得したい。なら立ち止まってちゃいられないんだ。)
「向上心一杯で親として嬉しいよ、そんなアレンももう3歳だ。一つ、提案がある。」
「お?父さんが勿体ぶるなんて相当だね?」
父さんは嬉しそうな顔をしながら話題を上げようとした。俺は全身の魔力操作を解き父さんをニヤニヤしながら見つめた。
「父さんの昔の仲間、炎聖級魔法使いの方にお前の家庭教師を頼んだんだ。」
「え!?」
「快諾してくれたよ、『任せて下さい』。ってな風に。」
(まじまじまじ!?)
俺は嬉しくなって思わず飛び跳ねた。だがしょうがない、こればかりは前世の俺もアレンとしての俺も満場一致で歓喜している。だって一国に10数人しかいない聖級魔法の使い手に教われるのだから。
「楽しみになってきた…」
ドキドキワクワクを胸に秘めながら、いずれ来る魔法使いに想いを馳せるのであった。
―――――――――――――――――――――
「ごめんくださ〜い、バルド?いますよね?」
そんな言葉と共に、玄関の扉がコンコンと載っくされる。父さんはそれに反応し、やっと来たなぁ?とニヤリと笑った。
(あ〜、緊張してきた。)
今の声を聞いた限り、女性だ。それも幼い声に近いが父さんの知り合いということは普通に成人のはず。それに魔力を全然感じない、相当な技術で隠しているな。
「よっしゃアレン、クソ真面目なお前と馬が合いそうな奴だから自己紹介しろよ。」
「もちろんだよ、父さん。」
3歳のくせに、グッドサインを出して父さんと一緒に玄関へと向かう。そして父さんが玄関の鍵を開けた時、扉がゆっくりと開かれた。
「久しぶりです、バルド。老けましたね。」
「お前は全然変わってねぇな、ロリのまんまだ。」
「燃やしますよ、そういうところは変わって無くて安心です。」
扉を開け入ってきたのは、くるくるとした長い深紅の髪と、赤と白が入り混じった瞳、そして身長にして140ほどしかないだろう体躯が特徴的なローブ姿の魔法使いだ。彼女は父さんと軽い会話を交わすと、しゃがみ込んで俺の顔を覗き笑った。
「3歳とは思えない魔力、澄んでいて心地の良い魔力ですね。」
「あ、ありがとうございます…?」
「そんなに緊張しなくても良いですよ、私は
リシア=クラウディア。バルドの元パーティーメンバーでした、確か、七年ほど前でしょうか。」
俺の顔を覗き込みながら、そう自己紹介をするリシアさん。いや、ここは敬意を込めて師匠と呼ばせてもらうとしよう。
「アレンです。炎聖級魔法使いであるリシア師匠に指導してもらえること、光栄に思います。」
「っ!、その年でそんな丁寧な言葉遣い、驚きました。」
「だろ?でもうちのアレンの魔法はもっと凄えぜ?」
「それは、楽しみですっ!」
父さんが茶化すと、師匠は俺のことをお姫様抱っこで抱えて立ち上がる。そして俺は、思った。
(絶壁だ…)
師匠のグランドラインは見事に水平線で、そこには絶壁しか広がっていなかった。でも、師匠の美麗なお顔が近づいて少しドキッとしました。
「バルド、庭をお借りしますね。」
「実地テストってやつか?構わねぇよ。」
「私は人にものを教えるのが得意ではありません、だから、私がやっていた修行と同じことを行います。」
「そりゃ、アレンが潰れないか心配になってきたわ。」
そう言葉を交わす師匠は、何故か凄く恐ろしい笑みを浮かべていた。
―――――――――――――――――――――
「整備が行き届いてる。良い庭ですね、アレン。」
「母さんの趣味なんです、だからこの訓練場から離れた左端の方には栽培が難しい花なんかも咲いているんです。」
俺を抱きかかえたまま庭へと向かった師匠は、恐らく数年ぶりに見た庭を見て驚いた。まぁ俺も最初は驚いた、右端の訓練場には質の良い芝生が、左には温度が関係して育てるのが難しい美しい植物が生い茂っているのだ。
「さて、ここらへんで良いでしょう。」
再生鎧のすぐ近くまで移動した師匠は、俺を地面に下ろして、さっき会ったときからずっと背中に担いでいた一メートルほどの杖を左手に握り抜き放つ。その先端には、拳大の赫い魔石があった。
「それではアレン、魔法とはまず何か、分かりますか?」
「魔力を詠唱や魔法陣、強いイメージ等で変化させ特有の効果を生み出す術です。」
「正解です。基礎知識はあるようですね、なら魔法教本では教えてくれない技術を教えましょう。」
師匠はそう告げると、杖の根元を地面から浮かせ、先端を再生鎧を向ける。そして空気が変わった。
(凄い魔力、涼しい顔してとんでもないことしてる。)
師匠から漂う魔力は赤く、とても力強い魔力だった。それは杖の先端に収束し、見たことのあるただの火球へと変化する。
「アレン、これがなにか分かりますか?」
「
「えぇ、ただの火球です。ですが、ここに威力や速度の調整を加えると…」
(早速知らない単語が出てきたな。)
師匠がそんなことを呟くと、火球にさらなる魔力が込められる。すると火球から感じる熱はさらに強くなり、色は深い赤へと変化する。
「
師匠の目がより一層強く開かれると、杖の先端に出来た火球が発射される。それは俺の放つ火球よりも速く、再生鎧にぶつかった瞬間激しい爆発音が鳴り、鎧を粉々に破壊する。
(すんげえ威力、ただの火球なのに俺の蒼炎球と同じくらいの威力だ。)
「魔法は、魔力を込めれば込めるほど自由度が上がります。威力、射出速度、範囲、温度。その他諸々を込めた魔力に合わせて設定できます。これを、魔法の法則設定と言います。」
「魔力の、法則設定…」
「これを極めれば、初級魔法でも上級魔法に匹敵する威力を出せます。そのためには魔力が必要ですが、アレンは見た限り魔力には恵まれていますし、そこの心配はいらないでしょう。」
やはり、リシアが師匠で本当に良かった。だってこの人、凄い楽しそうだもん。
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