第20話 バダンテール伯爵と
「見つけました! こちらです!」
僕を見た完全装備の兵士が叫ぶ。
これってマズい状況じゃない? 作戦では見つかる前にバダンテール伯爵領を出るはずだったのに、もう見つかってしまった。
逃げなきゃ!
僕が椅子から腰を浮かせた時、信じられない人物が現れた。
「領主様!?」
村長さんが慌てたようにひざまずく。
そう。現れた人物こそ、伯爵位にふさわしい覇気をみなぎらせた壮年の男。この領の領主、バダンテール伯爵様だった。
◇
僕と伯爵様は、村長さんの家のテーブルを挟んで向かい合って座っていた。伯爵様の後ろには、完全装備の兵士が二人、護衛に付いていた。
どうやら伯爵様は僕を強引に連れ戻すのではなく、話し合いの上で僕に戻ってきてほしいみたいだ。
なんで命令しないんだろう?
<リュカ、頷かないで聞いてね。伯爵の兵力は、全部で十人みたい。これならいつでも蹴散らせるから、安心して!>
ジルが僕に耳打ちしてくれた。少しだけ心が落ち着いた。
「『精霊の愛し子』よ、此度の顛末は聞いた。まずは村を救ってくれたことを感謝しよう。そして、儂の不肖の息子がしでかしたことも知っている。そちらについては謝罪する。この通りだ」
「え!?」
僕は心臓が口から出てしまいそうなほど驚いた。だって、お貴族様が僕に頭をちょこんと下げたのだ。普通ならありえないことだ。なにが起こっているの!?
「『虹の翼』の面々は、現在、牢にぶち込んでいる。もしキミが望むのなら、彼らを奴隷にすることも、処刑することも可能だ」
「……はい?」
もう驚き過ぎて言葉が出てこない。だって、『虹の翼』ってお貴族様の冒険者パーティなんだよ? それが奴隷になる? 処刑することも可能? どういうことなの!?
「キミは彼らを恨んでいるのだろう? 奴隷に落とすもよし、綺麗さっぱり処刑してしまうのもありだ」
「え!? だって、テオドール様やクレマンス様は伯爵様の……」
「ああ、あれらとはもう親子の縁を切った。儂を殺そうとしたからな。もうキミの好きにしてくれてかまわない」
もうなにがなんだかわからなかった。
<リュカ、相手に吞まれてはいけませんよ>
シーネの声が聞こえる。そうだ。僕はもう唯々諾々と命令を聞くだけの奴隷じゃない。ちゃんと自分で考えなければ!
「もちろん、こんなことでキミの気が晴れるとは思わない。これからは儂にできる最大限でキミを歓待しよう。美食、美酒、美女、すべて揃えよう。このまま逃亡生活をするよりも楽ではないかな?」
伯爵様が一生懸命僕の気を引こうとしているのがわかった。
なんでだろう? 僕なんかにそんな好待遇を用意して、いったいなにが目的なんだ?
今の僕は、奴隷から解放されたとはいえ、ただの平民だ。お貴族様である伯爵様の命令には逆らえない。
まぁ、命令されたら僕は逃げるけど。
でも、逃げたことを口実に罪として、指名手配なりなんなりして、また奴隷にすることだってできるはずだ。
なのに、なぜ?
その答えは伯爵様自身の口から語られることとなった。
「どうだろう? 儂にはキミを養子に迎える準備もある。キミは貴族になれるんだ。だから、一度屋敷に戻ってもらえないか? そしてもう一度、儂に精霊と契約をさせてほしい」
たぶんこれだ。伯爵様がなんとかして僕を引き留める理由。それは、精霊との契約だ。
そのために僕にいろいろなものを与えて気を引こうとしている。
「頼む、儂を助けると思って精霊との契約をさせてくれないか? 儂は一生かけてその恩をキミに返そう。そのための契約書も用意した。あとはキミが了承さえしてくれれば、なに不自由ない貴族としての暮らしが待っているんだ。だから、頷いてくれ」
伯爵様が一枚の羊皮紙を取り出した。僕にはわからないけど、ずらりと契約内容が書いてあった。
<リュカに不利な条件は書いてありません>
字の読めない僕に代わって読んでくれたシーネが教えてくれる。
伯爵様は本気だというのが伝わってきた。
僕はたしかに奴隷という立場だったけど、この歳まで生かしてもらった恩を感じている。
「伯爵様、恩を仇で返す形になってしまい申し訳ありません。でも、僕はもう自分の精霊を手放したくはないのです」
伯爵様の恩には報いたい。でも、僕にはもう精霊たちを裏切るようなマネはしたくなかった。
「……キミは儂に恩を感じているのか?」
伯爵様が意外そうな顔で僕を見ていた。
「はい。この歳まで生かしていただきましたから。それに、僕はテオドール様たちのことを恨んでもいません。できれば処刑はやめてあげてください」
「はは……」
僕が頭を下げると、頭上から伯爵様の乾いた笑いが聞こえた。
「まさかこれほどとは……。できることなら、本当にキミを儂の息子として迎え入れたかった」
そう言って伯爵様が立ち上がる。
「儂にはキミはいささか以上に眩しい。できればその心を失わないことを願っている。バダンテール伯爵家のことはキミに任せよう。潰すも存続させるもキミ次第だ」
「僕にバダンテール伯爵家を潰す意思はありません。その、お力になれず申し訳ありませんでした」
「いや、いい。なぜか今はとても清々しい気持ちだ。キミの旅の無事を祈っているよ」
そう言うと、伯爵様は村長さんの家から出ていった。
◇
そうして僕たちは自由に旅を続けていた。急ぐ必要もなくなったし、これからはゆっくりと各地の文化や名物料理なんか楽しむのもいいかもしれない。
それにしても……。
「うーん……」
僕の目の前を四人の中級精霊が飛んでいるのだけど、どの子もその、パンツがちらちら見えてる。目のやり場に困るなぁ……。
僕は心を落ち着けるために胸に抱いたハニワのピカピカな頭を撫でる。
すると、ハニワのダンスが加速するのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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