第19話 大宴会
<リュカ、あなたはいい子ですね。よしよししてあげます>
「わかった、わかったから!」
僕は昨日からナデナデマシーンと化しているシーネに頭を撫でられながら、騒ぐ村人たちを見ていた。
ゴブリンたちとの戦闘から一夜明けた今日、村はお祭り騒ぎになっていた。怪我人は出たけどシーネの魔法でもう治っているし、死者も無く百体以上のゴブリンを倒したんだ。今日ばかりはみんな仕事をほっぽり出して、村を挙げての大宴会だ。
お酒もふるまわれて、それはもうどんちゃん騒ぎである。まぁ、僕はジュースを飲んでいるんだけど。
<この酒ってのはうまいな! 気に入った! リュカ、買い込んでくれ!>
「わかったよ」
精霊たちの説得(物理)によって服を着たフレアが、お酒の入ったコップを持ち上げて気持ちよさそうにお酒を飲んでいた。
フレア。中級精霊に進化し、その圧倒的な力でゴブリンキングを倒した火の精霊だ。元は尻尾に火のついたトカゲのような姿をしていた。今は深紅の髪をなびかせたお人形サイズの褐色の肌の美少女だ。そのあまりの違いに眩暈がしそうになる。
<この服ってのは邪魔だな。なんでニンゲンはこんなのをわざわざ着てるんだ? 邪魔でしょうがないだろ?>
「うーん……。尊厳を守るため……かな?」
中級精霊に進化したばかりだから、それとも、元はトカゲの姿をしていたからか、フレアは服を着るのがあまり好きではないみたいだ。
<リュカだってあの下着ってのが好きなんだろ? 見せてやろうか?>
「え!? いいよいいよ! そのドレス、フレアにとてもよく似合ってるから! 綺麗だから!」
<そ、そうか? ならいいか>
「うん……」
え? 僕ってフレアに下着好きだと思われてるの? なんでだよ!?
あの綺麗な瞳をしたトカゲに下着好きだと認識されていたなんて……。ちょっとショックだ。
<リュカも男の子ですもの。女性に興味を持つことは悪いことではありませんわ>
そう言って、僕の頭をよしよしと撫でてくれるシーネ。なんだか全肯定されてる……。
そりゃ僕だって女の子には興味あるけど、でも、精霊たちはお人形サイズなんだ。なんだか好きになってしまったら戻れなくなってしまいそうな底なし沼が僕の目の前にある気がする……。
村の広場の中央では村人たちが手を叩いて歌いながら踊っている。みんな嬉しそうだ。それがとても尊いもののように思えた。
がんばってよかったなぁ。成功してよかった。僕一人の成果じゃない。村人たち、精霊たち、みんなのおかげだ。
村人の輪の中心で踊っていたジルがこちらに戻ってきた。
<ねえ、リュカは踊らないの? 楽しいわよ?>
「僕はいいよ、ジル。見ているだけでも楽しいから」
<そう? 絶対に踊った方が楽しいわよ! 久しぶりにリュカの変な踊りが見たいわ! ほら、行きましょう!>
そう言って、ジルは僕の指を掴んだ。
僕はジルに連れられるように村人たちの輪の中に入っていく。
「お! 英雄様のお通りだ! 道を開けろ!」
「英雄様の一緒に踊りましょう! 大事なのはパッションです!」
「精霊使い様が来たぞー!」
村人たちが、僕を見てキラキラした瞳で温かく輪の中に入れてくれた。
「えっと、僕は……」
英雄様とか精霊使い様とか、僕の柄じゃない。言われるたびに照れてしまう。
<さあリュカ! 一緒に踊りましょ!>
ジルがくるりと回って、僕に手を伸ばした。
「う、うん!」
僕はジルの手を取って、村人が大事と言っていたパッションで踊り始めるのだった。
「見ろ! 英雄様が踊ってるぞ!」
「負けちゃいられねえな!」
最初はぎこちなかった僕の踊りも、いつしか軽やかなものになっていた。
◇
村総出の大宴会は、夕方まで続いた。
「英雄様、今回は本当にありがとうございました! おかげでおっ母と息子を守れた!」
「精霊使い様、ありがとうございました」
「ありがとうございます!」
「いいえ、僕だけの力じゃ無理でした。みなさんの協力があってこそです。こちらこそ、ありがとうございました」
顔を合わせるたびに村人たちから感謝されて、まるで本当に偉い人になったみたいだ。でも、今回の勝利は、みんなが協力してくれたから得られたもの。僕一人では、きっとなにもできなかったに違いない。力を合わせるのって大事だね。
「リュカさん、此度は本当にありがとうございました。もし、リュカさんがいなければ、我々は為す術もなく殺されていたでしょう。本当に感謝しています」
大宴会が終わって、僕は村長さんの家で、村長さんに改めてお礼を言われていた。
「そんな、頭を上げてください。今回は村の人たちにもたくさん働いてもらいました。みんなでがんばったから得られた勝利なんです。僕一人の力じゃありません」
「リュカさんは、本当に慎ましいお方ですな。普通の冒険者なら、報酬を多くするためにそんなこと言いませんよ? ああそうだ。報酬のお支払いですが――――」
ドンドンドンッ!
村長さんの話を遮るように、ドアが乱暴に叩かれた。
「はて? こんな時間に誰でしょうか?」
村長さんがドアを開けると、白銀に輝く全身鎧を着た兵士が立っていた。
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