第18話 村での戦闘(裏)

<いいですか? わたくしたちは今回、極力手を出さないつもりです。あなた方の力だけが頼りです。リュカを支えてあげてください>

<クア!>


 わたくし、シーネの言葉に火の精霊が頷き、土の精霊が手を上げて、水の精霊が同意を示すようにその体で丸を作った。


 本当なら、リュカの心を悩ませるゴブリンなど、すぐにでも退治してしまいたい。


 ゴブリンなど、何千、何万といようと、わたくしたちなら敵ではありません。中級精霊の格は伊達ではないのです。


 しかし、それではリュカの成長につながりません。


 考えて考えて考え抜き、出した結論に自信が持てなくて悩み、悩んで悩んで悩み抜く。そのことがリュカの成長へとつながり、自信にもつながると信じています。


 リュカが土の精霊に指示を出して塔のようなものを創っているのを見つめながら、わたくしはリュカのために働きたい気持ちをなんとか抑えていました。


<ねえシーネ、そこまでする必要ある? たしかにあたしもリュカが成長するのは賛成だけど、リュカはこの間まで自分の考えを持つことすら許されない奴隷だったんだよ? いきなりこれはハードじゃない?>


 ジルが責めるような視線でわたくしを見ていました。


 たしかに、リュカにとって初めてのことばかりで、たいへんなことだというのはわかっています。


<荒療治だという自覚はありますわ。ですが、時間がありませんもの。仕方ありません>

<時間? やっと奴隷から自由になったんだし、時間ならこれからたっぷりあるでしょ?>

<ジル、少しは自分で考えてください。考え無しのままでは、リュカに笑われてしまいますよ?>



 ◇



 そうして始まったゴブリンたちとの戦闘。リュカは最初こそぎこちなかったですが、今では立派に下級精霊たちに指示を出しています。


 わたくしたち、中級精霊もリュカにバレないようにあまり手を出すのを控えていました。


<あーなんかムズムズするー!>

<耐えてください。リュカのためです>

<ん……>


 わたくしは矢傷を負った村人を治療しながら、中級精霊会議を開いていました。


 ジルの魔法で、わたくしたちの声はリュカや村人には届きません。


<今のところ上手くいっていますね>

<まあねー。でも、ゴブリンキングのこと、本当にリュカに教えなくてよかったの? なんだかリュカに嘘ついてるみたいで辛いんだけど?>

<今回は、リュカがゴブリンキングの存在に気が付けるかどうかも見たいので。ジルには申し訳ありませんが、耐えてください。もし、リュカがゴブリンキングを見落とすようなことがあれば、ノアが処理してください。ノアの魔法が一番目立ちませんので>

<ん……>


 一見、順調に見える戦況ですが、これはゴブリンキングの描いた作戦です。リュカがそれに気が付き、上回れるかどうか……。望み過ぎなのはわかっています。しかし、わたくしは期待せずにはいられませんでした。


「いるのか、ゴブリンキングが……!」


 ジルがリュカの小さな呟きをわたくしたちに届けてくれます。


 リュカはゴブリンキングのいる可能性に気が付いたようですね。今すぐにでもリュカの頭を撫でたい衝動に駆られますが、なんとか抑えます。


「来る……! 一時魔法ストップ! 魔力を貯めて、高威力の魔法を準備!」


 焦ったようにリュカの指示が飛びます。ゴブリンキングの存在に確信を得て、その作戦を見破った証でした。


<よくやりましたね、リュカ! さすがはわたくしのリュカです!>

<あたしのダーリンなんですけど!?>

<ノアの……>


 一瞬不穏な空気が流れますが、すぐに霧散しました。巨大な火の柱がゴブリンキングを蒸発させ、周りのゴブリンも焼き払ったからです。


<ねえ、これって!?>

<初級精霊には過ぎた魔法ですね。おそらく……>

<あれ……>


 ノアの指差した方向を見ると、火の精霊が光り輝いていました。


<あーし爆誕!>


 光りが消えて現れたのは、わたくしたちと同じくらいのサイズの少女です。


<進化ですね。一番乗りは彼女でしたか。しかし……>

<なによ! あの格好!?>

<痴女……>


 火の精霊は下着姿でした。これは後でお説教ですね。


<あー、そういうことねー。バイバイ>


 隣でジルが魔法を使う気配がしました。てっきり火の精霊に制裁を加えるのかと思いましたが、違ったようです。


<ジル? どうしましましたか?>

<グリフォンがこっち来そうだったから片付けておいたのよ。あのゴブリンたちは、グリフォンから逃げてこの村に来たみたいね>

<そういうことでしたか>


 ジルの索敵範囲はわたくしを優に超えますからね。遠距離からの攻撃は彼女の得意とするところです。


 ですが、今はそんなことよりも……!


<げふっ!?>

<リュカ! よくやりましたね。見事です! わたくしはリュカのことを信じていました!>

「あ、あの……」


 わたくしは破廉恥な火の精霊を蹴り飛ばすと、リュカの頭をよしよしと撫でます。リュカは最初は混乱したようですが、目を細めて気持ちよさそうにしていました。


<よしよし、よくやりましたね、リュカ。あなたはわたくしの誇りです>

<ちょ!? 抜け駆け禁止だし!>

<ん……!>

<え? あーしなんで蹴られたの?>




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