第17話 村での戦闘②

 僕の気が付いたゴブリンの不可解な行動。それはある一つの可能性へと集約していく。


 だけど、まさか……。そんなはずは……。


 しかし、予想よりもはるかに多いゴブリンの数。ホブゴブリンの比率の多さ。悪知恵の働くと言われているゴブリンが、まるで考え無しのように塔への襲撃を続ける理由。


 ゴブリンだって生き物だ。死にたくはないはず。なのに、塔への攻撃を続けている。自分だけ生き残ろうと逃げるのがゴブリンだろうに……。まるで、誰かに命じられているような……。


「いるのか、ゴブリンキングが……!」


 たしかに、ゴブリンの群れの規模を考えれば、ゴブリンキングがいても不思議じゃない。ホブゴブリンの比率の多さもそれで証明できる。ゴブリンたちが命を捨てている理由も。


 でも、ゴブリンが塔を攻撃する理由は何だろう?


 ゴブリンではこの塔は突破できない。仮にゴブリンキングがいるのなら、そんな簡単なことすぐにわかるだろうに。


 それでもゴブリンたちは無謀な攻撃を続けている。


 ゴブリンキングにとってもゴブリンは仲間のはずだ。なんでそんなことを?


「チッ!?」

「大人しく死んどけや!」

「いてえ!? こいつ、やりやがったな!」

「……え?」


 それは必死に考えている片隅で聞いた村人たちの声だった。


 最初は楽勝ムードだったのに、なぜかゴブリンの反撃を受けている……?


 だって、ゴブリンの攻撃は届かないはずで、こっちは槍で一方的に攻撃できて倒せるはずじゃ……?


「あ!?」


 まさか、まさかそんな恐ろしいことを……!?


「来る……! 一時魔法ストップ! 魔力を貯めて、高威力の魔法を準備!」

「あれ、なんだ……?」

「で、デカい……!」


 村人たちの動揺の声が聞こえてきたのは、僕が精霊たちに指示を出した直後だった。


 村人たちの声に前向けば、そこには大きな人影があった。


 ホブゴブリンよりもなお大きな巨躯の持ち主。その大きさは、頭が家の屋根に届きそうなほどだ。


「ゴブリンキング……!」


 未だ影しか見えない。でも僕は確信を籠めて呟いた。


 なぜゴブリンたちが大きな被害を受けても逃げなかったのか。それは王の命令があったからだ。そして、その命令の真意は――――ッ!?


 ゴブリンキングの体が揺れる。走り出した!


「目標! あの大きな人影! 全力で迎え撃って!」


 見る見るうちに大きくなる人影。


 広場の明かりに照らされたその姿は、頭の上に骨の王冠を被り、大きなグレートソードを片手剣のように持った偉丈夫だった。


 相手がどれほどの強さなのか見極めることができない僕でも、ゴブリンキングは圧倒的なまでに、理不尽なまでに強いことがわかった。


 ゴブリンキングが塔に高速で近づいてくる。


 ゴブリンキングの狙いはわかっていた。いや、直前になって気が付いた。ゴブリンキングは、今まで犠牲になったゴブリンたちを足場にしてこの塔を飛び越えるつもりだ。


 そのための数多のゴブリンの犠牲。


 そのおぞましい狂気の作戦に気が付くのが遅れてしまった。


 すでに精霊たちには魔力を貯めて高威力魔法を放つようにお願いした後だ。僕にできることはなにもない。ただゴブリンキングが迫るのを見ていることしかできない。


 この時間がひどくもどかしく思えた。


 僕に戦う力があれば、なにかの役に立てるかもしれないのに!


 僕がもっと考えていれば、こんなギリギリの戦いにならずに済んだのに!


 頼む……! お願いだ……!


 僕はどうなってもいい。だから村人たちだけは……!


 ドゴウッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 瞬間、目の前に巨大な火の柱が立っていた。


 火の柱はゴブリンキングを飲み込み、広場のゴブリンたちを焼き焦がす!


「え……?」


 それは誰の声だっただろう。気が付いたら巨大な火の柱は消え、パラパラと雨が降っていた。


 火の柱が消えた後にはなにも残っておらず、ただ黒いガラスのような地面が広がっているだけだった。


 なにが起こったのかわからず、僕たちはただ無言で黒いツルツルの地面を見ていることしかできなかった。


 雨によって急激に冷やされたためか、まるで金属同士を打ち合わせたような涼やかな音が連続して響いていた。


「い、いったいなにが……?」


 ようやくそれだけ口に出すことができた。


 巨大な火の柱ということは、火の精霊の魔法なのだろうか? でも、『虹の翼』として冒険に同行していた時も、あんなに強力な魔法見たことがない。


<あーし爆誕!>


 あれはいったい何だったんだろう? そんなことを考えている時だった。


<とう!>

「ふが!?」


 急に目の前が暗くなった。なにかが僕の顔に張り付いたようだ。なんだか柔らかくていい匂いがする?


 ふわっと顔を覆っていたものが離れると、見たことない美少女が浮かんでいた。赤い髪をなびかせた褐色の肌の美少女が、僕に向かってニカッと気持ちのいい笑顔を浮かべている。浮かべているんだけど……その姿はビックリするくらい過激だった。なんと、上下とも服を着ていない。赤い下着姿である。


「え!? え!?」

<あーしの名前はフレア! やっと名前が言えた! これからもよろしくね!

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