第16話 村での戦闘

 夕日が山に沈んでいく。いよいよ夜が来る。ゴブリンの襲撃が今日あるのかはわからないけど、用心した方がいいだろう。


 僕は村長さんや精霊たちと相談して、一応、作戦のようなものを考えた。


 でも、それが上手くいくかは未知数だ。


 僕の提案を基にした作戦で人が死ぬかもしれない。そう考えると怖くて怖くてたまらない。


 それでも、僕は極力笑顔でいることを心掛けた。


 村人の中には、当然ながら子どもたちだっている。僕が怖くて震えていたら、子どもたちまで怖がってしまうかもしれない。


 村の中央にある広場には、周りの家の半分ほどの高さの塔のようなものが建っていた。僕が土の精霊にお願いして作ってもらった防壁だ。その中に、六十人ほどの村人が全員入っている。


 本当は全員が入れるような家があったらよかったんだけど、一番大きい村長さんの家でも無理だった。


 だから、村のみんなを守るために防壁を作ってみたんだけど……。上手くいくといいな。


<リュカ、来たよ! 山の方から走ってくる!>

「うん……」


 ジルの声が耳に届く。どうやらゴブリンたちが山からやって来たらしい。


「村長さん、来たみたいです」

「そうですか……。皆! 精霊様が教えてくださった! ゴブリンどもが来るらしい! 迎撃準備! 皆に精霊様のご加護があらんことを!」

「「「「「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 村の大人たちが、槍を片手に塔の内側に作られた踏み台に登る。そうすると塔の上に上半身が出て、槍でゴブリンたちを攻撃できるのだ。


 ゴブリンの背丈は人間よりも小さいからね。これなら普通に戦うより安全にゴブリンを倒せるはずだ。


「来たぞ!」


 一人の男が叫んだ。どうやらゴブリンがもう攻めてきたらしい。


「松明を付けろ!」

「外すなよ?」

「わかっとるわい!」


 宙をくるくると火のついた松明が飛ぶと、広場の四方に設置された大きなかがり火へと一気に燃え広がった。事前に油を撒いていてよかった。


 パチパチと薪が燃える音がして、一気に辺りが明るくなった。


「な……」

「なんという数じゃ……」

「こ、こんなの勝てるのか……?」

「GEGYAGYA!」

「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 広場を埋め尽くすほどのゴブリンの群れ。その中の何体かは、明らかに大きな体をしていた。村長の話にあったホブゴブリンだ!


「頼んだよ」


 僕は手をホブゴブリンに向けると、水の精霊が激しくその水滴を回転しだす。


 ピキッ!


 まるで空気が凍るような音を響かせて姿を現したのは、無数の氷の刃だった。


「いけええええええ!」


 僕が手を振り下ろすのと同時に、無数の氷の刃が天から降り注ぐ。それはゴブリンもホブゴブリンも関係なくすべてを蹂躙していく。


「すげー!」

「あれが精霊魔法!」

「よっしゃ! やったらあ!」


 精霊魔法を見て、村人たちが奮い立った。


 僕はその姿を見て安堵する。


 よかった。村人たちはまだ戦意を失っていない!


 だけど、僕には気になる点もいくつか見えてきた。


 ゴブリンの数が予想よりも多い。多くても五十くらいを予想していたのに、その倍はいそうだ。当然、ホブゴブリンの数も倍はいるだろう。


 この塔は耐えられるだろうか……。


 土の精霊には攻撃に参加せず、塔の修復をメインに魔法を使ってもらっている。でも、急ごしらえの土壁だし、壊される可能性は十分にあった。


 注意するべき点は何だ? どういう指示を出せばこの塔を守れる? 考えろ、リュカ!


「せや!」

「どりゃ!」

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」

「GEGYA!?」


 村人たちは、塔の防壁を使ってゴブリンとの戦いを優位に進めていた。この調子なら、普通のゴブリンの相手は村人たちに任せてもよさそうだ。


 注意するべきは――――!


「ホブゴブリンやオークを中心に戦って! 絶対に近づけさせないで! あとはゴブリンシャーマンの存在に注意! 最優先で叩いて!」


 僕の指示に氷の魔法と火の魔法で答えが返ってくる。


 これならいけるかな?


 ヒュンッ!


「ッ!?」


 突然鳴り響いた風切り音が、不思議と僕の耳に残った。


「ぎゃあああああああああああああ!?」


 そして、すぐに村人の一人が悲鳴をあげて足場から転がり落ちてしまう。


 矢だ! 僕はゴブリンアーチャーの存在を忘れていた。


<リュカ、わたくしが治療します。あなたは指示を継続なさい>


 呆然としそうになった僕を、シーネが優しく叱咤してくれる。


「う、うん! ゴブリンアーチャーも優先討伐対象に追加! ジルはできるなら矢を弾いて!」

<了解ってね!>


 もう! 僕のバカ! 僕のせいで一人怪我人が出てしまった!


 でも、自分を責めるのは後だ。今はこれ以上の犠牲が出ないように指示を出さないと! 今の僕は精霊使いなんだ!


 ゴブリンたちは後から後からこの塔を目指してやってくる。目の前で仲間が死んでいるのにお構いなしだ。


 ゴブリンは頭が悪いと言われているけど、悪知恵は働くと言われている。そんなゴブリンが、こんな戦いをするだろうか?


「まさか、いるのか……?」




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