第15話 作戦と親心
「ありがとうございます、本当にありがとうございます!」
「ええと……」
村の防衛に加わると村長さんに告げると、手を取られて深く感謝されてしまった。
きっと、村長さん自身も不安なんだ。僕は村長さんの手を握り返すと、精いっぱいの笑顔を浮かべてみせた。
「精霊たちも手伝ってくれます。一緒に村を守りましょう!」
「はい……! ん? 精霊、たち?」
「はい。僕は六人の精霊と契約してるんです。僕自身は大したことないけど――――」
「ろ、ろろろ六人!? そそそそそそそそそれは、げはっ!? ごはっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
なんだかいきなり村長さんが興奮してむせてしまった。僕は急いで村長さんの背中を撫でてみる。いったいどうしたんだろう?
◇
「す、少し、楽になりました。ありがとうございます」
儂は、リュカさんにお礼を言うと、椅子に座った。
はぁ……。死ぬかと思ったわい。年は取りたくないの……。
「大丈夫ですか?」
儂を心底心配そうに見る少年、リュカさん。その姿は優しいが、失礼ながらぜんぜん強そうに見えない。腰に剣を差しているが、それが無かったら冒険者だとは思わなかっただろう。
しかし、その心は善だ。さすが、精霊様と契約を許された少年。
まだ精霊様のお力を見せてもらったわけではないが、この少年ならば嘘を吐くことはあるまいと素直に思えた。こういう少年だからこそ、精霊様も契約を許されたに違いない。
しかし、この少年が六体の精霊様と契約しているなどと冗談と言うとは思わなかった。
おそらく儂の心の底にある恐れを見抜いて、それを解そうとしたのだろう。
普通なら、一体の精霊様と契約を許されることも困難。複数の精霊様と契約など土台無理な話。それこそ、おとぎの中の話だからな。
◇
「ううん!」
椅子に座った村長さんが、強く咳払いすると僕を見た。
「リュカさん、儂らに知恵も貸してくださいませんか?」
「知恵、ですか?」
僕はあまり頭がよくないからなぁ。村長さんの期待に応えられるだろうか?
「儂らは相手が数多くのゴブリンだとわかっても、どう戦えばいいのかわからんのです。今までゴブリンが村を襲ったとしても、多くても五体くらいでした。それを大きく超える数となると、もうなにから手を付ければよいのか……」
「なるほど……。僕でわかる範囲でしたら、答えられます。まずは、火です」
「火、ですか?」
「はい。ゴブリンやオークは、人間に比べると夜目が利きます。たぶん襲撃は夜になると思います。かがり火を立てて、夜でもよく見えるようにするといいと思います」
「なるほど……。すぐに準備させます」
◇
「あとは、数には数で戦うしかありません。あの、村人の中で戦える人はどのくらいいますか?」
「ざっと三十人ほどでしょうか。農具でよろしければ武器になるものもあります」
「なるほど……」
わたくしシーネは、真剣に考えるリュカの横顔を胸がいっぱいになるような気持ちで見つめていました。
リュカ、わたくしは応援しています。考えるのを諦めないで!
<ねね、シーネ。今回はいつもみたいにリュカに教えてあげないの?>
いつの間にか隣にはジルとノアが浮いていました。
<今回、わたくしからの助言は控えますわ>
<えーどうして?>
<いつもわたくしが助言していては、リュカが成長しませんもの。わたくしは、リュカを自分でものを考えないお人形にしたくはないのです。ですから、あなたたちも今回はリュカへの助言は控えてください>
<そういうこと>
<ん……>
幸いにもジルとノアを頷いてくれました。
ここが正念場ですよ、リュカ。がんばって!
「ねえシーネ、なにか見落としは無いかな?」
不安そうにわたくしを見てくるリュカ。きっと自分の考えに自信が持てないのでしょう。物心つく前に奴隷にされてしまったからか、リュカは自分で決定することを怖がる傾向があります。
そう。自分が本当に殺されるとわかるまで、奴隷の地位に甘んじていたように。
少し考えれば、わたくしたちの力を使って奴隷から抜け出すことなんてすぐに思いつきます。
でも、リュカは他人を傷付けるのを恐れて、それを自分が決定するのを恐れて、奴隷のままでいることを選んでいました。
だからわたくしたちもリュカの意思を尊重して見守っていましたが……。
そろそろ自分のことは自分で決められるようになるべきですわ。
たしかに、リュカに頼られるのは天にも昇る気持ちです。
ですが、いつまでもこのままではいけません。わたくしはリュカをただ甘えさせるのではなく、教え導くのです。だってわたくしはリュカの母親を自認しているんですもの。
<一度リュカの立てた作戦通りにやってみましょう。大丈夫、きっと上手くいきますわ>
「うん! ありがとう!」
リュカがわたくしに笑いかけてくれます。それだけでわたくしは強くなれる気がしました。
わたくしはリュカの笑顔を守るのです!
リュカの笑顔に影を落とす者がいるのならば、わたくしは修羅にでもよろこんでなりましょう!
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