第14話 村と足跡

 パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!


 もうすぐお昼という時間帯。金色の小麦畑に囲まれた街道をロバに乗って爆走する老人がいた。その顔はただただ必死だったような気がする。


「なにかあったのかな?」

<さあ?>


 思わずジルと一緒に首をかしげてしまう僕だった。


<リュカ、次の村が見えてきましたよ。あそこで少し休憩しましょう>

「うん」


 僕はシーネの言葉に頷いた。


 今日もシーネとノアのミニスカートが気になってしまって、目のやり場に困る僕だった。精霊の姿は僕にしか見えないとはいえ、さすがに無防備すぎるんじゃないだろうか?


 でも、僕が下着が見えてることを指摘してもいいものかどうか……。


 たしかに彼女たちは精霊だけど、同時に女の子でもあるのだ。ちょっと注意しづらいものがある。


 かといって彼女たちの下着を盗み見るようなマネはしたくなくて、僕はちょっと下を向きながら歩いていた。


 僕の腕の中にはハニワがいて、あいかわらず嬉しそうにダンシングしている。僕は気を紛らわすためにハニワの頭を撫でると、ハニワのダンスが加速した。喜んでいるみたいだ。


 そんなこんなしながら黄金に輝く麦畑を走る街道を歩いていると、ようやく村にたどり着いた。木材をふんだんに使った家が立ち並び、柔らかな雰囲気がする村だ。


「あれ?」


 村長さんに少しだけ客間を貸してくれないかと尋ねようとしたら、なんだか村人たちが村の中央の広場に集まっているのが見えた。


 どうしたんだろう?


 なんとなく村人たちに近づいていくと、村人たちも僕の姿に気が付いたようだ。


「おい! あれって冒険者じゃないか?」

「たしかに腰に剣を差しとる」

「だが一人ではなぁ……」

「仲間もいるかもしれねえ。とりあえず訊いてみよう」

「この際だ。一人でもありがたい」

「えーっと……?」


 彼らはなにを言ってるんだろう? 敵意はなさそうだけど、村人たちの顔は真剣そのものだった。


「あの、どうかしたんですか?」

「あんた、冒険者さんかい?」

「はい。そうですけど……?」


 冒険者だと答えると、村人たちの顔が明るくなった。


「おぉ! 頼む! 村を助けてくれ!」

「あんた一人なのか? 仲間は近くにいるのか?」

「えっと、どういうことですか?」


 いきなり村を助けてくれと言われても話が見えてこない。どうしたんだろう?


<リュカ、どうしましょうか? なにかトラブルが起こっているようです。先に進みますか?>

「できれば助けてあげたいけど、ダメかな?」


 僕は小声でシーネに答えると、精霊たちは<仕方ないなぁ>と言わんばかりの優しい笑みをみせた。


<いいえ。それでこそリュカですわ>

<そうそう!>

<ん……!>

<クア!>

「みんな、ありがとう!」


 話は村長の家でということで、僕たちは村長のお家にお邪魔していた。村長さんは感じのいいお爺さんだったのだけど、今はちょっと顔色が優れないように見えた。


「実は、この村はゴブリンに狙われとるのです……」

「ゴブリンに?」


 軽くお互いに自己紹介をした後、村長さんは語り出した。


 僕が一人と知ると、かなり落胆した様子だったけどね。精霊たちもいるし、少しでも安心してほしいけど……。自分で言うのも悲しいけど、僕自身は弱そうだからなぁ……。実際弱いし……。


「村の近くで、多数のゴブリンの足跡を見つけたのです。その中には人以上に大きな足跡も含まれていて……」

「人以上に大きな……」


 僕は弱いけど、これでも一年以上冒険者として活動してきたから少しはモンスターに詳しくなった。


 ゴブリンの足跡に紛れて人以上に大きな足跡というと……。


「たぶんですけど、ホブゴブリンかオークですね」

「そうです。ゴブリンの数も脅威ですが、ホブゴブリンやオークとなると、村人には荷が重い。今、村の有志が街まで冒険者を呼びに行っとりますが、果たして間に合うかどうか……」

「そうですか……」


 僕が見たロバに乗った老人は、たぶんこの村から出た伝令なのだろう。


「リュカさん、できればこの村を守るために力を貸してくれませんか? もちろん、我々も村を守るために戦います。今は冒険者を雇うために村中の金を集めてしまいましたから、今は報酬を支払うことはできません。ですが、ゴブリンを撃退できた暁には、必ずその働きに報いさせていただきます。ですから、どうか……!」

「頭を上げてください。お話はわかりました。少し相談したいので時間をくれませんか?」

「相談?」

「はい。僕は精霊と契約してるんです」

「おお! 精霊様と契約されているのですか! どうか、よろしくお願いします!」

「はい!」


 僕は村長さんに客間を借りると、精霊たちと相談を始めた。


「敵にはホブゴブリンやオークもいるみたいだけど、大丈夫かな?」


 心配そうに尋ねる僕に、シーネは笑顔で応える。


<問題ありませんわ。リュカも思い出してください。前にはぐれオークを倒したことがあるでしょう? わたくしたちにとって、ホブゴブリンもオークも敵ではありません>

<そうそう! 楽勝だし!>

<ん……!>

<クア!>


 水の精霊も形を変えて親指を立ててみせる。ハニワも激しくダンシングだ。


「みんな、ありがとう!」



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