第2話 とりあえず、そっと覗いてみよう
「…はあ!?なにそれありえない!」
よく通る、張りのある親友の声が、教室中に響き渡る。
いつもなら、ちょっと…と声量を指摘するところだが、その元気が今の私にはない。
昨夜は一晩中、携帯の液晶画面と睨み合っていたせいか、頭が痛い。
「それで、返信ないの?」
窓際にある自分の机に突っ伏しながら、小さくうなずく。
親友の美咲がもう一度「ありえない!」と言いながら、一つ前の坂口君の席にドカッと座った。
あ、坂口君座れなくなっちゃうな…後で謝ったほうがいいかな。と、何だか変に冷静な頭で、
そんなことを考える。
「美咲、坂口君来たらどかなきゃだめだよ」
「は?坂口ってあんた…ここ佐々木だから」
「え?」
「だから、ここ佐々木の席。佐々木憂、あたしの幼馴染。…志穂、あんた大丈夫?」
あれ、そうだっけ。ああ、そうか。
「って、あーもう!憂のことなんて今はどーでもいいわ!」
そう言って、美咲は自分の頭を両手でつかみ、わしゃわしゃとかきむしった。
肩に届かないほどのきれいなショートカットが、一瞬でぼさぼさになってしまう。
「…おーい、なんか俺、ディスられてる?」
美咲の乱れた髪を手櫛で直していると、後ろのほうから声が聞こえた。
「あ、坂口君。おはよう」
「志穂、志穂。佐々木ね」
と、美咲にやんわりと指摘されてしまう。
「さ、佐々木君、おはよう…」
「おー?なになに、なんかあった感じ?てかなんで坂口?」
「あ、いや…」
どう説明したものかと困っていると「あー、いいからいいから」と美咲が口を開いてくれた。
「憂、ちょっと3年の教室行ってきてくんない?」
「え、なんで?」
「あー、まあまあ。そんでさ、白石先輩いるか見てきてよ」
「白石先輩って、みなと先輩?え、なんで…」
佐々木君は「お前の彼氏だろ?」と言いたげに私を見たが、すぐに何かを察したような表情をした。
「…うい、りょーかい。ちょっと行ってくるわ」
「うん。頼んだ」
少し足早に教室を出ていく佐々木君の後ろ姿に、なんだか申し訳なく思えてきて、私はまた机に倒れこむ。
「志穂…」
「……」
…あれ、なんか。
なんだか、グワーッと怒りが湧いてきた。
よく考えたら一方的すぎる、あまりにも。
なんでこんな理不尽なことに落ち込まなきゃいけないのだ。
美咲にも心配かけて、佐々木君にまで気を遣わせて。
「…よし」
ふつふつと湧いてきたエネルギーを糧に、勢い良く立ち上がると目を丸くした美咲と目が合う。
「志穂?」
「私も行ってくる!」
「え!ちょっと志穂!?」
美咲の驚いた声を背に、佐々木君を追うように教室を飛び出した。
二つ学年が上の教室へは、階段を二階分、上がる必要がある。
二階の踊り場で驚いた顔の佐々木君と合流し、私たちは「とりあえずそっと覗いてみよう」作戦を決行した。
勝手なあなたへ、明日を贈ろう 鶴田よだか @tsurutayodaka
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