ニジマス

雲依浮鳴

ニジマス

むかし、むかし、ある海岸沿いに一人の青年が住んでいました。

彼は毎日、海まで釣りをしに行き、その日に釣れた魚を食べて生きていました。


彼はこの日も海に釣りをする為に出かけます。砂浜まで到着すると、そこには、3人の少年がニジマスをいじめているではありませんか。


3人の少年は、浜に打ちあがったニジマスを棒で叩き、こういいます。「やーい!陸じゃ何もできない生き物め!」「ヒレがきもいんだよ!」「死ね!殺せ!!!」


それを聞いた青年は、「食べ物を粗末にしてはいけない!」と、止めに入ります。


青年をみた少年達は「あ!村で唯一のニート!木偶の棒!昼行燈!!」「お母さんが関わっちゃいけないって言ってた人!」「役立たず!リソースの無駄使い!」と各々が言いたい事をいい、逃げていきました。


青年は、やれやれといいつつ、ニジマスの様子を確認します。あまり損傷はないようで、青年は安心します。


助けられたニジマスは青年にこういいました。

「助けてくれてありがとう!お礼をさせてほしいんだ!」


青年は涎を滴らせながら、

「塩焼きにしようかな、それとも」

と考えをめぐらせます。


ニジマスは本能的に危険を察知して、急いでこう伝えます

「竜宮城に行けば沢山の料理が食べられるよ!さ、背中に乗って!」


そう聞いた青年は、ならばついていこうとニジマスの背中に乗ろうとします。ですが、背びれが邪魔で乗れません。なので自身の腰とニジマスの体にロープを巻きつけて連れて行ってもらう事にしました。


海の中を泳ぐニジマスは竜宮城の良さを青年に聞かせます。

ですが青年は「あばぐぐぼぼぼぼごぽっごぱっ」と理解不明な言葉を口にしかしません。


頭の小さいニジマスは青年が喜びのあまり感情にあふれているのだと考えました。嬉しくなったニジマスは更に話を続けながら竜宮城を目指します。


少しして、竜宮城にたどり着きました。

竜宮城に辿り着いたニジマスは青年を寿司屋へ案内します。

「僕知ってるよ!人間は寿司が好きなんだよね!」


青年は寿司を食べて言いました

「陸で食べた方がおいしいな」


ニジマスは話を続けます。

「命の恩人にこれをプレゼントしたいんだ。」

そういって取り出したのは、小さい玉手箱と大きい玉手箱でした。


青年はこれを見てニヤリとします。

彼は知っていたからです。欲張って大きい玉手箱を選ぶと損をする事に。なので彼はこういいました。


「大きい玉手箱に小さな玉手箱を入れて持って帰ろう」

なんと彼は、強欲な愚か者だったのです。


ですが、頭の小さなニジマスでは、彼の言っている事が理解できませんでした。よくわからないまま、彼の言う通りに玉手箱を渡します。

玉手箱を渡して満足したニジマスは、お店の会計を先に済ませて家に帰りました。


この時、ニジマスは忘れていたのです。人間が竜宮城の外では息が出来ない事を、そして、連れてきた青年には帰る手段がないことを。


ニジマスはお家へ帰ると、シャワーを浴び、パックをしながら動画をみてゆったりと過ごし、ぐっすりと寝ました。


次の日、ニジマスはニュースをみて驚きます。なんとこの竜宮城の付近で人間の水死体が見つかったのです!

竜宮城の住人は大混乱です。人間にここが見つかったのではないかと不安に包まれています。


ドンドンドン!

玄関の戸を叩く音が響きます。

ニジマスはどうしたのかな?と扉を開けます。

開けた先には竜宮警察がいました。

「今朝、人間の死体が見つかった件はご存じですか?その件で、貴方に容疑が掛かっています。」

「え!でも僕なにもしらないよ!」

「ですが、貴方の玉手箱を持っていました」

そのことを聞き、ニジマスは昨日連れてきた青年だと気付きました。


ニジマスは竜宮警察署であったことをそのまま隠さずに話します

それを聞いた竜宮警察署のみんなは、元から青い顔をどんどん青ざめさせて行きました。


頭の小さいニジマスには、何が起こっているのか、自身が何をしてしまったのか理解できません。ニジマスは法廷でも同じように素直に証言します。ですが、彼の行った行為は竜宮城を危険に陥れる行為だったのです。彼の弁明もむなしく、彼は川へ追放となりました。罰として淡水でしか生きられない呪いまでかけられてしまいました。彼は淡水魚になってしまったのです。


さて、竜宮城のみんなは大慌てで話合いをします。

なんと、何も考えずに陸に出てしまったニジマスは、人間たちのその姿を見られていると証言したからです。

竜宮城の皆は、目撃者を消すという方向で話がまとまりましたが、その方法で揉めています。

「陸の者に頼むのはどうだろうか」「いや、我々が自ら仕留めるべきだ」「それではまた姿を見られてしまう恐れがある!」「そもそも我々は陸で活動できるのか?」


竜宮城のお魚たちは、ヒレやエラを動かしながら話します。

プライドを捨て、陸の生き物に手を借りる事にしました。

そしてすぐに、陸の生き物たちが住む桃源郷へ手紙を送りました。


陸の生き物達は、「困ったときはお互い様、僕らが困った時は・・・」と涎を垂らしながら、協力するといいます。


陸の生き物たちは、すぐに少年達を調べ上げました。そして、だれが実行役に適任かを話し合います。

結論はすぐにまとまりました。村の裏山に住む熊に、この件をお願いする事にしました。

年間3万人もの人間を襲っている彼なら、きっとやり遂げてくれるだろう。

そんな期待を背負って、熊を訪ねます。ですが、なんということでしょう。熊は冬眠していて、ちーいっとも話を聞いてはくれません。


これはくまった、くまった。と頭を悩ませ代案を考えます。

その時でした。

「俺に任せな」

そういったのは、いつも一匹でいる狼でした。


狼は、上手く行けば子供らを合法的に食べられるし、失敗しても、絶滅危惧種の俺は殺されずに保護されるだろうと考えていました。


陸の生き物たちは話し合います。「アイツだれだっけ」「ほら、隣の山の」「それは狸とウサギだよ」「えぇ、じゃ本当に誰なの」「知らん」


陸の生き物たちは、結論を出しました。よくわからないけど、この狼に託す事にしました。

だって海の生き物の秘密なんて、正直どうでもいいからです。


少年たちの事を一任された狼は喜び、意気揚々と少年らを観察しにいきました。

狼はすぐに件の少年らをみつけて、痩せ型、普通、肉団子と名前をつけました。

どうやら三人の少年は都合がいい事に、親が鬼のいる島へ行っていたり、不思議すぎる国を旅行していたり、ジャングルで戦っていたりと言った理由で、家では一人で暮らしているではありませんか。


「しめしめ、まずはあの丸々と肥えた肉団子からにしてやろう」

最初のターゲットを決めた狼は、肉団子の事を2週間かけて観察します。

狼は肉団子の行動パターンや家族構成、友人関係、家の位置を調べて、襲うタイミングを伺います。

肉団子はどうやら、家の外では常に人と行動しているようです。

狼は考えました。

「こいつは常に群れといなければ安心できない臆病者だ」

一人になった肉団子は何も出来ないと考えた狼は、肉団子の寝込みを襲う事に決めました。


狼は新月の夜に作戦を決行します

肉団子の家の電気が消えてから2時間後、狼は家の玄関から入ります。

扉を蹴とばし肉団子の寝ているベットにとびかかります!

「いってぇ~!!」

なんということでしょう、飛び掛かろうと踏み込んだ足で、トラばさみを踏んでしまったではありませんか。


「やーい!まんまと引っかかりやがった!ずっと俺を付けやがって間抜けが!」

肉団子は、痛がる狼を棒で何度も何度も殴りつけました。

「へッ、もう鳴かなくなっちまった。魚の方がマシだぜ。ほら、もう帰んな、二度とその間抜けずらみせるんじゃねーぞ!!」

そういい、肉団子は狼を庭へ投げ捨てました。


「うぅ、ち、ちくしょう・・・」

狼は泣く泣く家に逃げ帰りました。


怪我を治した狼は、肉団子を一旦諦めて、先に普通から食べる事にしました。

普通は下校中に必ず、路地裏に入る日がありました。

狼はそこを狙います。

「がぉお!喰ってやる!」

狼の恐ろしい雄叫びが響きます。

ですが、普通は、一切動じずに、手に持っていた銃で狼を撃ちます。

パンパンパン!

乾いた音が村に響きました。

狼は運よく急所を外れ、何とか生きて帰る事ができました。


「あぁ、恐ろしい恐ろしい、人間はイカれてやがる。だが、そろそろ何か食べないと俺の回復能力も限界だ」


狼は、傷が癒えるのを待ってから、次は痩せ型を狙います。

皆が寝静まった夜に、狼は玄関からではなく、唯一あいていた煙突から侵入します。

痩せ型はどうやら気付かずに寝ている様です。

「へへ、今度こそ喰ってやる」

飛び掛かろうとしたその時でした

「サンタさん!?わぁ君がサンタさんなんだね?」

と、痩せ型は目をキラキラと輝かせて狼に尋ねました

「いや、俺は」

「初めてだ!サンタさんが来たの!」

「狼であって」

「ずっと待ってたんだ!僕にはお母さんもいないし、お父さんもいないんだ」

「今からお前を食べる」

「ずっといい子にしてたのに、サンタも一度も来てくれなくて、皆の所には来るのにね。僕が悪い子だからかな。だからお父さん達も帰ってこないのかな。このままずっと一人なのかな。寂しいよ」

「あ、そうなのか、お前一人なのか」

「うん」


なんと、狼は痩せ型が自分と同じ天涯孤独なのではないかと思い、その辛さと寂しさに共感をしてしまったのです。


「そうか、お前はサンタをずっと待ってたんだな」

「うん!サンタさんが来てくれればいい子って事だもん!そしたらお母さん達も帰ってきてくれる!」

「そうか、そのサンタってのは何をするんだ」

「えっとね、プレゼントをくれるんだ!子供の欲しいもの!」

「何が欲しい」

「食べ物をお腹いっぱい食べてみたい!!」

「3日だけ待ってろ」


そう言った狼は、すぐに家を飛び出して、山々を駆け巡りました。

ですが、季節は冬。木の実も野菜も、野兎すら姿がありません。

食べ物になるものが見つからなかったのです。

困り果てた狼は、自身の最後の命綱である、隠しておいた肉を渡す事にしました。


狼は急いで村に戻り、痩せ型の家に向かいます。

皆が寝静まった頃、狼は同じように煙突から入り、痩せ型へ声をかけます。

「よぉお前さん、いい子にしてたか」

その声に痩せ型は目を覚まし、こういいました。

「わぁい!間抜けがお肉を持ってきたぞ!これで今夜はステーキだ!」

その言葉が言い終わるより前に、バンと短い破裂音がして、狼は赤い液体を流しながら

倒れてしまいました。


撃ったのは、この村のお巡りさんでした。

「よくやった坊主、こいつは大物だ。ここ数週間、村の近くで目撃されていた狼で、子供を襲っていた事も確認されている。坊主の勇気ある行動で村に安全が戻ったぞ」

「ねぇねぇ!そんな事よりいくら貰えるの!?肉は貰ってもいいよね?」

「はは、現金なやつだな。珍しいからな、狼の革は高く売れる・・・これくらいだな」

「は?んだよ、しけてんな。足元見やがってよ」

「肉のおまけもあんだ、それで納得しなさい。これ以上ごねるなら・・・」

「チッわかってるよ、持つもんもってさっさと帰りな」

「坊主の癖に口がわるいねぇ」

報酬を渡したお巡りさんは、狼を引きずって夜の村に消えました。


次の日、

三人の少年は、いつもより満面の笑みで村を歩きます。

村を守った誇り、いえいえ、そんな事ではありません。

狼をいたぶってお金が手に入ったからです。

三人はそのお金で何を食べるかと喧嘩してしまいます。

そんな中、珍しい魚が釣れたと村人達が騒いでいるのを耳にします。

「今朝、川でとれた魚だよ!なんと虹色に光ってるんだ!頭は小さいが、身は大きい!こんな魚は初めてだ!」

それを聞いた少年は、虹色に光る魚はおいしいに違いない!

三人はそう思い、喧嘩をやめてその魚を買うことにしました。

三人はその魚を塩焼きにして食べる事に決定し、分け合って仲良く食べましたとさ。


ニジマスニジマス(めでたしめでたし)。

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ニジマス 雲依浮鳴 @nato13692

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