ロングシュートを決めたら

春雷

第1話

 夕方、僕は体育館に残っていた。部活終わり。みんなは帰ってしまった。僕は一人で、バスケットボールを触っている。

 今からシュートを決める。

 3ポイントシュートだ。これが決まったら、僕は彼女に告白する。

 構えて、ボールを宙に放った。ボールはゴールに向かって、放物線を描いていく。

 これが決まったら、彼女に告白する。

 それと、彼女とプールに行って、バタフライで泳いでもらう。バタフライを200メートル泳いでもらう。バタフライの記録を伸ばしてもらう。最長記録と最速記録の両方を更新してもらう。バタフライの大会に出てもらう。バタフライの大会で敵なしになってもらう。彼女は吹奏楽部だが、今すぐやめてもらって、スイミングスクールに週7で通ってもらう。3つ掛け持ちで通ってもらう。そこで、バタフライだけを執拗に練習し続けてもらう。

 視界はスローモーション再生。ゴールまで、まだ遠い。

 これが決まったら、絶対、彼女に告白する。

 あと、これからの会話は全部モールス信号でしてもらう。いついかなる場合でも、誰が相手でも、モールス信号のみで会話してもらう。僕はまったくモールス信号を知らないのだけど、僕に対してもモールス信号で会話してもらう。これだけは絶対やってもらう。

 ボールが、ゴールに向かっていく。まだ、入るかどうかわからない。

 僕は彼女に告白する。

 そして、生前葬を毎週やってもらう。彼女の生前葬を毎週水曜に開催する。バタフライをしている時の彼女の写真を遺影にして、生前葬をやる。これだけは絶対に譲れない。

 ボールが、ゴール板に当たって跳ね返る。そして、リングで回転し始めた。入るか、否か。どっちだ!

 彼女に告白する!

 毎日、トランポリンの上で寝てもらう!

 朝食は、チーズフォンデュ! 

 昼食は、チョコレートフォンデュ!

 夕食は、生の人参一本!

 彼女に絶対やってもらう!

 

 コロコロ・・・。ボールが、床の上で転がる。シュートは決まらなかった。あれだけの思いを込めて放ったシュートだったが、駄目だった。でも、僕は仕方がないなと思った。

 なぜなら、僕は茶道部だから。体育館に忍び込んだ文化部だから。バスケなんてやったことないし、仕方ない。

 今度は、お茶を飲み干すことができたら、告白することにしよう。そして、彼女に手作りパソコンをプレゼントしてもらおう。それだけは絶対やってもらおう。

 僕はそう思った。

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ロングシュートを決めたら 春雷 @syunrai3333

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