第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト応募作 黒真珠

黒真珠

嘘つきの唇の形はうつくしき流木のごと　君の血のこと

吾のブラを「オパールみたい」と言うきみの語彙に宿ったエドガー・ドガみ

殺されるよりも乳房を触られる方がやだよね牝牛を放つ

ビロードの瞼　ジャスミンひらかれる去年と同じ空気のために

一音の月と二音の月とではメイクのノリが何だか違う

吾はどうせ可愛くなるようできている　舌になだるるソルティーライチ

文机に踊り踊るは氷塊の影　雪国で血は甘くなる

氷山の一角として夢に見た水溶性の豪奢な本を

涅槃図のようなる瞼のうちがはであなたの歌が再生される

ジーンズが熱い　中学生の頃死ぬほど嫌いだった公園

選べない　ピンクのタイルだけを踏む後姿に合うCDが

お下がりのエスカレーター　たをやかなひとが陽射しの中に消え入る

逆光と埃　既婚の先生と平均台の両端を持つ

まなぶたのうちをあなたにみせたいよ　いちにんしょうはひらいてつかう

萎れるとわかっていながら花を買うただ我一人の功名のため

黒真珠ふたつ携え君はゆく陽射しまみれのハチ公前を

たつぷりと興亡を蓄えた街　照葉の下でタクシーを待つ

万緑の風を含んだリネンシャツ　あなたが目指す勾配の上

火葬場の緑茶　お手くぼ　着慣れない喪服にはしゃぐ幼いわたし

真実を恐れた百舌が貫いた宰相の舌　蜜のあふれる