空を映さない僕の瞳
八月一日茜香
空を映さない僕の瞳
昔から空が、青色が嫌いだった。こんな色があるせいで、僕は、普通の人に紛れ込めない。人が一人っ子いない横断歩道。車も一台も通っていないところで、生憎、信号の色を見忘れた僕が、立ち尽くしていると
「ちょっとあんた、渡らないのかい?」
肩を優しく叩かれる。僕はそこを眺めていた目を、体ごと叩いた人物に移して
「えっ………。あっ!ほんとだ。わざわざすみません」
「いいよいいよ。兄ちゃん、若いんだからしっかりしなね!」
強めに叩かれた背中。僕が苦笑いを返す。
「はい、これ飴ちゃん、さっさと渡りなね!」
と僕の手に飴玉をひとつ渡し、彼女は横断歩道を渡った。彼女に聞こえるように
「ありがとうございます!」
大きめの声でお礼を言い、僕は頭を下げた。そして言われた通りにここを渡る。少しモワモワとした蒸気が漂う陽気に、自分の行動に、舌打ちをしたくなった。世の中、青が『安全色』として認識され、多種多様な場所で使われている現代。僕は非常にめんどくさいものを持ってしまった。美術の時間が苦手だった。だって、生まれてこの方、見たこともないものを描くのは、きっと達人だって難しいだろう。あぁ、体育祭も。部活が楽そうという偏見で入った放送部。僕は、それはもう数学の問題を解くよりも、複雑怪奇な国語の文章題を解くよりも、頭をフル回転させる必要があるからだ。これが後二回あると考えると、なんで入ったんだろうと後悔の念しかない。皆がキレイだとはしゃぐ空の色を、僕は知らない。けど、輪からはみ出さぬように、今日も
「空がきれいだ」
隣にいた人が、不思議そうに僕を見て、なんでもなかったかのように、歩いていった。
空を映さない僕の瞳 八月一日茜香 @yumemorinokitune
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