桜と君と、情欲の果て

@sanbun_ao

第1話

白く細い吹き飛ぶ四肢が。

いつの日か、毟った蝶の羽のようで。

美しい、と。

感じてしまったのです。


宙を舞う、彼女の胴。

白いワンピースが春一番で、はらり。

少しだけ覗く肌色と、裾を染め出す赤。

白が、赤く染まりゆく。

お腹の虫が、何故か鳴く。

無慈悲に投げ捨てられた華奢な身体が、地に堕ちる。


ふぅ、ふぅ、ふぅ。

彼女の深い呼吸。

今まで聞いたことも無い、生命を感じさせる荒々しい呼吸。

最期に見せた、ヒトらしいその呼吸。

気が付くと僕は、その口を塞いでいた。

自らの口で。

もう死んでしまうのなら。

もう二度と吸えぬのなら。

彼女の息を吸ってしまいたい。

呼吸が出来ずに苦しむ彼女の舌を甘噛みする。

びくんびくんと暴れる彼女に僕を止める四肢は無い。

陸に上がった魚のように揺れる。

健気に走り回るハムスターがあまりに可愛くて踏み潰したくなる事は無いだろうか?

僕にはあった。

それも何度も。

彼女と出会って、そんな欲望は消えた。

そう思っていた。

彼女がどんな顔をしているか。

いまどんな思いでいるか。

そんな事がどうでも良くなるほど今の彼女は可愛らしくて僕は思わず笑顔になった。

衝動とは食欲とは性愛とはこういうったトキメキを指すのかもしれない。


彼女の涎か、ナニカ。

吐瀉物を、口いっぱいに受け入れて。

だんだんと、彼女の身体は静まり返った。

それでも、僕は口を離さず。

ただ、ひたすらに彼女を吸った。

思い出を振り返るように。

吐かぬ息を、吐かせるように。


情動にかられ、獣の如く貪る。

僕は、一つのけだものだった。

彼女を屠る、けだもの。

お腹の虫が、また少し鳴いた。

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