第6話 引きずる思い

翌日。優馬はいつものように、いつもの道を歩いている。




彼女と別れてから、優馬はずっと考えていた。


自分の言葉は余計じゃなかっただろうか。自分は彼女の気持ちに寄り添えたのだろうか。


このような思いが頭の中をぐるぐるしている。




(…とにかく、公園に行ってみよう)


そう決心して公園に向かう。いつもと同じなら彼女はあの場所にいるはずだ。


逸る気持ちを抑えられず、いつもより早く家を出てここまで来た。




やがて公園に近づくと優馬は恐る恐る中を見渡した。




―――彼女がいた。




きれいな、空色に染まっている髪の彼女が。


彼女はいつものようにたんぽぽを見ている。だが、前のような悲しそうな顔はしていない。




いてもたってもいられず、優馬は彼女に近づく。


「如月さん!」




優馬が声をかけると、彼女は一瞬驚き、微笑を浮かべた。


「……来るの早」


からかうようにつぶやく。




穏やかな笑みを浮かべた彼女は昨日とは別人のようだった。


「えーっと、おはよう…その、昨日は大丈夫だった…?」


優馬が問いかけると、如月は軽くため息を吐いた。




「まあ、そうだね。…ちょっとは落ち着いたよ。…気持ちの整理がついてない部分もあるけど」


「そう、なんだ。…なんていうか、昨日俺がいろいろ偉そうなこと言っちゃしさ。気にしてんじゃないかと思って……」


如月は優馬の言葉には答えず、優馬に背をむけてたんぽぽのほうに体を向ける。




優馬は彼女に声をかけようとしたとき


「私、昨日伊勢くんと話してさ」


彼女が背をむけたままつぶやいた。


「なんというか…救われた気がしたんだ」


「救われた?」




予想外の言葉に優馬は驚いた。


「そう。昨日の話誰にもしたことなくて、ずっと自分で抱え込んでて…。だから伊勢くんに話を聞いてもらったとき、胸も軽くなってちょっと気が楽になったんだ」


そういうと彼女は振り返る。彼女は頬から一筋の涙を流し、しかし笑みを浮かべていた。




「だから、ありがとう。私の事を思ってくれて。昨日だけじゃなくて、その前も…謝ってくれた時も本当は、うれしかった。私の事を放っておかずに関わってくれた」


「大したことはしてないよ。如月さんが立ち直れたのは、如月さんの力だよ」


「いや、そんなことないよ…多分私はね、私の話を聞いてくれる人を探してんだと思う。だから伊勢くん


が話を聞いてくれて、私を理解してくれて…


 私は、私は…救われた。伊勢くんの言う通り、私はこれからも引きずって、忘れないようにするよ」




風が吹く。春の訪れを感じさせる穏やかな風は二人の間を通りすぎ、彼女の青い髪をたなびかせる。


ふと空を見上げると青々とした、美しい空が広がっている。


これから本格的に夏が訪れる。そんな確信を感じさせる生命力にあふれる空だった。




「…ほら学校行こ。遅刻しちゃうよ」


彼女はそういうと、軽快に歩き出す。




「……そうだね」優馬も彼女についていくように歩き出す。


彼女に起きた不幸な出来事。その記憶は簡単にはなくならないだろう。




いつまでも彼女の心に残り続けて、彼女の記憶に焼き付いていく。


だがそれでも彼女はこれからもずっと引きずっていくのだろう。


―――いつまでも自分の大切な人を忘れないために。

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君の見つめる先 ひろ・トマト @hiro3021

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