十三話、食いしん坊な先輩としおらしいメスガキ系後輩。

 大小様々、色とりどりの光を無造作にばら撒いたような世界が広がっている。

 どの光も目に痛いほどでなく、どちらかと言えば弱光の類だろう。狭い範囲にしか明かりは届かず、残りはすべて黒とも取れぬ虚無に包まれている。


 見慣れた王都貧民街ダンジョンの内壁がぶつ切りにされ、地面や天井でさえも途切れ途切れになった空間。壊れかけ、崩れかけ、そんな言葉が似合う空間に二人はいた。

 言うまでもなく、王都警備隊のソウジンとラブリィである。


「……先輩」

「ああ」


 不安定な足場を軽く踏み、最低限今は立っていられると判断する。

 腕の中の女の声に頷き、そっと身体を離す。離し過ぎないようにと、腕は掴んでおく。


「どうして、私を助けに?」


 ちらと目を見て、困惑一色の瞳に首を振る。ラブリィの額を空いた手の指で弾く。


「きゃうっ」

「馬鹿か、お前は」

「な、なんですかぁ!? 人が真剣に聞いてるのにっ」


 この状況でくだらないことを、という思いもあるが、それ以上に今さらそんなことを聞いてくる思考回路に呆れが出る。


「仲間を見捨てるわけねえだろ」


 俺がまさかそんな人間だとでも思っていたのか? 聞くと、短く迷って頷かれた。もう一度、いや繰り返し額を弾き続ける。ぴぃぴぃ鳴く女を無視し、この異様な空間からの脱出を考える。


「ソウ先輩」

「ああ」

「先輩、さっきのは冗談です」

「にしては真面目に頷いてたよな」

「ですけど、冗談です」

「そうか」

「はいっ」

「まあどうでもいいが」

「先輩」

「ああ」

「ありがとうございます」

「あぁ」

「……えへへ」


 何がそんなに嬉しいのか、幸せそうに微笑み自らを掴むソウジンの手を撫でてくる。ずいぶんとしおらしい姿だ。ラブリィらしくないが、さすがに今の状況はこの女でも堪えたのだろう。

 数秒穏やかな表情を見せ、ぱっと顔を上げたかと思えばいつものラブリィに戻って声を張る。


「よしっ、ソウ先輩! ここから脱出しましょう! 私一人だとちょーっと難しかったかもですけど、ソウ先輩がいるなら平気です! どうやって出るんですか?」

「知らん」

「そうですか。知らない、と。……どうするんですか?」

「どうするか……」


 困った顔の女に、同色の顔を見せる。しょうがない、わからないものはわからないのだ。

 とりあえず、空間の崩壊は今なお続いているので一か所に留まるわけにはいかない。その場を離れ、飛び飛びの足場に沿ってどこかへ歩いていく。


「わ、わっ、先輩先輩っ! これ怖いんですけど! さっきみたいに私のこと抱きしめてくれてもいいですよ!?――ぁ……えと、あのソウ先輩」

「なんだ」

「え? あ、や、やー、な、なんでもないですよぉ」

「……そうか」


 顔を真っ赤にして髪をぶんぶん振り回していたら、なんでもないも何もないと思うが。言葉は飲み込み、照れ照れと頬を染めるラブリィの手を引いて歩く。


 魔物はいない。人もいない。継ぎ接ぎの罅割れた空間が延々と続いている。

 徐々に足場は少なくなり、まともな空間は数を減らしていく。


「そういえば、ガフィン君見つからなかったですね」

「カルフィナの兄か……ダンジョン主なら最奥にいると思うが、この状況で最奥も何もない。あとは生徒会に任せよう。そもそも俺たちに依頼してきたカルフィナが偽物だったんだ。ガフィンもどうだか……」

「ですねー。……でも、王子様たちだけでピンクロリの相手できますかね?」

「……わからん。奴の主武装は魅了洗脳系魔法のようだから、ヘルトリクスがそれをどうにかできれば可能性はある」

「え、魅了洗脳系ってなんですか? 私聞いてないんですけど」

「生徒会の魔法剣士と土魔法使いが俺に攻撃してきただろう。あれだ」

「あー……あれってそういう感じだったんですか」

「おそらく。逆にお前は何だと思ったんだ」

「え? それはソウ先輩にムカついて」

「そんなわけねえだろ」

「きゃうっ」


 馬鹿なやり取りもしながら出口を探す。

 薄暗く、まるで星明かりだけを頼りにしたような寂しくも美しい世界を進む。


「ここ、綺麗ですね」

「危険だぞ」

「わかってますよぉ。……でも、ダンジョンの中にこんな場所があるなんて、って思って」

「おそらく、ダンジョン主の性質だろう」

「ガフィン君ですか?」

「ああ。次元魔法使いという話だっただろ?もしダンジョン主になって魔法が暴走していたら、空間がめちゃくちゃになるのもありえる」

「なるほどー。……助かってくれるといいですね」

「……ヘルトリクスなら大丈夫だ」

「信頼ですか?」

「勘だがな。ああいう人間を何度か見たことがある。負けず、退かず、諦めず。どこから湧いてくるか知らん謎の力で逆境を跳ね除けるんだよ」

「ふーん……先輩みたいですね」

「俺?」

「はいっ、だってソウ先輩、私の知らない力で私のこと助けに来てくれましたし」


 ちら、とラブリィを見て、儚げな世界に浮かぶ微笑みから目を逸らす。


「音越えならお前も知っていただろ」

「見たのは初めてでした。できる人、本当にいたんですね」

「……俺はそんな強い人間じゃねえよ」

「そうですか?」

「そうだ」

「そうですか」

「納得してないだろ」

「べつにー? ソウ先輩の自虐は楽しくないので聞きませんっ」

「お前……はぁ」

「それより先輩、やっぱり綺麗ですよ」

「……そうかもな。こんな機会、二度とないだろうよ」

「先輩、綺麗だと思います?」

「……あぁ。綺麗だと思うよ」

「ふふ、私の方が綺麗ですか?」

「ああ。お前の方が綺麗だよ」

「きゃふふ、嬉しいです」


 歩きながら、手を繋ぎながら、二人の世界で二人の話をする。


「あんまり私たち、お互いのこと知りませんよね」

「所詮同僚、先輩後輩の関係でしかないからな」

「どうしてそんな冷たいこと言うんですかぁ」

「事実だろ」

「そうですけどぉ……」

「家族、友人、金の使い道、好きな飯、嫌いな飯、好きな飯屋、好きな料理、好きな魚、好きな肉、好きな野菜」

「ほとんど全部ご飯じゃないですか……」

「まあな。だが俺の生活なんてそんなものだ。飯を食って、働いて、飯を食って、働いて、飯を食って、食って寝て食って食って寝て食って寝る」

「ほんとにご飯ばっかりですね!?」

「うまいからな」

「そりゃーご飯は美味しいですけどぉ……」

「食うか? 干し肉だ」

「わ、え、なんでこんなものを……?」

「こんなこともあろうかとポケットに忍ばせておいた」

「普通こんな状況想定しませんよね?……もしかして先輩、普段から……?」

「当たり前だろ。いつ何時、飢えに苦しむことになるかわからんからな」

「先輩……」

「なんだ? キスもちゅーもしねえぞ」

「今のはキス待ちの"先輩……"じゃありません! ちょっと引いちゃった私の"先輩……"ですよ!!」

「難しいな。もっとわかりやすくしてくれ」

「先輩が鈍いだけですー!!」


 結構元気だな、とソウジンは頷いた。


「お前はどうだ?」

「は、え? 何がですか?」

「家族だよ」

「急にお話戻りますね……」

「そうか? なら干し肉食うか? 今なら塩砂糖も付けてやるぞ」

「どれだけ持ってきてるんですか!? えと、海藻塩味に果物チップスに、干し肉に塩砂糖……。もう他にないですよね?」

「あとは少し前に流行ったチョコレイトだな」

「えっ!? チョコレイトって超珍しいお菓子じゃないですか! どこで手に入れたんですか!?」

「道端で野蛮人に絡まれている子供を助けたら貴族の子でな。親からもらった」

「……先輩ってたまにすごい人助けしてますよね」

「まあな。俺は警備兵だぞ。犯罪は見逃さねえ」

「……」

「なんだ、その顔は。可愛く笑っても俺は見逃さねえぞ。物凄い微妙な顔していただろ」

「か、可愛いってっ」

「今さらそこに引っかかるのか……」

「なっ、だ、だって先輩そんな、可愛いとか言わないじゃないですか!」

「……そうか?」

「そうですよぉー!!」

「別にどうでもいいだろ。飯がうまい、とは違ってお前が可愛い、は言う必要がねえ」

「ソウ先輩のご飯への執着が強すぎるんです!」

「そりゃ飯はうまいからな。今回このまま狭間に取り残されたとしても、俺のデザートのおかげで飢えは凌げる。だろ?」

「むぐぐ……否定したいけどできない。でも先輩、飢える前に世界壊れて死んじゃいそうですよ?」


 さすがのソウジンでも「ご飯で世界は超えられるぜ」とは言えなかった。ラブリィの正論に黙り込む男である。反論はできないので、適当に話題を逸らすことにした。


「それよりラブリー」

「露骨な話題転換ですね……」

「俺の話は嫌か。そうか。なら構わん」

「わーもう! 嫌じゃないですから拗ねないでくださいよ! もう、先輩さっきから子供っぽいですよ?」

「……腹が減って気が昂っているのかもしれん」

「いっぱい食べてるのに?」

「それより、ラブリー」

「はいはいはぁーい、先輩愛しのラブリィちゃんですよ。仕方ないので乗ってあげます」


 優秀な後輩はえへんと胸を張った。豊かな胸がよく揺れる。


「ラブリー。家族はいるのか?」

「あ、まだ答えてませんでしたか」

「ああ。どうなんだ?

「えっと……いますよ」

「そうか……大事にしろよ。大事なものほど、いつの間にか手のひらから転げ落ちているもんだ」

「じゃあ、先輩のご家族は」

「死んだよ。ずいぶん前にな」


 短い深呼吸がソウジンの耳を揺らす。緩い空気感から急にシリアスへと変わり、戸惑いつつも意識を切り替える女である。ソウジンは特に変わらずマイペースだった。


「……聞いてもいいですか?」

「ああ」

「ご家族……ソウ先輩でも守れなかったんですか?」

「ああ。……俺はその場にいなかった。守るも何も、気づいたら村は全滅だ。生き残りなんざ一人もいなかった」

「……相手は誰でしたか?」

「俺は前線国家出身だ。……これでわかるか?」

「それは……はい。少しは」

「そうか。その相手……というか敵対種族か。俺一人で殲滅なんて無理な話だろ。直接の下手人は既に俺以外の戦士が殺していた。俺は当時、別の戦場で殺し合っていたからな。普通に負けて死にかけて助けられて、ボロボロで戻ったら村は滅んだ後だった」

「先輩でも、負けることあるんですね」

「だから言っただろう。俺は弱い。家族一人守れねえような……弱い兵士だよ」


 小さな声にラブリィは何も言わず、ただただソウジンの手を強く握った。

 音のない世界に、二人分の足音と息遣いだけが響く。繋いだ手の温もりが、存在を繋ぎとめる鎖のように感じられた。


「ソウ先輩」

「ああ」

「ソウ先輩は家族を守れなかったかもしれません。けど、私のことはちゃんと守ってくれたじゃないですか」

「……そうか?」


 ラブリィをソウジンの静かな眼差しににっこりと笑って頷いた。


「はいっ! ソウ先輩はちゃんと私のこと守ってくれました。私、昔の先輩は知りません。でも、今の先輩は知っています。よわよわなソウ先輩じゃなくて、つよつよなソウ先輩のこと知っていますから。だからそう弱気にならないでください。……きゃふふ、どうしようもない時は、私がちゃぁーんと慰めてよしよししてあげますからっ」


 柔らかく、しかしからかいも混じった笑みで言う女に、男は口元だけで笑って力強く手を握った。


「いた、いたいいたい! ソウ先輩いたいですよぉ!!」

「そうか。……礼を言う。ありがとうラブリー」

「どういたしまして!! けど痛いですってばぁー!!」


 数秒で力を緩めると、ラブリィは繋ぐ手を逆にして空けた手は痛そうにひらひら振った。

 ぶーぶー文句を言っていたのも束の間、溜め息を一つ吐き、話を切り替えるように呟く。


「先輩。外、出られたらどうしますか?」

「時間によるが飯だな」

「ふふ、だと思いました。夕飯、私も一緒ですよね?」

「俺は家に帰って食うぞ」

「何食べるんですか?」

「米」

「あとは?」

「魚」

「他には?」

「終わりだ」

「ソウ先輩、私がお買い物付き合ってあげますから何か買いましょう?」

「まあ構わんが、半額になるまで待つぞ」

「そ、それはもしかしなくても遅くまで一緒にいたいっていう合図っ」

「なわけねえだろ」

「きゃふふ、ですよねー」

「一緒に夕飯か。昼以外だとずいぶんと久しぶりかもしれねえな」

「ね、ね。楽しみです。なに食べます?」

「お前の好きに選んでいいぞ。どうせ金出すのはラブリー、お前だ」

「……自分で言ってて恥ずかしくありません?」

「恥ずかしくない」

「わぁー……すっごい堂々とした顔。無駄にカッコいいのやめてください。ちょっぴりドキッとした自分にイライラします」

「悪いな。だが恥ずかしくはない。俺とお前は相棒みたいなものだ。そこに金銭の垣根は存在しない」

「そ、そんなアイボウだなんて♡……ん、あれ。ねえ先輩? 今の台詞ってただ私のお財布はソウ先輩のものでもあるって言ってません?」

「気のせいだろ」


 何やら首を傾げる後輩に、先輩のヒモ男はさらりと頷いた。物は言いようである。


「俄然、飯が食いたくなってきたな。……夕飯、絶対に食うぞ」

「はいっ! 今晩は一緒ですよ?」

「ああ」

「絶対二人で食べるんですからね」

「ああ」

「約束、ですからね」

「あぁ……約束だ」

「……」

「……」

「……私たち、出られますよね」

「ああ」

「何か思いつきましたか?」

「ああ」

「……ん ?え ?思いついたんですか!?」


 しっとりとした歩みが止まる。

 手を引っ張られ、振り向けばキラキラとした空を写し取る紫青の瞳がソウジンを見つめていた。


「不安だったか?」

「べ、別にそういうんじゃ……ちょこっとだけ」

「そうか。案は思いついたんだが」

「……が?」

「魔力が足りねえ」


 ふ、っと天を仰ぐ。

 どうするどうすると、歩きながら話しながら考えてはいた。最初からこの案なら頭に浮かんでいた。音越えを行う肉体強化ならば、このちぐはぐな空間でも関係なく破砕し踏み越え、ダンジョンを破壊し外に出ることも可能だろう。


 だが魔力が足りない。

 一瞬なら良い。数秒でも良い。十数秒でも大丈夫だろう。ならどれだけ時間をかけて良いのか。崩壊途中のこの空間はどこまで続き、どこまで壊せばダンジョン外となるのか。想定外の手法を使うならば、想定外の魔力が必要だ。


「ラブリィ。魔力の譲渡が必要だ」

「はぁ。構いませんけど……――はっ!!?」

「どうした?」

「ソウ先輩ソウ先輩!」

「なんだよ」

「魔力の譲渡と言えば! その、えと……ち、ちゅー……とか必要だったりしません!?」

「いや要らねえだろ。手、繋いでいればそれで」

「ほ、ほら! え、えと……ちゅーした方が効率良いかもしれませんよ!?」

「内臓に繋がってるからそりゃそうだろ。だが今回は」

「これが人生最後かもしれないです……よ? 私の唇、奪う最後の機会かもしれませんよ……?」


 ちらちらとこちらを見上げ、目を潤ませてもじもじとしながら言う。

 可愛いには可愛いが、どうも演技臭くて信用できない。人生最後になどさせるわけないのでありえない仮定ではあるが、それくらい別に構わないかとも思う。口付け程度したところで減るものもなし。


「わかった。いいぞ。するか」

「は。え、か、軽くないですか? 世界で二人っきりのこの場面で、そんな軽く言います?」

「……はぁ」

「あーー!! 今こいつ面倒くさい女だとか思いましたね!!!!」

「思ってねえよ」

「絶っ対思いましたぁ!! 思ってないなら私とち……ちゅー、し、してくださいよぉ!」

「だからいいぞ。俺は目閉じてるから早くしろよ。空間の崩壊も速まってるからな」

「えっ」


 薄暗い世界で目を閉じる。本当ならこんな時にこんな場所で視界を閉ざしたりしたくないが、ラブリィがキスを願っているのだから仕方ない。幸い周囲に魔物はいない。少しなら時間を取れる。


「えっ、えっ、えっ。わ、私からするん、ですか……?」

「あぁ」

「こ、こういうのって男の人からとかじゃありません?」

「知らん。ラブリー。待ってるぞ」

「う……わ、わかりましたっ。うぅ……ちゅー待ちの先輩堂々とし過ぎなんですけどぉ」


 す、っとソウジンの頬に手が当てられる。見えないが、魔力は伝わってくる。近く近く、頬を紅潮させた女がちょこんと背伸びして顔を近づけていく。

 鼻に届くラブリィ特有の甘ったるくも華やかな香り。空気越しに体温が伝わり、吐息の重みが顔にかかる。


「ソウ、先輩……」


 甘みは含むが、からかいの一切ない少女的な声音だった。

 ラブリィが少女か、と一人男は口端に笑みを浮かべる。柔らかな肢体が身体に触れ、頬に当てられた手が熱を帯びている。唇にかかる息が熱く、迷いの息や喉の音までもが鮮明に伝わってくる。触れる――と思っていたら顔が逸れ、ふんわりと頬にささやかな感触があった。

 目を開くと。


「え、えへへ……ま、まだお預けでーすっ! ちゃんとしたちゅーはもっと仲良くなってから!」

「お前……はぁ」


 耳まで赤くしてわざとらしく声を明るくする女を見て、溜め息を一つ。

 今のでは魔力効率も半減だ。それに一瞬過ぎてほとんど意味がなかった。この女、口付けに意識が寄り過ぎて魔力譲渡のことを忘れている……。


 嘆息を繰り返し、しょうがないとラブリィに背を向ける。


「せ、先輩?」


 不安げな声は無視し、いつも通りさらりと告げる。


「ほら乗れ。ちゃんとくっつけよ。この鬱陶しい空間からさっさと出るぞ」

「ぁ、は、はいっ」


 ぎゅっと背中に飛びついて引っ付いてくる女を支える。

 複数の魔法呪文が聞こえ、再び二人の身体が強力に結び付けられる。手足を絡め、準備完了と首筋に頬を寄せてくるラブリィに。


「口付けは首でもいいからずっとしておいてくれ」

「え?」

「今回は外に出るまで時間がかかるかもしれないからな。魔力はお前に任せる」

「……え?」

「ダンジョン外に出るまで頼んだぞ。ラブリー」

「…………」

「返事は?」

「……が、がんばります」

「よし、なら行くか。――あぁそうだ。ラブリー」

「は、はぁい……なんですかぁ」

「お前、思ったよりちゃんと女してるんだな」

「――――」

「ラブリー?」

「――ぴゃぃ」


 何とも言えない返事をするラブリィだったが、やることはちゃんとやってくれるようなのでソウジンは全身に肉体強化を施した。

 見据える先はダンジョンの外。ソウジンの夕飯が待つ、飯の街、王都だ。

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