第25話 残骸

 自分の足で約3時間ほど走ってようやく魔王城が見えてきた。

 正直言ってめっっっちゃ疲れたので、帰りは近くの町で馬車に乗せてもらおう……。


 魔王城周辺の土地は黒色の岩石地帯であり、見渡す限りに草木のほとんどない不毛の荒野が広がっている。

 しかし1000年もの昔にはこの地に大量の魔族が集う一大都市が築かれていたというのだから驚きだ。たしかによく見ると、荒野には転々となんらかの建物の残骸らしきものが確認できる。


 そしてその残骸は荒野の真ん中の方へ進むにつれて数を増し、それらの中心にあるのが魔王城。


 1000年の時を経てもなお不気味にそびえ立つ、血にまみれた大戦の名残だ。


 〇


 俺はいよいよ魔王城(跡)の内部に侵入した。


 侵入、といっても別に悪いことをしているわけじゃない。

 現状この魔王城跡とその周辺の土地はだれの所有物でも管理下にもないからだ。


 というのもそもそもここらの地域は大気中の魔力が高い土地柄で、魔王が打倒されたその後も強大なモンスターが住み着きやすい危険地帯であることには変わりないのだ。実際俺もここに来るまでになんかヤバそうなデカい蛇とか頭が二つ生えた犬とかに遭遇した。


 そんなわけなので、これだけ広い土地であっても誰も手を付けたがらない。

 一応、定期的に上位の冒険者なんかが異変が起きていないか調査には来ているらしいが……。


「……さて、どうしようかな」


 特にあてもなく、なんとなく城内に入ったわけだけど、俺の目当てはあくまでゴーストだ。しかしどの辺にゴーストが出やすいのか分からない。


 とりあえず上階に向かってみるか?

 せっかくだし観光気分で色々見て回るのもいいかもしれない。


 〇


 城の状態は、当然と言えば当然だが実に酷いものだった。

 壁や天井、床などいたるところが崩落しており、建物として自立しているのが不思議なくらいだ。


 しかし暗~い城内を散策するのは、なんだがホラーゲームみたいでちょっと楽しかったりもする。……とはいえ、肝心の驚かせ役がいない。

 食堂っぽいところや兵舎っぽいところなど、さっきから色々なところに行ってるわけだけど、ゴーストどころか小型モンスターの一匹すらいない。


 やっぱり城内に来たのは失敗だったかな~、なんて思いながら階段を上ると、とうとう最上階にたどり着いてしまったようだ。


 高い天井に空いたいくつもの穴から、銀色の月光が遠慮なく降り注いでいる。

 いままでの不気味な雰囲気とは異なり、不思議と神聖に感じられる空間だ。


 なんだが晴れやかな気分になった俺は、その光景を目に焼き付けながら部屋の奥へと進む。

 歩きながら綺麗な場所だな~なんて、呑気なことを考えていたその時だった。



 誰かいる。



 巨大な部屋の最奥。

 周りから一段高くなっているそこには、恐らく大魔王デモンロードが実際に使用していたと思われる大きな石製の玉座が、月明かりに照らされながら厳かに佇んでいる。


 そしてその玉座の前に、何者かがひざまずいているのだ。


 一般的な人間の大人よりもふた回りほど大きな黒い影。

 それを視界に留めた瞬間、俺は足を止めた。


「……何者だ」


 その影に向かって声を掛けた。

 すると僅かな静寂の後、それはゆっくりと立ち上がる。


「クカカッ。何者だと?それはこちらのセリフだ、ニンゲンよ。よくも大切な祈りの時間を邪魔してくれたのう……」


 そいつは声を発した。

 しゃがれた老人のような声だ。


 そしてこちらに振り返ったその顔は、気味が悪いほど白いドクロだった。

 その虚ろな眼孔には、血のように紅い光が灯っている。


「……スケルトンか」


 俺がそう言うと、そいつはカタカタと骨を揺らして笑った。


「クカカカッ!ワシがただのスケルトンに見えるかッ!……ならば、これを見ても同じことが言えるかのう?」


「……なっ!?」


 スケルトン(仮)は身にまとっていた黒い衣を自ら剥いだ。

 そしてそこから現れたのは、左右の肩から三本ずつ生えた、計六本の腕だ。

 加えて腰にはやたら長くさやもない刀が一本携えられている。


 ……いや、そんなものを見せられても、スケルトンはスケルトンだろう。

 だって骨だし。


 ちょっとガッカリしている俺とは対照的に、スケルトンは喜々とした様子で刀を6本の腕で持ち、そして言った。


「……新生魔王軍四天王、六腕一刀ろくわんいっとうのガラク。大魔王デモンロード様の名の下に、神聖なる玉座の間に踏み入った愚かな人間に制裁を下さん……。生きて帰れると思うなよ。クカカッ」


「!!!!!?!?」


 新生魔王軍だと!?

 唐突に飛び出た予想外のワードに、俺は度肝を抜かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る