第23話 正式加入
エリオが用意した、これまた味のしないシフォンケーキを気合でたいらげた俺は、彼女が食器類を片付けてくれている間、何をするでもなくシャンデリアの光を見つめていた。シンプルに腹がいっぱいで、何もする気が起きなかったのだ。
いや、ご飯を用意してくれたこと自体は嬉しいんだけどさ……。
「ふふ、これ以上食べられないといった様子ね。喜んでもらえたみたいで良かったわ」
片づけを終えてこちらの部屋に戻ってきた彼女が俺の姿を見て言った。
これ以上食べられない、という部分は正解だ。
「……で、本題はなんだ?まさか、料理を振る舞うことだけが俺を呼び出した目的ではあるまい……げぷっ」
単刀直入に切り込んだ。
するとエリオの顔つきが瞬時に真剣なものへ切り替わり、静かに俺の隣のソファに腰を掛けると、ゆっくりと話し始めた。
「……ええ、ここからが本題よ。あなたはスイレンの要望通り新入生剣闘大会で優勝して、実力を十二分に示してくれた。他のメンバーも、ノウンが
「……そうか」
「そう。だからあなたにはここで最終決定をして欲しいの。……私たちの仲間になるか、ならないか」
彼女は俺の目を真っすぐに見て言った。
「もし私たちの仲間になれば、きっと命がけの戦いに巻き込まれることになる。その覚悟が今のあなたにあるのか、しっかり考えて答えてほしい」
「…………」
とうとうこの時が来てしまった。
だがまあ、自分の中である程度答えは決まっていた。というか、仲間にならないつもりならわざわざこんなところまで来ないだろう。
これまでなんの目的もなく異世界をふらついていたわけだけど、ここいらで世界の一つでも救ってみるのもいいかもしれない。……いや、それよりも個人的には彼女の気持ちを無下にできないという思いが強かった。
全然記憶にないけれど、なぜか俺にものすごい信頼を置いてくれているエリオを無視して、これからものうのうと遊んで暮らすなんて俺にはできない。
「……覚悟はとっくに決めてある。俺でよければ力を貸すよ」
そう答えると、エリオの強張っていた表情がすっと緩んだ。
「……ありがとう。あなたならそう言ってくれると信じていたわ」
安堵で微笑んだ彼女を見ると、多少これまで抱いていた罪悪感のようなものが和らいだ気がした。
「それじゃあ
「……誓いの刻印……?」
なんじゃそりゃ?と思っていると、エリオは「実際に見せた方が早いわね」と言っておもむろに制服の上着を脱ぎ、そしてノースリーブのシャツから露出した自身の左肩をそっと右手で覆う。
彼女の奇妙な行動を
三本の剣が交差し、雪の結晶のような形を成している。そんなマークがエリオの左肩に出現していた。
「これが“誓いの刻印”。魔力を通すことで可視化される、
「……ほう」
なるほど。要するに魔法のタトゥーみたいなものか。
へー、かっこいいじゃん!と俺は素直に感心した。
「すぐに終わるから、この場で入れてもらってもいいかしら?」
「……ああ、構わない」
「ありがと。じゃあ刻印したい場所はある?万が一の場合もあるし、普段人から見えないところの方がいいとは思うんだけれど……」
「……ふむ」
うーん、これは超重要だぞ……。
身体に入れるからにはやはり一番かっこいい所に入れたい。
魔力が通ると見えるようになるという性質を考えると、個人的に額や頬にあると厨二っぽくていいんだけど……。でもエリオが言うには人の目に付きやすすぎるのもよくないみたいだし……。
それならオーソドックスに手の甲とか?俺ならマントでだいたい隠れてるし。
あとは胸とか背中とか……、脚……はないな。
変わり種で舌って言うのも……、いやキャラに合わないし、なにより刻むときに痛そうだ。
困ったなあ……、こういうの一生悩んじゃうタイプなんだよなあ……。
そんな数十分にも渡る長考の末、最終的に俺が出した答えがこれである。
「……ほ、本当に良かったの?こんなにたくさん……」
「……ああ、問題ない」
俺は左手の甲、右胸、左わき腹、背中の上真ん中、右足の裏の計5ヶ所に誓いの刻印を刻んだ。そうだ、魔力を通さなければ見えないのなら、たくさん入れても問題ないのだ。
幸い印を刻むのも結構簡単で、エリオが用意した金型みたいなのを身体に押し付けて少し待てばできあがる。
出来栄えを確かめるために試しに左手に魔力を集中させると、きちんと手の甲に紋章が浮かび上がった。うん、かっこいいな!
「え、えっと……、これで今日の要件は終わりよ。また連絡事項があればリオンにでも伝えてもらうわ。学園では極力接触しないようにお願いね」
「……了解した」
こうして長かった一日が本当に終わった。
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