第17話 暴走、そして決着
『ど、どうしたのでしょう……?レイシアナ選手、突然人が変わったような攻撃スタイルになりましたね……。会場もざわついています』
『これは……少しマズいかもしれません』
『え?どういうことですか?』
『魔剣の力に飲まれた……、端的に言うと肉体の主導権がレイシアナから剣霊に移った可能性があります』
『ええ!そんなことがありえるんですか!?あの剣霊はレイシアナ選手が作り出したもののはずでしょう?』
『僕も実例を見たことはほとんどないので断定はできませんが……、ありえない話ではありません』
『そんなあ……。ど、どうすれば正気に戻るのでしょうか……?』
『詳しくは分かりません。ただ、確実なのはレイシアナの魔剣を破壊することです』
『魔剣を破壊ですか……!?でもそんなことをすればレイシアナ選手は退学に……』
『今はそんなこと言っていられません。……そこの君、すまないが先生に王剣の使用許可を取って来てくれ。最悪の場合は僕が出る』
……実況解説のお二方、ありがとうございます。
実況席も観客も騒然とする状況であることはわかった。
全く、剣霊とかいう化け物が出てきたと思ったら今度はそれに肉体の所有権を奪われるなんて、ほんとにもうめちゃくちゃだな。
……まあ、彼女にそこまでやらせるほど調子に乗って挑発したのは俺なので、俺にも多大な責任があることは間違いないのだけれど……。しかし、やるべきことは明確になった。
彼女の魔剣を破壊して正気に戻す。
ただ目の前にいる女の子を助けなくちゃいけない、それだけだ。
「グアウッ!!」
再びレイシアナが突っ込んでくる。
とてつもない速度だが、直線的な動きだ。それに先ほどの一撃で目が慣れた。
華麗にかわし、反撃を加えようとするが……。
「ゴガアアアアッ!!」
「ちぃっ!」
金狼が現れてそれを阻止する。
失念していたがこいつも健在だった。
「グワアアオッ!!」
そして体勢を立て直したレイシアナが再び攻撃を仕掛けてくる。
なるほど、これはちょっと厄介だな……と思ったのも束の間。
はっきり言ってさっきより弱い。
確かに身体能力が向上していて、腕力が強く、動きも速いがそれだけだ。
さきほどの剣士と剣霊の連携はほとんどなくなっており、それどころかお互いに足を引っ張り合ってる場面もある。
……これなら、もしかしたらできるかもしれない。
レイシアナを退学させずに、彼女を助けることが。
そのためには……。
「ゴガアアアアアアアアアアッ!!!」
このデカい犬が邪魔だな。
「……ダークパあああンチ!!」
飛び掛かってきた黄金獣なんとかの顔面を左手で殴ってぶっ飛ばした。
よし、これでレイシアナだけに集中できるな。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
またなんのひねりもなくレイシアナがこちらに迫ってくる。
あれだけ優れた剣士だった彼女をこんな姿にしてしまっただなんて、申し訳なさで胸が痛い。
「……すぐに楽にしてやるからな」
いや、それだと別の意味になるのか?まあいいや。
俺はその場で拾ったフィールドの破片をレイシアナの方に向かって親指で弾いた。
「ア?」
もちろん単純なデコイなわけだけど、今の彼女は俺の思惑通りに宙を舞うその破片に注意を逸らした。その一瞬に大きな隙ができる。
俺は深く息を吸って、剣を構える。
そしてレイシアナが握る魔剣に焦点を定め、意識を集中した。
普段ほとんど使わないから成功するかは分からないが、一か八かやるしかない。
「………………デリケート・ダークスラッシュ」
静かに剣を振り下ろす。
その直後、レイシアナの体勢が崩れて、力なく地面に倒れこんだ。
さきほどぶっ飛ばした剣霊も、光の粒子となって大気中に霧散していく。
激しい戦いが嘘だったかのように、決勝戦の幕はあまりにも静かに閉じた。
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