第18話 終幕
『…………れ、レイシアナ選手、戦闘不能……。よって勝者は……アン・ノウン選手です……?』
実況のマイクがそう告げても、観客からは微塵の歓声も拍手も起こらなかった。
その場にいた観戦者全員が、先ほどの一瞬でなにが起こったのか分かっていなかったのだ。
……ただ一人を除いて。
『会長……いったい何が起こったのでしょうか……?レイシアナ選手の魔剣は破壊されていないのに、彼女の剣霊が消えたみたいですが……』
『……はははっ、……実に興味深いね……』
レオナルド・ブレイドハートは、顔を伏せて不気味に笑った。
『会長?どうしたんですか?』
『……あ、いやすまない。それよりも早く救護班を向かわせてくれないか。レイシアナも消耗しきっているだろうから』
『は、はい』
しばし膠着状態だった会場が、慌ただしく動き始めた。
それも当然だ。既に試合は終わったのだから、大会も幕を引かなければならない。
周囲が騒がしくなる中、レオナルド・ブレイドハートはポツリと、虚空に向かって呟いた。
「アン・ノウンか……。いつか、君と剣を交える日を楽しみにしているよ」
〇
大慌てでやってきた救護班が、気を失っているレイシアナを担架に載せてどこかへ運んでいった。大きな怪我もないようだし、あの様子ならすぐに回復するだろう。
……彼女が倒れた瞬間に何が起こったのか、俺が一体何をしたのか、なぜ魔剣を破壊していないのに剣霊が消えたのか……、その答えは実に単純だ。
端的に言えば、俺はレイシアナの魔剣を破壊した。
俺が最後に放ったデリケート・ダークスラッシュ(仮)は、いわば原子レベルの微細な斬撃だ。
それが直撃した彼女の魔剣はほんの一瞬、コンマ数秒間だけ間違いなく切断され、剣としての機能を失った。そしてその直後に再び原子同士が結合し、まるで何事もなかったように元の魔剣に戻った、というわけだ。
そんな一瞬で彼女と剣霊とのつながりが絶てるかは分からなかったが、どうやら上手くいったらしいので、結果オーライだろう。
しかし、これで俺の
まあ、どうにかなるっしょ!
〇
いろいろとごたついた後、優勝者の表彰式があったわけだが……、本当に地獄みたいな空気だった。
誰も俺の優勝を歓迎している様子はなく、むしろ恨んでいるようですらあった。
やっぱりみんな生徒会長の妹であるレイシアナに優勝してほしかったらしい。数多の冷ややかな視線が俺に集中して、すごく気まずい。
唯一、トロフィーを手渡ししてくれた生徒会長だけはニコニコしていたが、それもそれでなんだか気持ち悪かった。
かくして新入生剣闘大会は後味が悪いまま幕を閉じた。
明らかに他学生の俺に対する印象は悪化したが、まあいい。
むしろ当初の狙い通りなわけだし、個人的には充分に成果のある大会だったと言ってもいいでしょう。うん。
〇
大会の終了後、俺がさっさと帰ろうと闘技場から外へつながる通路を歩いていると、意外な人物に呼び止められた。
「ちょっと待ちなさい」
「……ん?」
振り返るとそこに居たのは、なんとレイシアナだった。
身体の数か所が包帯で覆われているが、大したことはないようだ。
にしても復活が早すぎると思うけど……、身体が丈夫なのはいいことか。
俺が感心していると、彼女はこちらを探るような目で見つめて言った。
「……ねえ、少し話しをしていかない?」
「!!!!?!?」
まさか本人から恨み言を言われるのか……?
今日は疲れたから、早く帰して欲しいんだけど……。
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