第16話 レイシアナ、ブチ切れる
『と、と、と、とんでもないことが起こりました!なんとレイシアナ選手、魔剣士の中でも限られた者にしかできないという神業、剣霊解放を発動しました!!会長、これはいったいどういう技なのでしょうか?』
『自身の魔剣に宿る魔力を剣霊として具現化する、魔剣士のひとつの到達点とも言える奥義ですね。強力な反面、魔力の消費が激しいのが特徴です』
『それはつまり、レイシアナ選手は短期決戦を望んでいる、ということでしょうか?』
『そうでしょうね。僕も彼女がここまでするとは思っていませんでしたよ。しかし、そうせざるを得ないほどアン・ノウン選手は強敵……、僕の予想では彼もまた剣霊解放の使い手なのではないでしょうか』
『なるほどお!まさかの剣霊同士の衝突が見られるかもしれないんですね!新入生剣闘大会決勝戦、ここにきて戦いはさらにヒートアップしていく模様です!!』
…………ということらしい。
ふむ、魔剣に宿る魔力を剣霊、つまりレイシアナ横にいる獣みたいな形で具現化する奥義か。
……いや、無理だよ!?
俺の場合「魔剣に宿る魔力」という前提部分から外れてるんだから!
どれだけ銅剣をこねくり回してしてもあんなのを出せるわけがない。
「どうしたの、早くしなさいよ!あまり長時間は保ってられないわよ!」
「……あ……いや……その……」
俺とは対照的に、彼女はやる気満々みたいだ。
というかこの人も悪いよね!?
俺は全力を出すことには賛同したけど、剣霊なんてものを出すとも出せるとも言ってない。勝手に向こうが思い込んでるだけだ。
あと解説の生徒会長も酷い。
なにが「僕の予想では彼もまた剣霊解放の使い手なのではないでしょうか」だよ!兄妹そろってみる目なしか!
ど、どうしよう……。なんて答えればいいんだ。
これだけ強者感を出しておいて「そんなのできません。ごめんなさい」とか言えるわけがない。
くそう……。かくなる上は……。
「…………くくく、……くはーはっはっ!笑わせるな、それが貴様の全力だとう!?その程度の力で、俺から剣霊を引き出せるわけがないだろう!!」
「な、なんですって!?」
驚愕するレイシアナ。
うん、もうこれしかない。あえて剣霊を出さないというスタイルで、さっさと試合を終わらせてしまおう。
「貴様ごときに全力を出す必要はない!さあ、終幕といこうじゃないか!」
俺が挑発すると、レイシアナは肩を震わせ、みるみる顔が紅潮していく。
「ふっっざけるなああああああああああああああああああ!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
絶叫とともに、レイシアナと金狼が同時にこちらへ踏み込む。
さっきより速い!亜音速の斬撃と獣の巨大な爪が同時に俺を襲う。
俺は銅剣で斬撃を弾き、爪を踏みつけてなんとかその場を凌いだ。
「お前はこのレイシアナ・ブレイドハートを侮辱した!万死に値する!」
「くははっ!ならば俺を罰してみろ!できるものならな!!」
四方八方から絶え間なく強烈な攻撃が飛んでくる。
それだけじゃない、彼女たちの連携もかなり洗練されているな。
攻撃面でも防御面でもなかなか隙を見せない。
並みの剣士ならここまでで数十回は死んでいるだろう。
それに剣霊の方も単体で十分な脅威だ。恐らく冒険者ギルドだと、A級~S級相当の討伐対象モンスターに分類される。
久々に興奮してきた……!だがしかし……。
「ソルティ・ダークスラッシュ!!」
「きゃあっ!?」
こちらの方がまだ
連撃の合間にある僅かな隙をついてダークスラッシュを放ち、レイシアナと剣霊を分断させる。
こうなってしまえば対処はしやすい。
「ダークキいいいック!!」
「うああっ!」
受け止める剣ごとレイシアナを蹴りつけ、大きく吹き飛ばす。
魔力の籠ったキックだ。身体の内側までダメージが響いているだろう。
レイシアナはフィールドの端でなんとか止まるも、片膝をついてその場にうずくまった。肩で息をして、なかなか立ち上がれない様子だ。
「……はあっ、はあっ。……剣霊なしで、ここまで差があるなんて……」
苦い表情を浮かべるレイシアナ。
もうそろそろ体力も魔力も限界だろう。なんだか申し訳ない気がするけど、彼女のためにもここいらで決着を……、と思ったその時。
「……もっとよ。……黄金剣フォルトゥナよ、もっと私に力を寄こしなさい!!」
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
レイシアナの言葉と共鳴するように金狼が吠えた。
それと同時に彼女の身体が黄金の炎に包まれ、魔力が爆発的に上昇する。
「あ、あああ、あああああああああああああっ……!」
レイシアナからうめく様な声が漏れる。
これは……、あの狼からレイシアナへ魔力が移動している、のか?
しばらく様子見をしていると、彼女にまとわりついていた金色の炎は次第に小さくなっていった。
しかしそこに立っていた彼女は、なにか異様だった。
目を血走らせ、口からはよだれが垂れ、身をかがめてこちらを睨んでいる。
その姿はまるで……。
「ガアアアアッ!!」
「……なにッ!?」
まばたきの瞬間に彼女は一気にこちらに迫り、剣を振るった。
ギリギリでそれを受け止めるも、威力を殺しきれず後ろへ飛ばされる。
速く、重い一撃。
しかしそれは剣術と呼べるものではなく、子供が木の棒を振り回すような、そんな力任せの暴力だった。
「グルルルル……」
レイシアナは低く喉を鳴らし、こちらを凝視している。
そうだ。
それはまるで、獲物を前にした獣のようだった。
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