第5話 最終試験
キリヴァリエの街にある宿で二週間を過ごした後、俺は言われた通りキリヴァリエ魔剣士学園へと向かう。
学園へ近づくと、俺と同じ受験者らしき人たちの姿がちらほらと見え始める。
いや~、いよいよって感じがするなあ。高校受験の時を思い出して緊張してきた。
「おはようございます。校舎の東にある実践訓練場に対戦表が張り出されておりますので、それをご確認の上、試験開始までお待ちください」
受付に行くとそんなことを言われた。
対戦表……ということは、最終試験は例年通り受験者同士の摸擬戦ということだろうか?
〇
言われた通りに実践訓練場というところに向かうと、既に何人かの受験生と思われる人が集まっていた。
その視線の先には、掲示板に張り出された紙がある。
あれが対戦表のようだ。
俺も近づいてそれを見てみると、どうやらリーグ戦でもトーナメント戦でもなく、選ばれた一人と試合をするだけみたいだ。
そして、気になる俺の対戦相手は……。
「……コロビー・オチール」
コロビ・オチル……、転び落ちる……。
なんだろう……。受験においてこれ以上ないほど最悪な名前だな。
まあ、異世界で現代日本のジンクスが当てはまるとは思わないけど……。
「おや?もしかしてキミが僕の対戦相手のアン・ノウンくんかな?」
隣にいた男が言葉をかけてきた。
見ると、金髪でスラッとした高身長の男が俺を見下ろしていた。
受験本番ということで気合を入れてきたのか、白いタキシードのような服を着ている。腰にぶら下げている剣は大粒の宝石で彩られており、十中八九、お金持ちの人だろう。
「……ああ、そのようだな」
俺が答えると、男はニンマリと笑った。
「いやあ~!そうかそうか、それはよかった!僕ってばツイてるなあ~!どうやら楽に試験を突破できそうだ!!」
「…………なに?」
コロビーは悪意を隠す気もなく言葉を続ける。
「ああ、すまない!本人の前でこんなことを言うのは失礼だとは分かっているけれど、君の姿を見ているとどうしても我慢することができなくなってしまって!だってそうだろう?この名門であるキリヴァリエ魔剣士学園を受験するものとして、キミの格好はあまりにも相応しくないんだもの!」
「…………」
コロビーはわざと他の連中にも聞こえるような大声で言った。
いや、言いたいことは分かる。そりゃあコロビーと俺を見比べてみると、今の俺の姿は悲しくなるほどみすぼらしい。
だからここは、怒りをぐっとこらえて大人の対応を……。
「それに、なんだい君のその魔剣は!まるで田舎の武器商店で一番安いものを購入したみたいじゃないか!加えて、申し訳程度に施された装飾がより一層チープさを際立たせているね!!」
「……………………コロス」
殺す殺す殺す!決めた、ぜーったいぶっ殺してやる、このガキ!!
完膚なきまでに叩き潰して、二度と剣を握れないようにしてやる!!
俺が内心で憤怒の炎を燃え上がらせていたその時、後方から凛とした声が響いた。
「対戦相手を確認したものは早く対戦表に記された順番通りに整列しろ!これより最終試験の試験の詳しい内容を説明する!」
声の主は鎧に身を包んだ女性だった。
口ぶりから察するに最終試験の試験官だろう。
「僕たちも列に並んだ方がいいみたいだね。それじゃあアン・ノウンくん、お互い悔いの残らない戦いをしよう!」
演技めいた微笑みを浮かべてコロビーは移動を始めた。
ああ、そうだなコロビーよ。
悔いどころか跡形も残らない戦いをしようじゃないか。
〇
「よし、全員揃ったようだな。それではこれより最終試験の説明を始める!」
整列した受験生の前で試験官が言った。
受験生たちの表情に一気に緊張が走る。
「本日の試験は、例年通り一対一の模擬戦にて執り行う」
試験官は淡々と言葉を続ける。
なんだ、試験内容は当日まで明かされないとか言っておいて、結局は例年と同じなのかよ。どんな試験になるのか少し楽しみにしていただけに残念だ、と思っていたのだが試験官の説明はまだ終わっていなかった。
「しかし!今年度は例年の模擬戦に新しいルールを一つ付け加えることとなった!」
……お?意外な展開だな。一体どんなルールが……。
「そのルールとは、対戦者と自分の持つ魔剣を交換して模擬戦に臨んでもらう、というものだ!」
試験官が堂々と言い切った途端、受験生たちがざわつき始めた。
対戦者と魔剣を交換して戦う。確かに、みんなが動揺するのも仕方がない。
全員が使い慣れていない武器で戦うことになるのだから、そりゃあ不安だろう。
しかも名門学園の最終試験でとなると、ますますプレッシャーがかかるというものだ。
「静粛に!!……まあ、貴様らが驚くのも無理はないだろう。だが覚えておけ!実戦の場では常に自身の想定通りの状況で戦えるわけではない!特に、近年は自分の持つ魔剣の力に頼り切った戦い方する者が多かったのでな。今年の試験では貴様らの柔軟性や応用力を測らせてもらう!!」
なるほど。そう言われるとなんだか理屈が通っているように思える。
「……そんなっ……この僕があの安っぽい魔剣で戦わなければならない……だと……!?」
ふと隣からそんな声が聞こえてきた。
俺の横に並んでいたコロビー・オチールくんが引きつった顔で、小さく震えていたのだ。
…………そんなに嫌?
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