第4話 キリヴァリエ

 俺が拠点にしていた町からキリヴァリエ魔剣士学園までは馬車で一週間ほどかかった。


 馬車の御者の話によると、大陸の東に位置するキリヴァリエは広大な土地を有する自治区であり、学園でありながらも一つの国家のような位置づけになっているらしい。


 到着後、馬車を降りて街を散策してみたがすごく活気があるのが分かった。

 大通りにはたくさんの商店が並んでいて、多くの人々が行き交っている。


 異世界転生ものによくある中世ヨーロッパ風というよりも、現代ヨーロッパ風と言ってもいいほど、綺麗に整備された街だった。……まあ、生前に現代ヨーロッパを訪れたことはないので、俺の勝手なイメージだけど……。


 街の中心に向かっていると、巨大な塔のような建物が見えてきた。

 どうやら、あれがキリヴァリエ魔剣士学園のシンボルらしい。


 ……なんか、めちゃくちゃ緊張してきたな。


 〇


「はい、特別推薦の方ですね。本日はお越しくださりありがとうございます」


 事務員のお姉さんが丁寧にお辞儀をする。

 俺は校内の窓口的なところで、さっそく手続きを始めることとなった。


 さすがに校舎に入ると周りはキリヴァリエの学生ばかりになり、みんなが高級感のある紺色を基調とした制服を着ている中で、一人薄汚れた黒のマントを羽織っている俺は明らかに浮いていた。

 いくつもの視線がチラチラとこちらに向けられているのが分かる。


「では、基本的な情報を登録しますので、改めてお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 そう言ってお姉さんはペンと紙を用意した。


「…………名前、か。そんなものは遥か昔に失った。……だが便宜上は……アン・ノウン、と名乗っている……」


「アン・ノウン様、ですね。ご出身はどちらですか?」


「…………。……故郷の村は焼かれたよ。とある組織の手によってな……」


「そうですか。次に家族構成は……」


「…………」


 ダメだこの人!リアクションが薄すぎる!

 これだけの厨二発言を聞いて眉一つ動かさないなんて、言ってるこっちが恥ずかしくなってきた……。

 さすが世界一の魔剣士学園……。ただの受付でさえここまで手強いとは……!


 以降俺は、お姉さんの質問に厨二的な内容を交えることなく淡々と答えた。

 これは敗北ではない。多忙であろうお姉さんの時間を奪わないよう、親切心から配慮をしてあげただけである。


「……それでは、アン・ノウン様は特別推薦者でございますので、入学試験の一次試験と二次試験が免除となり、最終試験のみ受験していただくことになります」


「……なに?俺も試験を受けるのか?」


「はい」


 これは予想外だった。

 特別推薦というぐらいだから、既に入学が決定しているものだと思っていたけれど。そう簡単に入学させるつもりはないということか。


「……それで、最終試験というのはどういう試験なんだ?」


 俺がそう尋ねると、お姉さんは機械のような口調で答えた。


「申し訳ございませんが、最終試験の内容は試験当日までお伝えすることはできません。……ですが、例年の傾向ですと自身の魔剣を用いて他の受験者と模擬戦を行うことが多いですね」


「……ほう」


 実際に魔剣を使って戦うのか。それも他の受験者を相手に……。

 ライバルを物理的に蹴落さなきゃならないなんて、結構エグい試験方法だなあ。


 ……俺も他人事じゃないんだけれど。


「あくまでも近年の傾向ですので、そこはご了承ください。最終試験は今日から二週間後となりますので、こちらの受験票をお持ちの上、記載されている時刻に学園へお越しください」


「……承知した」


 俺はお姉さんから諸々の書類を受け取ると、そのまま学園の外へ出た。


 ……実は、校内に入ってからずっと何者か一人の視線を感じていたのだが、学外へ出るとそれも消えたので今は放って置くことにしよう。

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